変わったもの、変わらないもの 1

 あの日、僕らが男性を失ってから一週間がすぎた。

 僕らの体にはいくつかの変化が起きた。



 まずはどうでもいい変化だ。髪の毛が伸びた。

 宇宙人は『2週間ほど髪の毛が伸びるようにする』と言っていたが、これは異常だった。


 人によって差があるが、一日に2cm以上は伸びた気がする。

 朝出かけていく時と、かえって来た時では長さが違うのだ。


 前髪が視界に入ってきて実に邪魔だ。

 すぐにでも床屋に行きたいが、たとえ切ったところですぐにまた伸びてくる。

 仕方ないので、伸びきるまでは我慢する事にした。



 そして変わらなかったこともある。


 不毛の大地に髪の毛は生えてこなかった。

 たしかに、宇宙人は髪の毛が『伸びる』とは言っていたが、『生えてくる』とは言ってなかった。


 『何か』を期待していた父さんは一時ひとときは大きく落ち込んでいたが、残っていた髪の毛は太く力強くなったらしい。

 毎朝のバーコードの髪型を整える時に鼻歌が聞こえてくる。

 僕には違いがよく分からないが、本人的には大きく変わったと、かなり高評価をしていた。



 僕はあまり変わらないと思っていた骨格だが、これはけっこう大きく変わった。

 個体差があり、なんとも言えないが、みんな身長が3~6cmくらいは縮んだ気がする。

 僕もミサキよりは一回り大きかったはずだが、いまは同じくらいしかない。


 縮んだのは身長だけではない、肩幅も狭まった。

 これは学ランが少し緩く感じるくらい変わってしまった。

 ぶかぶかの学ランを着ていると、まるで他人の服を着ているようだ。



 他にも意外だった点がある。喉仏が引っ込み、声のトーンが一段、高くなってしまった。

 喉仏なんて変わるはずがないと思っていたので、これは全くの想定外だ。

 僕には身長が縮む以上に以外な出来事だった。


 この出来事には非常に困った。しゃべるたびに違和感を憶える。

 自分の声が少し気持ち悪いと思ったが、母さんは


「あら、声変わりする前みたいな声に戻ったわね」


 と言っていたし、姉ちゃんも


「ちっちゃい頃に戻ったみたい」


 と言っていたので、昔はこんな感じだったのだろう。

 直せるなら男性の声に直したいが、これはどうしようないので慣れていくしかないだろう。



 僕は宇宙人の技術をなめていたようだ。

 宇宙人の宣言通り、一週間でほぼ体が女性に入れ替わってしまった。

 学ランを着ているので、周りからは元男性だと分かるだろうが、女子の制服でも着てしまえば見分けが付かないかもしれない。




 姿は変わってしまったが、日常生活はほとんど変わらない。

 今朝も変わらず銀色の月を見た後、僕は朝の支度をする。

 鏡の中に僕に似た女性が居るのは慣れないが、これもそのうち違和感がなくなってしまうのかもしれない。

一回り大きく感じる学ランに袖を通すと、胸の部分だけ窮屈に感じた。


 僕は鞄を手に取り、「行ってきます」と言って、玄関を出た。



 朝はいつも通りミサキの家に寄っていく。

 僕はこの一週間でかなり変わってしまったが、ズボラな性格のミサキはあいかわらずだ、全く変わっていない。


 家のチャイムをならすと、「入ってきて良いよ」と幼なじみの声が聞こえてくる。

 僕が玄関をくぐり家の中へ入ると、ほぼ下着姿のミサキが出てきた。


「ちょっとミサキ、なんて姿ででてくるんだ!」


 僕は恥ずかしくなり、目を手で覆う。

 するとミサキは、


「もう同性なんだから気にしなくても良いでしょ。シャツのボタンとネクタイお願いね」


 と言ってきた。

 僕は顔を赤くしながら、シャツに袖を通させボタンを留め、ネクタイをしてやる。


 今まではここまでではなかった、シャツもある程度はボタンが留まっていたのだが、最近は下着だけで出てくる始末だ。あれでも一応、僕を異性だと気をつかっていたらしい。


「次はスカートの履き方を覚えないとね」


 ミサキはイタズラっぽく僕に言う。


「幼稚園児でも自分で身支度ができるよ。少しは幼稚園児を見習ってみてはどうだろう?」


 ちょっと茶化したら、ほっぺたを膨らまし、少しふてくされたようだ。

 こんな事を言われるのが嫌なら、もう少し身なりをちゃんとして欲しいのだが…… まあミサキには無理かもしれない。



 ズボラに磨きが掛かったミサキの支度が終わると、僕らは手を繋ぎ学校へと向かう。


 手を繋ぐ行為は小学生から変わっていない。

 僕は今回の事件で大きく変わってしまったと思っているが、ミサキの対応は変わらないように感じる。

 あまり気にしすぎるのも良くないかもしれない。



 今日は第2回目のの改善政策の発表だ。

 今回は何が起こるのだろうか。

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