第2回目の改善政策 1
学校の授業はいつものように進んでいく。
だが、僕ら元男性は重要な問題を抱えていた。
授業を終えるチャイムが鳴ると、挨拶もろくにせず、僕ら元男性はある場所に急いで駆け込む。
それはトイレだ。
もともと、男性トイレには個室が少ない。
うちの学校のトイレは、小が6個、大が3個、これが標準的なトイレの設置数だ。
先週まではまったく問題は無かった。しかし今では大問題である。小の便器が全く使えなくなったからだ。
毎時間「早くしろ」「すぐ済ませろ」とせかされながら用を足している。
個室の数が圧倒的に足りてないからだ。必ず大渋滞が起こってしまう。
先日この大渋滞に耐えきれず、今まで通り小の便器を
ミサキの話では女子トイレでは個室が7個もあるらしい。
男子トイレも工事をして個室に変更する予定なのだが、工事のめどは立っていない。
全員が一斉に女性化した事により、全てのトイレで工事が必要になったからだ。
政府の発表では、重要度の高い施設からトイレ工事は入るらしい。
市役所や公民館、学校などの公共施設は優先して工事が入る。
学校は優先度が高いのだが、高校は義務教育には含まれていない。
だから、小学生や中学生の後という位置づけにされてしまった。
僕らの工事は後回しにされ、この渋滞が解消されるのは何時になるかわからない。
授業は過ぎていき、週に一度の昼の時間を迎える。
僕らは席に着きテレビを見つめる。
今週は人類にどんな試練が待っているのだろうか。
大したことのない改革を願うばかりだ。
そして時刻は正午を迎える。
テレビには『第2回
場所は、前回と同じく明石市立天文科学館からの中継のようだ。
「こんにちは、みなさん。早速ですがプレアデス星団の宇宙人による『第2回目の改善政策の発表』を行いたいと思います」
「今週もヨロシクネ」
先週はあれだけの事をしでかしたのに、非情に軽い挨拶から番組はスタートする。
「ところで今週は何をするのでしょうか?」
福竹アナウンサーが質問を投げ、すぐに身構える。まあ、警戒して当然だろう。
「今週ハ、『男女の性差別の撤廃』ダネ。もう女性しかいないから、そういうの要らないデショ」
「まあ、確かに。女性しかいませんからね」
「コノ国でも『男女雇用機会均等法』とかアルじゃない。元々男女の差を埋めようとしてたらしいしちょうどイイんじゃないカナ?」
「そうですね。この際ちょうどいいのかもしれません。それで今週は何をするのでしょうか?」
いよいよ本題に入る。今週はどんな事になるのだろうか。
「だから男女差別の撤廃ネ、処罰はその地方の法律に任せるヨ」
「……ええと、それだけですか?」
「それだけだヨ」
「何か先週のようなイベントはありますか?」
「いっさいナイよ、それぞれの国の法律を厳守してもらえば良いネ」
「はぁ、わかりました」
福竹アナウンサーはやや拍子の抜けた返事を返した。
先週、あれだけの事があったが、今週はほぼ何もなかったと言っていいだろう。
「実ハ、ワレワレの方にクレームが入ってきてネ。トイレに関するクレームなんだケド」
「ああ、元男性のトイレ事情の話ですか。数が絶対的に足りてないので、いまは酷い事になっていますね」
「そこで、男女の差別の撤廃の話ダヨ。元男性でも女性用トイレの使用を可能とスル。女性でも男性用トイレの使用を可能とスル。共用にすれば混雑は減るデショ」
「たしかにそうですね」
「デハ、アンケートを取ってチョウダイ」
「わかりました。それではみなさん。アンケートに答えてください」
僕ら一人一人の目の前に、先週とおなじく光のスクリーンが現れた。
表示されている内容も先週と同じだ。
「1.今週の政策はどうでしたか?『よかった』『悪かった』」
「2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?『支持する』『支持できない』」
僕は、政策は『よかった』、宇宙人は『支持できない』を選択する。
先週の行動は許せないものがあり、指示はできないが、今週の政策自体は悪くないだろう。
これで男女間の差別が無くなるなら悪くないかもしれない。
それに何よりトイレの混雑が解消されるなら悪くない。
結果を入れてしばらくすると、集計結果が出てきた。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 68%
悪かった 32%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 8%
支持できない 92%』
やはり、今週の政策自体は賛成の数の方が多かった。
宇宙人も何かやらかした訳でもないし、こういう発表が続いていくなら支持率が上がっていくかもしれない。
テレビの中の福竹アナウンサーは腕時計をチラリと見る。
「だいぶ時間が余ってしまいました……
良ければ視聴者の質問など受け付けたいのですが、答えてもらえるでしょうか?」
「イイヨ、何でも質問してちょうだい。質問は先ほどの光の端末で受け付けるヨ」
さて、僕は何を質問しよう。
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