第3回目の改善政策 1

 時刻は少し早い昼休み。

 なぜいつもより早いかと言えば今日は第3回の改善政策が行なわれるからだ。


 いつもなら何が発表されるかと不安でしょうがないが、今日は違う。僕は発表される改善策の概要を事前に知ってしまっている。それは人類の肌の色に関する改善だ。


 改善策は二つのうちどちらかが採用される。。

 一つ目は自分で肌の色、髪の色、目の色など自由に変えられるようにするという案。

 二つ目は全人類の肌の色を黄緑色に統一するという案だ。


 後者だけは避けたい。絶対に避けたい。


 普通の人間なら後者は選ぶわけがないが、相手は宇宙人だ。

 そして普通の秘書が就いていたら、前者を強く勧めて後者は選ぶわけがないが、秘書はあの姉ちゃんである。

 面白がって勢いで後者を薦めてしまうかもしれない。



 僕は、視線がさだまらず、わき汗が止まらない。

 今日はずっとこの調子だ。


 ミサキやヤン太に何度も

「具合が悪そうだよ」「大丈夫か?」

 と確認された。


 そのたびに「大丈夫だよ」と答えるが、はたしてこの状態は大丈夫なんだろうか?

 自分の体の事だが、自分に自信がもてなくなってきた。



 そして昼休みが終わり、運命の時を迎えた。

 12時になりテレビは『第3回 改善政策施行かいぜんせいさくしこう』とタイトルが映し出される。


 いつものごとく明石市市内の様子が映し出されてから、例の展望台の内部に切り替わり、宇宙人と福竹ふくたけアナウンサーのコンビが登場する。



「みなさまご機嫌はいかがでしょうか。こちら『明石市立天文科学館』です。

 今日もここから『第3回目の改善政策の発表』を、お送りします」


「ヨロシクネ」


「さて、今日はどのような改善を行なうのでしょうか?」


「ところでキミはさ、差別に対してはどう考えているカナ」


「私ですか? そうですね、うちの国はそんな酷い差別は無いと思いますが、まだ世界には弾圧に近いような差別が残っていると思います。なんとかして無くしていきたいですね」


「その考え方ハ、一般的な人間の思考と捉えて構わないヨネ?」


「構わないと思いますよ、みんな『差別は無くすべき』と、思っているはずですよ」


「ソレを聞いて安心したヨ、今日はサ、くだらない差別を一つ無くそうと思っているのヨ」


 福竹アナウンサーの発言を受けて、宇宙人が変なやる気を出してしまっている。

『差別はあった方が良いですよ』とか発言して宇宙人の行動を阻止して欲しかった……



 福竹アナウンサーは僕の気持ちをよそに、淡々と話を続ける。


「くだらないとは、どのような差別です?」


「性差別やセクハラと比べると、トテモ些細ささいでどうでも良い事ダヨ」


「なんでしょう。見当も付きません」


「トコロで、キミはどんな色が好きカナ?」


 宇宙人が唐突に福竹アナウンサーに質問をする。


「私ですか? 私は緑色が好きですかね、心が落ち着きます」


「ソウダヨネ、緑色は落ち着くよネ」


 何言ってんだこの福竹アナウンサーは、余計な事は言わなくていい。

 それによく考えてほしい、緑色なんて最低じゃないか。



「キミは街中が緑であふれたらどう思うネ?」


「良いんじゃないでしょうか、リラックス出来ると思いますし、環境にも良いと思います」


 福竹アナウンサーが言っているしょくぶつと、宇宙人の言っているはだいろは大きく違う!

 ヤバいぞ、気がついてくれ。このままでは良くない方向に行ってしまう。


 僕はますます汗が出てくる。


 クラスを見渡すと、みんな呑気のんきにテレビを見ているだけだ。

 緑色は他人事ではないかもしれないのに、もっと緊張感と危機感をもって欲しい。



 僕は祈るようにテレビを見つめる。するといよいよ宇宙人が動き出した。


「デハそろそろ本題に入ろうか、手始めにキミで実験するヨ」


「またですか?」


 第1回に出てきたL字型の銃のような金属の塊が現れた。

 それを見た福竹アナウンサーは怪訝けげんな表情を浮かべるが、それほど嫌がっていないようだ。

 おそらく安全だと思っているのだろう。


 たしかに体に害はないかもしれないが、これから酷い事になるぞ……


 宇宙人が手で合図をすると、例の金属から電撃が走った。


「ちょっとピリッとします」


「効果が出るまで3分ほどかかるネ」


「分かりました、それでは3分ほどお待ちください」



 徐々に福竹アナウンサーの肌色が緑色へと変わっていく。

 ……これはまずいかもしれない。

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