ステータス スクリーン 2

 教室でのヤン太の髪の色の変更が終わり、僕らはいつものようにハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥで雑談をしようと移動を開始した時だ。


 学校の廊下でクラスメイトの鈴木すずきさんとすれ違う。


 だが、鈴木さんはいつもと大きく違っていた。

 白い、白すぎる。その白さは女性の能面ような白さをしていた。


 僕はすれ違った後に振り返って二度見をしてしまった。

 それほどまでに異様に白かったのだ。



 考えられる理由は二つ。

 一つ目は化粧だ、『おしろい』のようなキツいファンデーションを塗ったのかもしれない。

 二つ目は例の宇宙人の肌の色などを変えるシステムをもう使ってしまったという事だ。


 肌の色が変わったタイミングからみて、おそらく二つ目の理由だろう。

 鈴木さんの肌色の変更は、顔だけではなく手や足にまで及んでいたので間違いないと思う。



 鈴木さんは宇宙人のテクノロジーの使用に踏み切ったらしい。

 このテクノロジーは、ヤン太も使用していたが、僕ら元男子には、一度、強制的に使用された経験がある。

 女性にはこういった経緯が無いはずだが、全く未知の抵抗のようなモノはないのだろうか?


 そんな事を思いながら校舎内を移動していると、どうしても他人の肌色がきになってしまう。

 すれ違う人を次々を観察するのだが、気のせいだろうか、みんなの肌色がどことなく白い気がした。



 メェクドナルドゥに移動して、席を確保すると、僕はさっそく疑問を投げかける。


「うちのクラスの女子、色白になっていない?」


 ヤン太が答える

「鈴木だろ? 白くなったの」


 するとジミ子とキングも口を開いた。


「あれはやり過ぎだね」


ghostゴーストかと思ったぜ」


 やっぱりみんな気がついていたようだ

 気がついた上で、あえてその話題に触れないでいたらしい。


 まあ、僕もあの場では言い出せなかった訳だけど……



 僕は話題を続ける。


「ああ、うん。鈴木さんはもちろんそうだけど、気にしてみると全体的に女子が色白になった気がして」


「どうだろ? あまり気にしてなかったな」


 ヤン太があごに手を添えて、考えている。

 ミサキが少し遠慮がちに発言する。


「あのシステム、女子の間では話題になっていたよ。けっこうな人たちがトイレでいじってた」


 男女の差別が無くなったあの日以来、僕ら元男子は女子トイレを使えるようになったが、やはりどうも抵抗がある。緊急事態以外は女子トイレには近づかない人がほとんどだ。


 一度、僕も仕方なく女子トイレに入った事がある。

 そして女子トイレで女子っぽい会話を聞いたのだが、暗号だった。


 彼女らの会話は、訳の分からない単語がポンポン出てくる。

 話の流れから推測すると、どうやら服のメーカーだったり、化粧品だったりするようだ。


 これを端から聞いていた僕には、宇宙人の翻訳機が必要だと真剣に思った。



 しかし、そうか……

 女子トイレの世界では、今週の改善政策の内容は、そんな事になっていたのか……


「ところでミサキはいじったの?」


 僕が質問を投げかけると、


「私はいじってないよ」


 と否定した。案外、ミサキは保守的なのかもしれない。



 ジミ子がヤン太に質問をする。


「宇宙人は『もとの色に戻せるようにする』って言ってたけど、どうするんだろ?」


「そうだな、ちょっと画面を見てみるか『プレアデススクリーン オン』」


 ヤン太がスクリーンを呼び出し、髪の毛の色の項目を選択すると、変更色のリストの一番うえに『遺伝的初期カラーに戻す』というボタンが付いていた。


「これだな、変更すると分かるようになるな」


「なるほど、この画面を見ると直ぐに分かるわけだね」


 この会話を聞いてみたミサキの様子がどうもおかしい?

 僕はミサキにカマをかける。


「一度、いじるとバレるみたいだね~」


「ああ、うん、そうねー、バレるみたいだねー」


 この様子だと家に帰ってからいじってみる予定だったのだろう……


 女子は、この手の美容に関する事には抵抗が少ないのかもしれない。

 そういえば過去に姉ちゃんも変な機械を買っていた気がする……



 こやり取りを見ていたジミ子が不適な笑みを浮かべながら、こう言った。


「今のうちだけかもしれないから、楽しんだ方がいいかもしれないよ」


「それってどういう意味だよ?」


 ヤン太がそう聞くと、ジミ子はその理由を教えてくれた。


「ヤン太、宇宙人のもう一つのアイデア憶えてる?」


「ああ、肌を緑色で統一ってやつだろ? ありえないよな」


 ……すまないヤン太。そのありえないアイデアを思いついたのは姉ちゃんだ。

 そして緑色という最悪の色を選んでしまったのは、この僕だ。



 僕の内心はさておき、ジミ子は解説を続けた。


「改善政策の発表の後の宇宙人のセリフ憶えてる? 

 『これで肌の色による差別が無くならなかったら、全員黄緑色』ってヤツ」


「「「…………」」」」


 この発言には、ここにいる全員が反応できなかった。

 そうだ、そんな事を宇宙人は確かに言っていた。

 あのとき、肌の色が選択できる案が採用され。僕はとても興奮していた。

 ジミ子に指摘されるまで、すっかり忘れていた……



「ヤバイな」「まずいわね」「Shit!くそったれ


「ああ、うんちょっとこれからどうなるかニュースサイトでも見てみない?」


 僕は思いっきり話題をそらす。


 各自がスマフォを取り出し、それぞれお気に入りのニュースサイトを覗く。


 記事のタイトルの一覧を眺めていたら、ちょうど話題のニュースがあった。


『HHH、緊急声明を発表!』


 HHHとは『白人、博愛はくあい覇権はけん主義者』たちの集まりで、人種差別などで何かと問題を起こす団体だ。これは嫌な予感しかしない。


 僕が記事のタイトルを見つけて、中身を見るか躊躇ちゅうちょしていたら、隣のミサキが、


「これ、ちょうどタイミングの良いニュースだよね」


 といいながら、リンク先をタッチする。


 ……僕は正直見たくないのだが、ここにいる全員が僕のスマフォに注目している。

 どんな記事がでてきてしまうのだろうか。



 しばらくするとHHHの発表された声明が表示される。

 その内容は、


『肌色の変更が出来るようになったので、我が団体の趣旨は意味が無くなりました。

 やっぱり肌の色で差別なんてよくないよね、これからは仲良く行こうぜ!』


 ……おれてる。ポッキリと主張が。

 けっこう歴史のある団体のはずだが、あっさりと手のひらを返してきた。

 やはり肌色が黄緑色はみんな絶対に嫌らしい。


 僕たちは一安心して、この日はくだらない雑談をして解散となった。



 こういった差別をしてきた人々の内心ではまだ無くならないと思うが、この日を境にこういった話は一切聞こえてこなくなった。

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