勝利会見 2

「あなたたち宇宙人の対応はとても丁寧ですね。安心しました」


 フランスのアナウンサーが感謝に近い意見を述べた。


「不要な混乱は避けたいからネ。

 でも、それでも君たちの中で混乱する者を現れると思う。

 だから情勢が落ち着くまで、いくつか規制を掛けるヨ」


「どのような規制ですか?」


「ソレハ、これから説明するネ。

 説明する為に、まずはゲストを呼ぶヨ」


 モノリスのゲートが再び光り、中からゴッツい黒人の野球選手が出てきた。


「彼はスペシャルゲスト『ケリス・クーター』2016年の本塁打王ダヨ」


 宇宙人は説明をした。しかし説明が説明になっていない。

 なんでこの場所に野球選手を連れてくるのか、全く意味が分からない。



「なんだここは? 俺はいったいどうしたんだ?」


 どうやらケリス・クーター氏はさらわれてきたようだ。

 アメリカのアナウンサーが状況を簡潔に説明した。


「なるほど、それで俺は何をすればいいんだ?」



「コレが何のモノなのか、分かるかナ」


 宇宙人の横には、一辺およそ40cmくらいの大きさの立方体が存在している。

 その立方体は白っぽい金属でできていて、くすんだ反射をしている。そして空中に浮ていて、ゆっくりと縦や横や斜めに回転をしている。


「全く分かりません」


 アナウンサーが答える。


「コレを使用する時は、このような形状を取るヨ」


 宇宙人が手で何か合図を送ると立方体に亀裂が入り、そこから変形をしてロボットになった。さきほどイヤホンを配っていたロボットと同じ形をしている。


 このロボット、いちおう人間の形はしているものの、ほとんど骨格標本といっていいだろう。ガリガリで頼りなく、強い風が吹けば、よろけて倒れてしまいそうだ。



 宇宙人はケリス・クーター氏に金属バットを渡して、こう言った。


「コレでぶっ叩いてみてヨ」


「い、いいのか? こんな華奢きゃしゃなロボット、すぐに壊れるぞ」


「大丈夫、壊れないヨ。思いっきり何度でもやってみてネ」


「……分かった、どうなってもしらないぞ」



 ケリス・クーター氏がバットを持ってロボットの前に構える。

 腕をを大きく引き、足に体重をのせて思いっきりスイングをした。


 バットがロボットの胸部に当たった瞬間、衝撃のあまり火花があがる。

「ガコン」と大きく鈍い音が響くが、ロボットは微動だにしない。


 このロボットはかなり頑丈のようだ。

 そして、見た目は軽そうなので吹き飛ばされてもおかしくなさそうだが、衝撃をうけても身動きひとつせず地面の上に立っている。

 空間転送をするような連中だ。人類には計り知れないテクノロジーが使われているのかもしれない。



 その後、ロボットの弱そうな部分。頭、首、関節部分、目の部分など、何度となくバットは打ち付けられた。

 しかし華奢なロボットはまるでひるまない、やがて金属バットの方が先に折れてしまった。


「全く壊せる気がしない……」


 肩で息をしながら、大リーグのホームラン王のケリス・クーター氏が弱音を吐いた。


「頑丈でショ。これからもっと過酷なテストをするヨ」


 その後、プロレスラー、キックボクサー、アメフト選手などが呼ばれ、さまざまな攻撃をするのだが、いずれもダメージを与える事はできなかった。



「サテ、次の段階に移ろう」


 宇宙人の後ろに光りのスクリーンが現れた。


 スクリーンの中には、複数の戦車が映っている。

 アメリカ、ロシア、ドイツの主力戦車だ。その戦車の前には例のロボットが立ち尽くしていた。


「これから砲撃をするヨ」


 さすがに、これは無理なんじゃないだろうか?

 あの骨だけしかないようなロボットには耐えられない気がする。


「デハ、砲撃開始」


 宇宙人はいきなり砲撃開始の合図を送った。

 各国の戦車は慌てて狙いを定めると、華奢なロボットに砲弾を撃ち込む。


 砲弾が当たると、ロボットははるか後方へとガラガラと音をたて、転がる。

 金属バットの時とは違い、さすがにこらえきれず吹き飛ばされたようだ。


 20メートは飛ばされただろうか、寝転んだロボットはヒョイと立ち上がる。まだ動けるらしい。


 しかし起き上がったところに、また戦車の砲弾が飛んできた。

 ロボットはボロぞうきんのように転がっていく。このリンチのような砲撃は10分あまり続いた。


「砲撃、停止ネ」


 宇宙人が合図を送ると、戦車は砲撃を止めた。


 やがて砲弾による土煙が晴れると、ロボットはそこに立っていた。


「戻ってきてネ」


 命令を下すと、ロボットは何事もなかったようにスムーズに歩いてモノリスのゲートをくぐる。

 そして記者の前へと帰ってきた。


「調べてみてヨ」


 記者たちが取り囲みチェックをしだした。

 やがて一人のアナウンサーがこう言った。


すすのような汚れはあるものの。傷はまったく見当たりません。」


 あれだけの砲弾を受けても無傷らしい。


 もし破壊しようとするなら何百台の戦車で砲撃を続ければ、壊せるかもしれないがそれは現実的ではない。

 実戦となれば動き回り、宇宙人の強力な武器を使って反撃してくるはずだ。


 それを考えると、宇宙人のロボットの破壊は、ほぼ不可能だろう。



「このロボットを世界各地へ配置するヨ。暴動が起こった場合は鎮圧するからネ」


 宇宙人はようやく目的を言った。


「空を見てネ」


 その言葉を受けて、カメラが空を映し出す。画面にはいくつも浮遊物体が飛んでいて、そのうちの一つにズームをすると、そこにはロボットの変形前の、およそ40cmくらいの立方体が映る。


「みなさん、ご覧下さい。例のロボットの立方体が、確認できます。

 複数確認できます。かなりの数です。

 1キロ間隔ぐらいでしょうか。等間隔に並んでいるようです」


 アナウンサーの解説を受けて、カメラは右へパーンする。

 辺り360度を映し出すのだが、カメラのフレームには必ず立方体が映り込んでくる。


「今、緊急速報が入りました。この立方体は世界各国に現れたようです。

 都市部では密度が高いようです」


 カメラは各国の都市の上空を映し出す。

 ロンドン、東京、ニューヨーク、パリ、ワシントン。

 いずれの空にもこの立方体が広がっていた。


 もしかすると……

 僕は慌てて窓の外を見た。

 するとそこには、都心と比べてまばらではあるが立方体が見て取れた。

 どこまでも続いていて、その数は数え切れない。



 戦車の砲弾に耐えられるロボットをこれだけ配置できるなら、地球を恐怖と暴力で支配する事もできたはずだ。しかし、宇宙人はそれを行わなかった。

 おそらく科学力のレベルが違いすぎて、大人と子供以上の差があると思っているのだろう。

 もし彼らを地球から追い出せるチャンスがあるとするなら、その油断に付け入るしかなさそうだ。



 そんな事を考えていたら、姉ちゃんがつぶやいた。


「あれ、前半部分のテストやる必要あったかな?

 後半の戦車のテストだけで充分じゃないかな」


 ミサキがそのつぶやきに答えた。


「私も必要は無いと思います」


 僕も必要が無かったと思う。

 この宇宙人は知能が高い割にはプレゼンテーションが下手なのかもしれない。



 テレビの中の宇宙人は、またしゃべり出す。


「ソレと、もう一つだけ、規制をするヨ」


 どうやらなにかまだあるらしい。

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