変わったもの、変わらないもの 2

 学校へ向かう途中、後ろから声をかけられる。


「よっ、お二人さん」


 トーンこそ一段高くなっているが、親友の声を間違える訳はない、ヤン太だ。

 ヤン太はここ数日、体調不良で学校を休んでいたが、どうやら直ったらしい。僕とミサキは振り返る。


 振り返ると、金髪の頭のてっぺんが視界に入ってきた。

 視線を下に移すと、ヤン太がそこには居た。


 僕もある程度は縮んだが、ここまではない。

 ヤン太の手は、学ランの袖からようやく覗くぐらいだし、ズボンは裾をかなりまくり上げている。背は見た目だけで15cmちょっとは縮んでそうだ。


「……ヤン太、縮んだね」


 ミサキが率直な感想を言った。


「ツカサはあまり変わっていないな」


「うん、多分3~6cmぐらいかな、クラスのみんなもそんなに縮んでいないかな」


「そうかあんまり縮んでないのか…… まあしかたないか」


 ヤン太はもともとそんなに背は高くない。そこに加えてかなり身長が減ってしまった。

 僕らの中では一番小さなジミ子と同じくらいか、もしかしたらジミ子より低くなってしまったかもしれない。

 ヤン太はもともと身長の事を気にしていたので、この件はこたえているだろう。



「ところでその髪型は?」


 ミサキが変わってしまったヤン太の髪型にも触れる。


「妹にやられた『お兄ちゃんにはコレが似合ってるよ』だって」


 すこし伏し目がちに答えた。

 本人は嫌そうだが、妹思いのヤン太は逆らえなかったらしい、金髪のツインテールをしていた。


「あ、うん、似合ってると思うよ」


 僕はなんと声をかけて良いのか分からないが、とりあえず褒めてみる。


「ありがとな……」


 少し恥ずかしそうに答えた。


 しかし学ランを着ているから、元男性の高校生だと分かるが、この背の高さと髪型では中学生に間違えられてしまうかもしれない。この変化は本人も気にしているようなので、あまり触れない方が良いだろう。


 そう思っていたら、横から


「可愛いよ、まるで中学生みたいで」


 ミサキが早くも禁句タブーを言ってのける。


「そう言うなって」


 ヤン太はくしゃっと苦笑いをした。


「久しぶりに三人で手を繋ごうか」


「いいよ俺は……」


 嫌がるヤン太の手をミサキは握り、僕らは再び歩き出す。



 学校に着くと、既にジミ子とキングがしゃべっていた。

 僕らはの輪の中へと加わる。


「おはよう~」「オッス」「Helloハロー


 ジミ子が真っ先にヤン太の変化を指摘する。


「縮んだね~」


「まあな」


「私より低いかも」


「いいや、それはさすがにないだろ」


「じゃあ、比べてみようか」


「良いぜ、やってやるよ」


 先ほどまでは落ち込んでいたヤン太だが、どうやら持ち直したらしい。

 威勢良く、ジミ子と身長比べを始める。


 背中合わせに二人が立つ。

 僕は口を滑らせた


「あっ」


「『あっ』ってなんだよ?」


 ヤン太が切り返して来た。


「ふふん、そういう事だよ」


 ジミ子が得意気に振る舞う。


「そうか、そういう事なのか……」


 ヤン太は状況を察した、自分の方が背が低いと気づいたのだ。

 驚愕の事実を知り、ヤン太は膝から崩れ落ちた。

 僕はそこまでショックだとは思わなかった。


 しばらく時間が掛かったが、ヤン太は起き上がる。

 キングを見て、


「キングはあまり変わらないな……」


 恨めしそうに見る。


「俺も縮んだぜ、justちょうど 6cmな」


「で、いまの身長は?」


「180cm」


「あっそう」


 ヤン太は呆れたように言った。

 キングは元々背がでかい。186cmが180cmになったところで、そんなに変わったようには見えない。それに体型も元々太っていたので、女性になっても変化が起こったのか分からない。


 おそらくクラスで一番、見た目が変わっていないだろう。



 再び落ち込んでしまったヤン太に僕は励ます。


「大丈夫だよ、もっと変わり果ててしまった人も居るから」


「えっ? 誰だよ」


 周りをキョロキョロと見渡す。

 だが、見つけられないようだ。


「まだ来てないよ」


「もう授業が始まるぞ、遅刻じゃないか?」


「まあまあ、必ず来るから、見て驚くと思うよ」


 チャイムが鳴り、みんなは席に着く。

 ヤン太はまだ見つけられないようだ。落ち着き無く回りを見回している。


 やがて教室のドアが空き、スラリとした美人の先生がやってきた。


「ヤン太、休んでいたが体調はどうだ? ちゃんと直ったか?」


 突然、知らない人から自分の事を言われて、ヤン太は軽く混乱した。


「すいません。どちらの先生でしょうか? お名前が分かりません」


墨田すみだだ、おまえ担任の教師の顔も忘れたのか?」


「……いいえ、気がつきませんでした」


「そうか、まあ、いい。じゃあ出席を取るぞ」



 ヤン太が休んでいる間に、朴訥ぼくとつな中年のおっさんは美人教師へと変化していた。

 宇宙人の技術は本当に恐ろしい。

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