スキャン 1

 第5回の改善政策の発表から二日後、朝からテレビでは同じ内容のニュースが流れ続けている。今日の正午、国民の健康状態が宇宙人のスキャナーによってスキャンされるらしい。


 健康状態に問題のない高校生の僕らは、このスキャンには引っかからないと思う。

 だが、高年齢の多い会社や施設では大変な事になるかもしれない。




 いつもの通り、授業を受け、僕らは雑談しながら昼食を取る。


 僕らはスキャンには引っかからないと思っているが、可能性はゼロではない。知らない病名が告知されてしまうかもしれない。

 そんな緊張している僕らをジミ子はからかう。


「どうする? この中で『不治の病』とか、ヤバめの病気の人が出たら?」


 恐ろしい事を言うが、ミサキが上手く切り返した。


「宇宙人は『ほとんど治らない病気は無い』って言ってたよ」


 たしかに宇宙人は、そう言っていた。ジミ子の脅しは失敗に終わる。



「そういや、治らない病気ってなんだろ?」


 ヤン太が不思議に思う。

「そういや、治らない病気ってなんだろ?」


 ヤン太が不思議に思う。

 すると、キングがどんな病気が治療不可能なのか調べてくれる。


「ちょっとsearch検索してみるか…… お、あった厚生労働省が発表してるぜ」


「どんな病気が治療不可能なんだ?」


 ヤン太を初めとして、僕ら一同はキングのスマフォをのぞき込んだ。

 そこにはこんな病名が並んでいた。


『アルコール依存症』『ギャンブル依存症』『たばこ依存症』……


「「「…………」」」


 僕らは沈黙した。


 しばらく時間をおいて、ミサキがポツリと言う。


「うん、これは無理だよね」


「そうだね、これは無理そうだね」


 僕が返事をする。

 たしかに、これはどんな科学力を駆使しようとも、何とかなる物ではなさそうだ。



 時刻はあっという間に過ぎ正午の10分前を迎えた。

 テレビでは特番が始まり、好感度の高い春藤はるふじアナウンサーが映った。


「時刻はただいま11時50分、間もなくプレアデス星団の健康診断が実施されます。

 車などの運転中ではないお手すきの方は、情報の表示するため『プレアデススクリーン オン』と、画面の呼び出しをお願いします」


 運転などしてない僕らは、次々と画面を表示させる。


 春藤アナウンサーの説明は続く、


「健康診断でもし問題がある場合は、このように画面が赤く点滅し、大まかな症状が文字で表示されます。

さらに文字の部分をタッチして頂くと、詳細な症状が説明されます」


 テレビでは分かりやすく画像が出て、事細かく説明がされる。


「命に関わる場合は、治療の為に拉致らちされる可能性がありますが、その他の人は病院に出向いて下さい。

 一部、経済状態が困窮こんきゅうしている国では治療が無料の地区がありますが、我が国は当てはまっておりません。ただ、治療には国民保険などは適用されるので、その点は安心して下さい」


 一通り、説明が終わると、時刻は11時59分。

 テレビでカウントダウンが始まる。


「5、4、3、2、1、はい、終わりました」


 身構えていたのだが、知らないうちにスキャンは終わってしまったらしい。

 僕はあわてて自分のスクリーンを見る。


 するとそこには、


『健康状態、異常なし。経過観察、不必要』との文字が出ていた。

 一安心する。やはり治療が出来ると言われても病気は嫌なものだ。


 僕がほっとしていると、遠くの方で声が上がった。


「おれ、引っかかったわ」


 そちらを振り向くと、健康診断に引っかかっている人が居た。

 一体、どんな症状なのだろうか……


「虫歯だってよ」


 その人は周りに愚痴を言っている。

 どうやら、大したことはなさそうだ。



 友人の中で引っかかった人が居ないかと確認しようとしたら、隣のヤン太から声が上がった。


「俺は重度だ」


「えっ、どんな病気なの」


 僕は驚きを隠せない。ヤン太が重度の病気だったなんて……


「重度の虫歯らしい……」


 ヤン太がそう言うと、ミサキが少しあきれた様子で言い放つ。


「ああ、うん、歯医者に行こうね」


 特に他に声は上がってこない。

 まあ、高校生がかかる病気なんて、こんな物だろう。


 そう思っていたら、ジミ子の画面が赤く点滅をして、本人は固まっている。


 その画面には衝撃の『視覚障害者』という文字があった。


 もしかしたらジミ子は障害を持っていて、僕らに隠し通していたのだろうか……

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