ステータス スクリーン 1

 第三回の政策発表を終えて、僕らはゆっくりとした午後の授業を受ける。

 今週はとても平和だ。いつもこのような平穏な時間を楽しめると良いのだが……


 そんな事を考えていたら宇宙人の顔が脳裏に浮かぶ。ちょっと難しいかもしれない……



 午後の授業を経て、僕らは放課後に入った。

 ヤン太が、教室であの画面を呼び出して見るらしい。


「プレアデススクリーン オン」


 するとアンケートで使用する光のスクリーンが現れた。

 画面の右上には、『ステータス』と表示がある。

 ヤン太は躊躇ちゅうちょ無く、そのボタンを押した。


 すると全身像が現れる。その姿はもちろんヤン太だ。いつのまにかスキャンされていたらしい。


Gameゲーム画面まんまだな」


 キングがつぶやく、たしかにその通りだ、この画面はまるでゲームのキャラクター作成時のそれに酷似していた。



「まあ、そのまんまだな、これは」


 ヤン太がそう言いながら、『髪の毛の色の変更』ボタンを押す。

 すると黒、茶色、赤茶色、金色、などといった髪の毛におなじみの見本色が現れる。

 見本色の横にはスクロールバーがあり、かなりの種類があるようだ。


「髪の毛の染色代って意外とばかにならないんだぜ」


 どうやら髪の毛の色を変えてしまうらしい。

 宇宙人の技術はちょっと気持ち悪いものがあるが、ヤン太は平気らしい。



 見本色の一覧を見ながら品定めをしている。

 単純に金髪といっても色々なものがある。白っぽい薄い黄色から、真鍮しんちゅうのような茶色に近いものまで。


 ヤン太がすぐに決められずに居ると、それを見ていたミサキがちょっかいを出してきた。


「他にはどんな色があるのかな? 見せてもらってもいい?」


「いいぜ、でもこれ他人にも操作できるのかな?」


「とりあえず試してみましょう」


 そう言ってミサキは横からヤン太のスクリーンを触る。すると問題無く動いた。


「大丈夫みたい、じゃあ見てみましょう」


 ミサキが次から次へと見本色をスクロールさせていく。

 すると、だんだんとんでもない色が出始めた。


 ショッキングピンク、ド派手な紫、そして番組にも出てきた原色の黄緑色。

 たしかに福竹アナウンサーはとんでもない色にされていた。


 この色の変更は、遺伝子レベルの変更と言っていた気がする。染料など人口の塗料を使っていないのだろう。

 ということは、人間はなんらかの突然変異で独自にこの髪色や肌色になっていた可能性も否定できない。


 黄緑色の肌の人間があたりまえの世界。遺伝子のイタズラで、もしかしてそんな世界があったかもしれない……



 ミサキは一通り見ると、操作をヤン太に戻す。


「いやぁ、かなり自由に変更できるね」


「そうだね、ヤン太はどんな色にするの?」


 僕がそう聞くと、


「いつも通りだな、この金色と、そこの金色、どっちが今の色に近い?」


「私は右」「僕も右だと思う」「左かな」「おれはrightだぜ」


 みんなのそれぞれ返事をすると


「じゃあ多数決で右だな」


 そういって右の色を選び、『変更決定』を押した。

 するとどこからともなく、あの銃のような物体が現れ、ヤン太に電撃をお見舞いする。


 僕もあれを喰らった事があるが大したことはない。冬の静電気の方が痛い時があるくらいだ。


 ヤン太がさっそく僕らに質問する。


「どうだ、変わったか?」


「髪の毛だから生えてくるまで分からないよ。時間が掛かるはずだよ」


 僕が冷静に指摘した。


「ああ、まあそうだな」


 と、ヤン太は納得した様子だ。



「肌の色でも変えてみれば、直ぐにわかるよ」


 ジミ子が茶化すが肌色というと先ほどの福竹アナウンサーがよぎる。それはヤン太も同じようだ。


「それは止めておく」


 即決で断った。



 ヤン太が終わると、ミサキが興味をもったようだ。


「私も呼び出して見ようかな『プレアデススクリーン オン』」


 スクリーンを呼び出して、ステータス画面を開いてみる。


 しかし、この画面が音声に反応するという事は、おそらく僕たちは常に監視を受けているようだ。

 あまり気味の良い事ではないが、どうしようもない。あまり気にしないようにしよう。




「ん? なんだろう、これ?」


 画面をいじっていたミサキが何かに気がついて、画面の右下の端の方を指さす。

 そこには5ミリほどのちっちゃなボタンで『能力値【開発中】』とあった。


「能力値って、あれかな。STR筋力 INT知力 DEX器用度 AGIすばやさ とか、ああいうヤツかな?」


 僕がそう言うと、


「いよいよGameゲームっぽくなってきたぜ」


 キングがにやつきながら答えた。

 たしかにステータス画面というと、そういう項目が真っ先に思いつく。


 人間にも体力測定やIQテストのような能力を測る目安もある。

 宇宙人には全世界を同時に盗聴し、世界の半分の性別をたやすく改ざんした処理能力を持っていた。

 その能力を使えば、人間のステータスを割り出す事など簡単だろう。


「じゃあ、さっそく押してみるよ」


 ミサキが好奇心に逆らえず、ボタンを押した。

 はたしてこの画面にはどのような情報が現れるのだろうか?



 そうすると、こんな画面が現れた。


『5段階評価』


  『数学:2』

  『国語:3』

  『体育:5』

  『理科:2』

  『社会:2』

  『英語:2』


 そして指導欄には

  『落ち着きがイマイチありません』


 と書かれていた。


 ……これは宇宙人の技術など全く関係ない、通知表の写しだ。

 たしかに通知表は能力値っぽいところももあるが……


「オフ、オフ。プレアデススクリーンオフ」


 思わぬところで自分の通知表を公開してしまったミサキは、あわてて画面を消す。

 画面は消えたが、僕たちの記憶には2という、赤点ギリギリの数字が多い印象が焼き付いてしまった。

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