制服とスカート 2

 ミサキが「男子の制服を着てみたい」と言い出した。

 最近、男性の制服が廃止されている。それば僕の高校も同じようで、これからは女子の制服しかなくなるようだ。

 ミサキはたぶんスマフォで撮影をしたいのだろう。



 背丈が近い僕は「試しに袖を通してみる」と言うと、ミサキは


「上着だけではなく、できればズボンもはいてみたいから、こんど行くね」

 と言ってきた。


 ミサキと僕の家は3軒ほどしか離れていない。


「気が向いたら、いつでも来ていいよ」


 制服の話題は軽く流して、その日は解散した。



 翌朝、朝早くに家のチャイムが鳴る。僕はまだベットの中だ。


 遠くで「はーい、今出ます」と姉ちゃんの声が聞こえた。


 こんな朝早くに誰だろう?


 そう思いながら、僕は睡眠と覚醒の間を行き来する。



 やがて目覚ましが鳴り、僕は強制的に起こされた。


 いつも通り、銀色の月を一通り眺めた後、顔を洗い、朝食を取り、歯を磨く。

 そして身支度をしようと制服に手を伸ばそうとした時だ。肝心の制服が無い。

 いや、有ることにはあるんだが、それは女子の制服だった。


「なんだ、これ?」


 そういうと、洗面所の奥から姉ちゃんが顔を出しながらこう言った。


「それミサキちゃんの。『今日はそれを着て』だってさ」


「えっ、僕の制服は?」


「ミサキちゃんが持って行ったよ」


「……姉ちゃん、なんで止めてくれないの?」


「だって、『約束した』って言ってたよ」


 確かに『いつでもいいよ』とは言ってしまったが……



「……まあ、たしかにそうは言ったけど」


「言ったんならしょうがないね。ほら、遅刻するよ。ミサキちゃんは家で待っているって」


「あ、ええと……」


「女子の制服の付け方が分からないなら姉ちゃんがやってやるよ」


「いや、僕は……」


「そんなに嫌なら、ミサキちゃんの家でまた制服を交換すれば良いじゃない」


 珍しく姉ちゃんが良いアイデアを出してきた。

 たしかにその方法しかなさそうだ。

 時計をみる。着替えの時間を考慮すると、あまり猶予ゆうよが無い、僕は姉ちゃんに手を貸してもらう事にした。


「急いで着替えをするから手伝ってよ」


「分かったわ。ほら、スカートはこうやって着けるんだよ」


 こうして僕は女子の制服を着せられてしまった。




 僕は女子の制服を着けて3軒隣のミサキの家のチャイムを押す。

 わずか3軒あまりの距離なのだが、こんな姿を誰かに見られないかとドキドキが止まらない。

 特に恥ずかしいのはスカートだ。これでは下着が見えてしまう。


 あまりに無防備なので、僕はジャージの下をはいていこうとしたら、姉ちゃんに怒られた。


 「スカートはいていて、下にジャージ履いている女子を見かけたことある?」


 と問いただされた。

 たしかにそんな姿で外を歩いている女子は見かけた事は無い。


 姉に背中を押されて外に出てしまったが、これなら下にジャージを履いて出てきたほうが良かったかもしれない。



 チャイムをおしてしばらくすると


「はーい、入って良いよ」


 とミサキの声が聞こえてきた。僕はすぐさま駆け込む。

 するとそこには僕の制服をきたミサキが居た。


「どうよ」


 学ランに身を包み、ドヤ顔を決めてくるミサキ。


「どうよじゃないよ、すぐに制服を元に戻そうよ」


「ここの部分がよく分からないのね」


 ミサキがえりの部分を指さしながら言った。

 カラーの部分がよく分からないらしい、止まっていない。僕はとりあえず止めてやる。


「これで満足でしょ、さあ、制服を」


「まだ写真を撮ってないよ」


「あー、もう。じゃあ撮ってあげるから、スマフォを貸して」


 ミサキのスマフォを借りると、僕はすぐさまシャッターを押す。


「いや、ちょっとまって。ボーズとらせてよ」


 こうしてミサキの撮影会が始まった。



 写真は1~2枚とれば満足するかと思っていたのだが、違った。

 ポーズを変えながら10枚以上の撮影に及ぶ。


 一枚あたり時間は20秒も掛かっていないと思うが、えらく時間が長く感じた。

 そして撮影が終わり、僕が


「これでいいでしょ、着替えよう」


 そう言うと、ミサキは時計をチラリとみて、僕の横をすり抜けて外へと飛び出していく。


「ほら、もう遅刻するよ。早く早く」


「えっちょっと待って」


 僕はミサキの後を追うように、外へ引きずり出されてしまった。

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