好きな色

 ある日の昼休み、食事を終えてみんなと雑談をしていた時だ。電話が掛かってきた。スマフォを見ると姉ちゃんからだ。なんの用だろう、僕は電話に出る。


「もしもしツカサだけど」


「弟ちゃん、黄緑と紫とピンク、どれがいい?」


 いきなり何を言っているんだこの姉は?

 わざわざ電話を掛けて聞いてきたが、まあ、どうせたいした事ではないだろう。


 少し考えて思い当たるのは…… 僕の胸サポーターブラジャーの事だろうか?

 あれを装着している時はかなり楽だ。特に体育の授業には欠かせない、必要不可欠と言って良いくらいだ。

 それに、ミサキには着けてないと垂れると脅されている。

 あの日以来、僕は胸サポーターが手放せなくなってしまった……


 僕が家でサポーターの装着に手こずっていた時に、姉ちゃんが冷やかし半分に「新しいのをプレゼントしてあげるよ」とか言ってた気がするから、おそらくそのことだろう。



 僕は姉の質問に適当に答える。


「その中だと黄緑かな。でも派手なやつじゃなくて抑えめの色が好きだよ。萌葱色もえぎいろとか若草色わかくさいろとか、地味目の方が良い」


「なるほどね、じゃあ抑え気味の黄緑って線でチーフにしてみるよ」


 ??? チーフ?

 チーフってあの宇宙人の事だよね。何を言っているんだろうこの姉は?

 これはちょっと詳しく聞いて置いたほうが良いかもしれない。


「ちょっと待って、チーフってあのチーフだよね?」


「そうだよ、そのチーフだよ」


「『黄緑です』ってどういう意味?」


「ああ、肌の色の事」


「肌の色?!」


 思わず声が裏返ってしまった。

 周りのヤン太やミサキが少し心配そうにこちらを眺める。


 電話のマイクの部分を指で押さえて。


「大丈夫だから、心配しないで」


 とりあえず周りを安心させる。



 僕は姉に詳しい話を聞き出す。


「えっと、どういう話でそんな事になってるの?」


「えーとね。たしか次の改善政策のネタを話し合ってる時に

 『この惑星には色々と変わった差別があるヨネ。 出来れば差別は無くして行った方がイイヨネ』とかチーフが言ってたのね」


「うん、それで」


「それで私が『そうですよね、この惑星では肌の色とか目の色、髪の毛の色とかでも差別があるんですよ』って私が言ったのよ」


「……う、うん。まあ確かにあるよね」


「そしたらチーフがさ、『だったら肌の色とか統一しちゃウ?』って言ってきたのね。『良いですね、それ。やっちゃいましょう』って事でこうなった訳よ」



 ……ヤバいぞこれは、適当に答えて良い質問ではなかった。

 しかも僕が選択した黄緑って、肌の色としては最悪じゃないか。これならまだピンクや紫の方がまだマシだ。


 ……いやピンクや紫も嫌だが、とりあえず黄緑だけは絶対に避けたい。


 僕はなんとか代替案をひねり出す。


「あっ、えーとね。こういうのって個人の好みがあるじゃない。

 僕は黄緑だけど、姉ちゃんは他の色が良かったりするでしょ」


「いや、私はどうでもいいかな。弟ちゃんの意見に合わせるよ」


 どうでも良くないだろ、もう少し考えてくれ!


「ええとね、こんな感じでどうだろう。個人が肌の色、髪の色、目の色を自分で設定できるようにしたらどうだろう? あのアンケートを取っている端末で何とかならないかな」


「うーんどうだろうね。まあ、その案もいちおう提案してみるよ」


「いちおうじゃなくて、その案を強く推して、お願いだから」


「うん、分かったわ。でもどちらの案を採用するかはチーフが選ぶからさ、今週の改善政策の発表を楽しみにしてね。じゃあね」


 そう言うと電話は切れた。



 ……えらいことになった、下手をすると全人類が黄緑色だ。

 どうにか僕の出した代替案の方が是非とも通って欲しい。


 具合の悪そうにしている僕をミサキが心配して声を掛けてきた。


「大丈夫? 具合わるそうだけど」


「ああ、うん、大丈夫。たいした事はないよ」


 僕は嘘をつく。たいした事は大いにある。これから大変な事になってしまうかもしれないからだ。


「顔色悪いぞ、保健室に行ったらどうだ?」


 ヤン太も心配してきた。


「大丈夫、本当にヤバくなったら行くから、今は大丈夫」


 なんとか友人を心配をさせまいと、僕は気丈きじょうに振る舞う。

 もしかしたら来週からは顔色なんかで具合を判断できなくなるかもしれないが……



 そして日にちが経ち、第3回の改善政策の発表会を迎える。

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