第2回目の改善政策 2

 僕らの目の前にアンケートを取ったときと同じ、30cm四方の光のスクリーンが現れる。


 そこには、『何か質問がありますか? あったら音声で入力してください』

 と表示してあった。



 さて、何を質問してやろう。


 僕らを瞬く間に全員女にしてしまったのだから、宇宙人のバイオ技術も相当なものだ。他にはどんな事が出来るのか気になってしまう。


 星間飛行のテクノロジーも興味深い。様々な技術を持っているだろう。

 特にワープという非現実的は是非とも仕組みを知りたいところだ。



 他にも色々と考えられる。


 例えば、宇宙人の出生のプレアデス星団の惑星は、どんな環境だったのか。

 水は存在しているのか、酸素は存在しているのか。普段は何を食べていたのか。


 それに、今は『フラッドウッズ・モンスター』の姿をしているが、これは人類の宇宙人のイメージに合わせ て変化させていると言っていた。本来の姿はどのような姿なのだろうか。



 色々と質問は思い浮かんだが、僕は現実的な質問をする事にした。

 これは僕らの未来に関わることだ。


「女性になった男性を、元に戻す事はできますか?」


 僕がそう発言すると、画面にそのままの言葉が入力され。


『この質問でいいですか? はい・いいえ』

 とボタンが浮かび上がる。


『はい』を選択すると。

『しばらくお待ちください。結果はテレビにて発表します』

 と表示された。


 僕は再びテレビを見る。



 しばらくすると、どうやら質問の集計が出来たらしい。

 福竹アナウンサーが宇宙人に質問を開始した。


「まずは、この質問です。『プレアデス星団の宇宙人は何人居るのでしょうか?』」


「いまのトコロ、私一人だネ」


「そうなんですか。あんなに宇宙船が大きいじゃないですか。たった一人で?」


「ソウダ、あとはロボットがいるだけダヨ。必要があれば仲間を呼ぶけどネ」


「なるほど意外ですね」


 これはチャンスかもしれない。もしこの宇宙人が病気で倒れれば、地球は宇宙人の支配から解放できるかもしれない。

 まあ、そうなる前に性別を元に戻さないと、子孫を残せず人類は絶命してしまうけど……



「ところでご自分の事を『ワレワレ』と言っていましたが、一人なのに複数形はおかしくないでしょうか?」


 さすがアナウンサー。言葉の使い方に厳しい。


「この惑星の運営については、一人で決めているワケではないのだヨ。

 AI、つまり人工知能が複数あって、多数決を取っている形カナ。

 ダカラ、ワレワレなワケだヨ」


「なるほど、AIはかなり凄いのでしょうか?」


「この星の全てのコンピューターの演算能力を集めたモノを1とすると、ワレワレの演算能力は200万くらいカナ」


「わかりました。ありがとうございます」


 やはり技術はすさまじい。

 だが、その技術を用いてはじき出した政策がアレなのか……



「続きまして『異星人さんは、どこでもワープできるのでしょうか?』という事ですが」


「どこでもは不可能だネ。転相固定化装置、いわゆる『扉』と呼ばれる『ゲート』の付近ではワープは安全に行えるが、それ以外の場所へ繋げようとすると危険性が著しく上がって、とても危険ダネ」


「なるほど、万能という訳でもないのですね」


「ソウダネ、でも全世界を監視しているロボットにも、小型の『ゲート』を搭載しているから、その気になればこの惑星内ならドコでも行けるヨ」


「安全性に関してはどうなんでしょうか?」


「安全性が確保されて無いと、ワープは開けない事になってるネ。

 ゲートは宇宙におよそ283億個あるケド、この惑星の時間の単位で言うと、3万年くらいは無事故ダヨ」


「わかりました、事故は起こらないと考えて良いですね。ありがとうございます」


 283億個あって、3万年もの間、無事故なのか。これはこれ以上安全な移動手段はないだろう。もしかしたら歩いて移動しているほうが危険かもしれない。



 福竹アナウンサーは原稿をめくり、次の質問をする。


「さて、続いての質問です『女性を男性にできますか?』」


 僕の質問と趣旨しゅしが同じものが出てきた。

 男性を女性に出来たんだ、女性を男性にだって出来るだろう。


「これは簡単にできるんじゃないですか?」


 福竹アナウンサーが僕ら元男性を代表して質問をする。


「結論としては、不可能だネ。技術としては、かなりムズカシイ」


「えっどうしてなんです? 女性化は簡単だったじゃないですか」


 そうだ、宇宙人は技術の出し惜しみをしているだけだろう。

 これはあの男性のものが生える薬を使って、間接的に人類を支配しようとしてるだけじゃないだろうか。



 宇宙人は福竹アナウンサーの問いに詳しく答える。


「トコロで、人間の性別を分ける遺伝子と染色体は知っているヨネ?」


「ええ、性別を決める染色体は、たしか女性がXX、男性がXYでしたかね」


「ソウダネ、今回の男性の女性化に関しての遺伝子操作は、コウダ。

 XY染色体のY部分を消去、残ったX染色体をコピーしてXXに置き換えるネ」


「なるほど、でもそれなら反対に男性化も出来そうですが」


「チガウネ、女性から男性にする場合は、XX染色体の半分を消去、残った部分にY染色体を入れれば良いんだケド、もう人間のY染色体はこの惑星から消滅してしまったからネ。

 データが失われてしまったので、もうどうしようもないネ」


「なるほど、でも体の一部、冷凍保存とかしている男性の遺伝子が残っていたら、そこから可能ですか?」


「そういったモノも全部、変えてしまったからネ。ちなみに死者の遺伝子も含めて、もう変えてしまったヨ」


「……それでは確かに無理そうですね」


 福竹アナウンサーが無慈悲むじひな相づちを打つ。

 ……終わってしまった。男性の戻るという計画は完全に詰んだ。



 福竹アナウンサーが何か思いついたようだ。宇宙人を問いただす。


「あらためて確認しますがY染色体のデータは残っていないのですよね?」


「ソウダネ」


「記録に残そうと思えば残せましたか?」


「残せるネ、全ての人間の遺伝子データを記録しようと思えば簡単にできるヨ」


「……次から変更を掛ける時は、事前に前の状態に戻せるようにして頂けないでしょうか」


「分かったヨ。次からはそうするネ」


 次からは何とか元に戻せそうだが、今はなにもかもがもう遅い。

 もう僕らは男性に戻れなさそうだ。



 福竹アナウンサーが時計をチラリと見た。

 時刻はかなり過ぎていて番組を締めにかかる。


「さて、そろそろお時間が迫って参りました、また来週お会いしましょう」


「マタ来週ネ」


 こうして第二回目の改善政策の発表会はアクシデントもなく無事終わった。

 しかし僕の心の望みはいえてしまった。

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