第1回目の改善政策 4

 教室内のざわめきが収まらないうちに、テレビが再開した。

 呆然とした福竹アナウンサーと例の宇宙人が映っている。


「はい、こちら『明石市立天文科学館』の福竹です。さきほどは大変失礼しました」


 福竹アナウンサーの顔には涙の流れた後が残っていた。たいへん痛ましい。

 だが、あまり同情ばかりしては居られない、下手をすると僕もああなってしまうかもしれない。



「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」


 福竹アナウンサーは宇宙人に質問を投げかけた。


「なんダネ?」


「なぜ私の男性器は無くなってしまったのでしょうか?」


「女性にシタからネ」


「なぜ、女性にされたんでしょうか?」


「セクハラを無くす為ダネ」


「ああ、そうでした。そういった政策でしたね」


 あまりのショックに主題を忘れていたようだ。

 でも、まあ、仕方が無い。いまの福竹アナウンサーを責める男性は居ないだろう。



「ところで、セクハラと女性化は何の関連性があるのですか?

 セクハラをした人に処罰として、こういった処置をするのでしょうか?」


「確かに、この罰を与えれば、セクハラは減るだろうネ」


「ええ、そうでしょうね」


「でも、それだと根絶とは呼べないんじゃないかナ」


「では、どうするのですか?」


「これから、この時間帯の地域の全ての男性に、この処理を行おうと思ウ」


「えっ?」


「全員、女性になれば異性間で発生するセクハラは起こらないでショ?」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「デハ、さっそく施行するヨ」



 宇宙人が手を上げる、画面の中でいくつか光が確認できた。

 狙いはおそらくテレビのスタッフだろう。


「ぎゃー」「わぁー」「俺のものがー」


 現場のスタッフが次々と餌食になっていく。悲鳴がテレビごしに聞こえてきた。



 宇宙人はすべての男性とか言ってた気がしたけど。僕の聞き間違いか?

 いや、分かっている。現実を認めたくないだけだ。


 これはヤバい。今すぐ逃げないと。でもどこへ逃げればいいんだ。



 そう混乱していると、


Shitくそ! 撃たれた!!」


 キングの声が聞こえてきた。

 そちらの方向を見ると、教室の空中に2~3個の例の銃のような浮遊物体が浮かんでいる。

 飛行物体は次々に電撃を放つ。


「いてぇ」


 続けて、ヤン太が撃たれた。

 やばい、ヤバすぎる。どこでも逃げないと。

 とりあえず教室を出て……


「いたっ」


 ……僕も撃たれてしまった。


 僕も、すぐさま確認をする。

 体の最も重要なあの部分は、もう既にそこには無くなっていた……

 考えてみれば電撃などよけられる訳がない。



 クラスの誰かが叫ぶ。


「誰か、生き残っているヤツは居るか?!」


 生きては居るが、誰も返事をしない。一人残らず撃たれたようだ。

 男子は全員、ズボンの中をまさぐったり、覗いたりしているが、アレをだれ一人として発見できない。



 そして、3分も経たないうちに、テレビの中の宇宙人がこう宣言をした。


「ハイ、この地区の全ての処理が終わりましタ」


 ……どうやら男性は全滅してしまったらしい。



 処理が終わり、中継現場に落ち着きが戻ると、福竹アナウンサーが宇宙人に質問をする。


「ところで女性化という話ですが、私らはどう見てもまだ男性です」


 アレは無くなってしまったものの、姿になんら変わりは無い。

 僕らは端から見れば男性にしか見えないだろう。

 これを女性というには無理がある


「アア、それネ、さすがにワレワレの技術でも、骨格まですぐには変えられないヨ。

 個体差もアルけど、骨格はおよそ一週間前後で入れ替わるネ。」


「骨格が変わるのですか?」


「ソウダヨ。それと髪の毛の成長を二週間ほど促すようにしておいた。髪は女の命でショ」


「ええ、まあ、ありがとうございます」


 福竹アナウンサーが極めてどうでもよさそうな相づちを打つ。


「アトは、三週間後には妊娠も可能となるヨ」


「妊娠ですか……」


 福竹アナウンサーが苦々しい顔をした。

 急に妊娠などと言われても実感が沸くはずがない。



 突然、スタジオの春藤アナウンサーが割り込むように質問が入る。

「妊娠とありましたが、もう男性はいないんですよね?

 これからどうなるんですか?」


 そうだ、男性がいなくなったら子孫が残せないじゃないか。

 新たな人類は生まれる事が無くなり、このままでは人類は滅びてしまう。

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