第3回目の改善政策 2
福竹アナウンサーの肌の色がみるみるうちに変わっていく。
撮影現場のスタッフが騒ぎ始めた。ざわつく声が入ってくる。
やがて肌の色は見事な緑色へと変わる。
それは蛍光色のようなド派手な黄緑色だ。
この番組の撮影が緑色のクロマキー合成を使用していたセットだったら、今頃福竹アナウンサーは透明人間として消えて無くなっていただろう。
すぐに速報のテロップで、『色がおかしいですが、カメラや映像機器の故障ではありません』と出てきた。
たしかにこの絵面ではテレビの故障を疑ってもおかしくないかもしれない。
現場スタッフの指摘で、福竹アナウンサーが自分の手を見てようやく気がつく。
「え、なんです、これは」
「緑色が好きなんでショ」
「いやぁ、この色はちょっと勘弁してください」
「気に入らないカネ」
「ええ、肌の色としては緑色はどうかと思います」
「ソウカ、今は色素が定着する前だから直ぐに変えられるヨ」
そういうと宇宙人は手で合図をした。また色が変わっていく、今度は青色だ。
その色は『青みがかった』とかいえるような生やさしいものではない。原色のペンキの様な色だった。
宇宙人は堂々と言い切る。
「『顔が青くなる』という言葉があるから、コレなら肌色として適切デショ」
「止めてください、こんな青色だと、普通の時から常に『青ざめて』いる状態になってしまいます」
「デハ、色素が定着する前にマタ変えよう」
ちょっと待てほしい、色素が定着してしまったらどうなるんだ。
もしかしたらあの色で固定されてしまうんだろうか?
「『顔を赤らめる』と言う言葉がアルから、これなら大丈夫デショ」
今度は赤だ、真っ赤だ。宇宙人は原色が好きなのだろうか、同じ赤にしても、もうちょっとマシな選択があっただろう……
福竹アナウンサーはあくまでも冷静に語る。
「肌の色が自由に変えられる事は分かりました、元の色に戻せますか?」
「戻せるヨ、今回は変更する前にちゃんと遺伝子情報を保存して置いたからネ」
宇宙人がまた合図を送ると、瞬時に元の肌色に戻った。
なんだ、この色の変化は遺伝子レベルから変えているのか、だとしたら一生このままになってしまうのか……
「ええと、今週の改善政策は肌の色の変更でしょうか?」
「ソウダネ、肌の色の変化だヨ」
「確認しておきたいのですが、全員が同じ色に変化するのでしょうか、個別に変えられるのでしょうか?」
「個別ダネ、自由に肌の色、髪の色、目の色を変えられるようにするヨ」
た、助かった。
どうやら僕が提案した『個人が自由に色を変えられる』という案が採用されたようだ。
これならば、なんの問題ないだろう。
「どうやって変更するのでしょうか?」
「アンケートを取っている画面からいつでも変えられるヨ。
画面の呼び出しハ『プレアデススクリーン、オン』と言ってみてネ」
福竹アナウンサーが試しにやってみる。
「プレアデススクリーン、オン」
すると、いつもアンケートを取っている画面が現れた。
「右上に『ステータス』とアルから、そこを押してミテ」
「ここですね」
福竹アナウンサーはボタンを押すと、そこには福竹アナウンサーの全身像と、『髪の毛の色』『目の色』『肌の色』といったボタンがある。
「変えたいボタンを押して、色を選択した後に、『決定』を押すと変わるヨ。
『初期設定に戻す』ボタンは、元の遺伝子情報の色に戻すネ」
「なるほど、この画面を消す場合はどうすれば良いのでしょうか?」
「ソノ画面は『プレアデススクリーン、オフ』と言えば消えるヨ」
「わかりました。ところで『色素の定着』とか言っていましたが、副作用のようなものはあるんでしょうか?」
「副作用は無いネ。ただ色を変えて一定時間が経つと色素が定着して、そこから色を戻そうとしても一ヶ月くらいは抜けないから注意してネ」
「了解しました。色を変える時は注意が必要ですね」
なるほど、少し時間は掛かるが、変な色になっても元に戻せるらしい。
……すると福竹アナウンサーは危なかったんじゃないかな、あのまま番組を進行していたら、一ヶ月くらいは緑色の肌色で過ごす事になっていたはずだ。
「アンケートを取るヨ、回答をお願いネ」
宇宙人がそう言うと、例のアンケート画面が現れた。
「1.今週の政策はどうでしたか?『よかった』『悪かった』」
「2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?『支持する』『支持できない』」
僕は、政策は『よかった』、宇宙人は『支持できない』を選択する。
今週は本当によかった。全員が緑色の事態にならなくて本当に助かった。
アンケートの結果は、
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 54%
悪かった 46%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 7%
支持できない 93%』
よかったと悪かったが似たような数字だ。
髪の色、肌の色などは、どうでもいい人が多いのかもしれない。
アンケートを取り終わると、福竹アナウンサーが宇宙人に質問をする。
「ところでなぜ、肌の色を変えようと思ったのですか?」
「この惑星では肌の色で差別があるんでショ、こうすれば差別が無くなるんじゃないカナ」
「なるほど。でも肌の色の問題は以外と深刻で根深いです。今までの歴史もからんできますし一筋縄ではいかないかもしれません」
「そうしたら、黄緑色に統一するネ。これなら問題解決デショ」
「ええと、それは差別が無くならない時ですよね?」
「ソウダネ、現状で差別が無くならない時ダネ」
「分かりました。みなさん肝に銘じておきましょう」
福竹アナウンサーは時計の針をちらりと見る。
「さて、そろそろお時間です」
「デハまた来週、会おうネ」
そういって番組は終わった。
良かった、今週の政策は最高に良かった。
いつもは政策の内容は何もしらないで不安に駆られるが、知っていると倍以上は疲れる。これなら何も知らない方が遙かに楽だった。
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