制服とスカート 3

 僕は女子の制服姿で外へ連れ出されてしまった。


 ミサキは僕の手を取り、どんどん学校へと向かう。


「ちょっと、ミサキ。このままの格好はおかしいって……」


「大丈夫だよ、みんな気にしてないよ」


 人目がきになり、僕は周りを見渡す。

 たしかにミサキの言っているように、他の通勤、通学途中の人たちは僕らの事をまるで見ていない。

 朝の時間は忙しく、余計な事に目をくれる暇もないのだろう。


 でも、こんな所を同級生にでも見られたら、なんと言い訳すればいいのだろうか……



 伏し目がちでミサキの後をついて行くと、突然、立ち止まった。


靴紐くつひもがほどけちゃった。先行ってて、すぐに追いつくから」


「えっ、でも……」


「時間が無いから早く、遅刻ギリギリだよ」


「分かった、じゃあ先に行ってるね」


 僕は一人で歩き出す。



 しかし、どうしよう。

 もし、この格好を見られたら、なんと言い訳をすればいいのだろうか……


 そんな事を考えながら歩いていたら、人とぶつかってしまった。


「あっ、すいません」


「大丈夫? 気をつけてよ」


 相手はうちの学校の制服を着ていた。どうやら上級生っぽい。


 軽い会釈をして、その場を立ち去ろうとした時だ。

 思わぬ声を掛けられた。


「その制服、同じ高校だよね、君、カワイイね。何年何組?」


「えっ? 僕はその……」


「彼氏とか居るの? 教えてよ」


 なんだ、この状況は?

 もしかして元男子からナンパされてる?


「いや、ちょっと待って下さい。僕は元男です」


「またまた、女子の制服着てるし、そんなにカワイイ子がそんな訳ないじゃない」


 ヤバい、なんだこの状況。

 僕はどう説明すればいいんだ。



 僕がどうしていいのか分からず固まっていたら、後ろからヤン太の声が聞こえてきた。


「おぅ、困ってんじゃねーか、やめてやれよ」


「ヤベェ、ヤン太だ」


 そう言うと、上級生は一目散いちもくさんに逃げていった。

 たすかった。ヤン太のおかげで危機的状況を脱する事ができた。

 本当にたすかった。


「ありがとう、ヤン太、助かったよ」


 その声を受けて、ヤン太が目を丸くしながら、


「えっ、ツカサ? なんでそんな格好を?」


 ……僕の危機的状況は全然脱出していなかった。

 むしろ知り合いにバレてしまったので、さらに悪化したかもしれない。



「あぁぁ、これはその……。ミサキが無理矢理と言いますか……」


 僕の必死の言い訳をみて、ヤン太が不適な笑みを浮かべる。


「いやぁぁぁ、違うんだ。だからこれは……」


 僕が言葉に詰まっていると、後ろからミサキが追いついた。


「おはよう、ヤン太、どうしたの?」


「どうしたのって、お前らがどうしたんだよ」


 ヤン太はニヤニヤしながら言う。

 ミサキの様子から、状況は分かっていそうなのだが、あえて楽しんでるのだろう。


「制服を交換してみたの、どう、たまにはいいでしょ」


 ミサキがマッチョな男性がやりそうなポーズを取りながら、楽しそうに言う。

 僕はそんなミサキに文句を言う。


「たまにはって、またやる気なの?」


「うん。たまにはいいでしょ」


「もうこれで止めてよ」


「大丈夫、ツカサは女子の制服似合ってるって」


 いや、問題はそこじゃない。

 あきれているとヤン太が先ほどの出来事をミサキに話し出した。


「そういえば、さっきツカサがナンパされてたぜ」


「えっ、どういうこと」


 ミサキが驚く。


「なんかそんな感じの事いわれた」


 僕がそういうと、ミサキが凄い剣幕で問い詰める。


「なんて言われたの!」


「ええと、『どこの組に居るの?』ととか、『カワイイ』とか」


「はあぁぁ、私、今まで生きてきて一度もナンパされたこと無いんですけど!」


 ミサキが切れた。まあ、正確にいうと切れる寸前だ。

 怒りをあらわにしている。こうなったミサキは怖い。

 できるだけ当たりさわりの無い返事をする。


「あ、うん。そうなんだ」


「あんなちょっとだけの時間にナンパされるってどういう訳?」


「いま、まあ。たまたまだよ運が悪かったと言おうか……」


 困っている僕にヤン太が助け船を出してくれた。


「ほら、遅刻するぜ。急いで歩こう」


 僕らは再び歩き出す。しかしミサキのほっぺたは膨れたままだ。


 できれば授業が始まる前にトイレで着替えをして貰いたかったが、とてもそんな事を言う雰囲気では無くなってしまった。



 しかし、この格好は落ち着かない。

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