勝利会見 3

「ワレワレが統治するとなって混乱が発生すると思う。

 そこで情報規制を行うヨ」


「情報規制ですか。それはどのようなものですか?」


 マスコミ関係者の顔が険しくなる。彼らにとって報道と情報は商売に直結している。下手をすると収入が大幅に減ることになるだろう。真剣になるのも無理はないかもしれない。


「情報規制といっても、ニュースそのモノを規制する訳では無い。事件に対して解説や分析も規制する訳では無い。ワレワレに対して批判的な意見が合っても全く構わないヨ」


「では何を規制するのでしょうか」


 レポータ達は不思議そうな顔をして尋ねた。


「事実以外の記事の禁止だね。いいかげんな憶測や、勝手な妄想で記事を書かれては困るからネ」


「な、なるほど。確かにそうですね」


 レポーター達は一安心した様子だ。


「君たち記者には真実のみを伝えて欲しいのヨ」


「はい、もちろんです」


 レポーター達の威勢の良い返事が返ってきた。



「イチオウ、どういう箇所に規制を設けるか、世界で発行部数トップのこの新聞をサンプルに説明するヨ」


 宇宙人は売読うりよみ新聞を取り出した。


 想定外の新聞が出てきた。この新聞が世界での発行部数トップのようだ。

 人口的に言って、僕はてっきり中国の新聞あたりかと思い込んでいた。



 宇宙人は新聞片手に赤ペンを取り出してチェックを入れる。

 凄いテクノロジーが使われるかと思ったのだが、チェックは古くさいアナログ形式だった。


「この部分、専門家の予想の記事。ココは事実に基づいてない妄想なので、これからはダメ。

 この部分は推測の域を脱していないので記事としてはダメ。

 街頭アンケートも、集計結果はOKだけど、個人の意見は客観性に欠けるのでダメ」


 次から次へと赤いバツがつけられて、紙面のおよそ6割が没にされた。

 それを見ていた記者達の顔が曇る。

 そんなマスコミの顔を全く気にせず宇宙人は話を進める。


「ワレワレは妄想から始まる噂の暴走を一番恐れている。

 この惑星ではラジオ放送の些細ささいなきっかけから暴動に発展。大虐殺に至った例もあるからネ」


「確かにそうですね」


 レポーター達はしぶしぶ了承の返事をする。

 噂というば彼らマスコミの大好物だろう。特に芸能人のゴシップを扱う雑誌などは、これからどうなるのだろうか?



 宇宙人はマスコミ関係者の冷ややかな反応に対しても、一向にひるまない。説明を続ける。


「これら報道規制は新聞、やテレビなどのメディアだけに留まらない。

 この惑星では、一般人の情報発信も馬鹿にできないらしいしネ。

 当面の間はSNS、トゥイッター、フェスイブック、メール、メッセンジャー、掲示板なども禁止にするヨ」


「こちらは検閲をする形でしょうか、全面的に禁止でしょうか」


「情勢が落ち着くまでは、全面禁止にする予定だヨ」


 トゥイッターやSNSや掲示板が使えなくなるのは痛すぎる。

 僕たち高校生は何を頼って良いのか分からなくなってしまう。

 レポーター達は何とか理由を付けて止めて欲しい。



「緊急時はどうなるのでしょう? 例えば救急車や消防車など呼ぶ場合は?」


「全く連絡ができないと困るからネ、電話による音声通話のみは許可するヨ」


「なるほど。 ……そうですね混乱を避ける為には仕方ない事かもしれません。

 人類はあのゲームに負けてしまったのですから」


 イギリスのアナウンサーが体裁ていさいが悪そうに答えた。

 たしかに、そう言われてしまうとその通りだ。



 この会見が始まる少し前までは、宇宙人が人類にこれからしようとする出来事は、


『収入から3割くらい搾取される』

『奴隷のような人生を送る』


 といったものから、


『人口調整の為、殺される』

『宇宙人の食料にされてしまう』


 といったとんでもない意見まであった。

 それに比べればこのくらいの制約で済んでいるなら大したことは無いだろう。



 意見が落ち着いたところで、日本人のアナウンサーが質問する。


「そういえば、ゲームなどでチャット。

 いわば文字で会話する機能がついた物があるんですが、そういったものはどうなりますか?」


「それらも規制に入るよ、ネットで行われるゲームも全面禁止ネ」


 どうでもいい質問だった。

 しかし次の瞬間、Lnieからメッセージが飛んできた。


---------------------------------

キング「F*ck!ファ*ク ゲームの中の世界へ来いよ!! 野郎どもぶち殺してやる!!!」

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 ゲーム好きのキングにこの制裁はつらいかもしれない。

 慰めの言葉をかけようと、メッセージを送ろうとしたが、もう規制がされているらしく送れなかった。



「ソレでは今日の会見はここまで、来週からのワレワレの政策発表を楽しみにしていてネ。

 あと、現地スタッフを募集するヨ、その気のある人はココに電話をかけてネ」


 宇宙人がテロップを出す。そこには『求人募集』の文字と電話番号がある。


 そして宇宙人は言いたいことを言い終わったようで、モノリスの中へと消えていった。



 こんな怪しげは職場に就職しようとする人は居るのだろうか?

 人類の中には一人として居ない気がする。


「あ、もしもし『笹吹ささぶき アヤカ』と申します、テレビで放送された求人の情報を見て電話をかけたのですが」


 ……どうやら非常に身近に居たようだ。姉ちゃんが電話をかけている。


「ええ、はい、そうですか。わかりました。今すぐそちらへ伺わせて頂きます」


 電話が終わると、すぐに


「ちょっと今から面接行ってくるわ」


 Tシャツにジーパンといった格好で外に飛び出して行った。


「あの格好じゃ落ちるだろ……」


 僕は思わずつぶやいた。


「そうだね、ちょっと厳しいかもね」


 ミサキも同じ感想のようだ。




 しばらくして、テレビは現場の中継が終えてスタジオに戻る。


 司会の春藤はるふじアナウンサーが専門家に意見を求めた。


「これからどうなると思いますか?」


「それはピーーーーーなのでピーーーーの確率がピーーーーでしょうね」


 ……もう規制が入っていた。

 テレビの内容は規制だらけで何を言っているのか分からない。

 今まで僕らの見てきたテレビは、どうやらいいかげんな憶測だらけだったらしい。

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