制服とスカート 1

 学校の昼休み、改善政策の発表が無い普通の日。

 僕たちは学校のテレビを見ながら食事をしていた。



 するとこんなニュースが流れてきた。


「地方銀行のスガル銀行の元男性用制服の廃止がきまりました。

 来月からは今まで女性用となっていた制服を全面的に採用するようです」



 ミサキがこのニュースを見ながら、なんとなく話す。


「スガル銀行も廃止か、この前どこかでも廃止とか言ってなかったっけ?」


「マシダ自動車じゃなかったっけな?」


 僕が答える。するとジミ子がこう付け足す。


「牛丼チェーンの喜野家も廃止とか言ってた」



「最近多いな、そういうニュース」


 ヤン太が素直な感想をもらす。すると、


「男女間の制服の統一をヤルとtax税金が割引されるようだぜ」


 キングがスマフォでニュースを見ながらそういった。


「どのくらい安くなるの?」


 僕がキングに聞くと、


「『納める税の0.06%が軽減』らしいぜ」


 詳しい内容を教えてくれた。ジミ子が言う、


「あんまり変わらないね」


 それにキングが答える。


「まあ、そうだな100万円が99万9千400円になるだけだからな」


 100万円で600円しか違わないのか、極めて微妙な差だ。

 そのくらいの税金だったら、なんとか会社側で負担してもらって踏みとどまって欲しい。


 なぜなら、仮に僕がその会社の社員だとしたら、制服の変更を強いられる事になる。つまりズボンからスカートへ履き替える事となるだろう。


「制服を女性側に変更したら、スカートはかなきゃならないのかな……」


 僕がつぶやくと、ミサキが茶化してきた。


「なに? スカートはいてみたいの?」


「はきたくないよ」


 僕が否定すると、ジミ子が質問してきた。


「ツカサはスカートはいたことないの?」


「無いよ、普通ははかない」


 僕の答えに、ヤン太とキングも首を縦に振る。

 あえてスカートをはく元男子はいないだろう。


 ためしに自分のスカートをはいた姿を想像してみる。

 ……想像できなかった、どういう構造なのか、はき方とかがまったく分からない。



 変な事を考えていたら、突然、ヤン太が話しを切り出した。


「そういや思い出した。妹がたしか『来年からうちの高校の制服から学ランがなくなるらしい』とか言っていた。まあ俺たちは変わりないからよかったけどな……」


「危なかった。僕たちも学年が一つずれていたら女子の制服だったかもしれないね」


 僕が相づちを打つ。


「そういえば男女間の差が無くなったから、逆はできないのかな?」


 ミサキが突然訳の分からない事を言い出した。僕が詳しく聞き出す。


「どういう事?」


「私が男子の制服を着るっていうこと。」


「たしかに、男女間の差別が無くなったはずだから、そういった事もできるだろうけど……」


「一度、ズボンで過ごしてみたいんだよね。らくそうだし」


 やっぱりスカートは大変なのか……

 確かに、あれは気をつけて動かないと、見えてしまいそうで怖い。



「ところで男子の制服っていくらくらいなの?」


 ジミ子に質問されるが、僕たちは答えられない。

 制服は親が用意してくれたもので、値段など知らないからだ。


「ちょっとsearch検索してみるか」


 キングがスマートフォンで調べると、すぐにうちの高校と制服と同じものを探し当てた。


「……金額は分からない」


 そういって僕らにスマフォを見せる。

 画面の男性用の制服の値段の表示が『売り切れ』になっていた。


「標準価格くらい、商品の『詳細画面』に載ってるんじゃねーの」


 ヤン太がそう言って、学ランの画像をクリックすると。

 そこには衝撃の事実が書かれている。


『この商品は廃番になりました、こちらの商品を代わりにご購入して下さい』


 さらに『代わり』の商品のリンクをたどると、女子用の制服にたどり着く。

 僕たちの男性用の制服は、いつの間にか生産廃止になっていた……



「こりゃ、もう替えが効かないな」


「今着ている制服のsizeサイズがあわなくなったらoutアウトだな」


 ヤン太とキングの言うとおりだ、僕たちには今の制服しか残されていない。

 もし、成長して大きくなると、着られなくなる可能性もある。



 このスマフォの画面を見ながら、ミサキがとても残念そうに言う。


「そうか、買えないとなるとちょっと残念だな。ためしに一度、袖を通してみたかったな」


 今の僕はミサキは大して背の高さが変わらない。

 おそらく僕の制服はミサキにも着れるはずだ。


 そこでちょっとした提案をしてみた。


「袖を通すぐらいだったら良いよ、試しに着てみる」


「うん、じゃあお願いね」


 ミサキは笑顔で気持ちの良い返事をしてきた。

 このとき、僕はミサキの行動力を甘く見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る