勝利会見 1

 会見の時間になりグリニッジ天文台のモノリスに光のドアが現れ、例の宇宙人が中から出てきた。


「こちらへお願いします」


 イギリスのアナウンサーが代表して、宇宙人を教壇の方へと移動する。

 その姿は相変わらず何を考えているのか分からず気持ち悪い。

 顔の表情が全くうかがえないと、酷く不気味に映るものだ。



 教壇へと上がった宇宙人は周りを見渡すと、こう口を開いた。


「君らの文化レベルの証明は失敗した。これよりこの惑星はワレワレの統治下に入って貰うヨ」


 現地のイギリスのアナウンサーが受け答えをする。

「人類はどうなってしまうのでしょうか?」


「ソウダネ、まずは今まで通りの生活をして貰う。

 ワレワレはそれを観察し、法的改正や技術的改正を施行して改善を計るヨ」



 アナウンサーが詳しく話を聞き出そうとする。


「それは、私ら人類にも自治権があると受け取ってよいでしょうか?」


「ソウダネ。当分の運営は君たちに任せる。

 急激な変化は良くない事が多いからネ。徐々に改正をしていくヨ」


「なるほど、ありがとうございます」


 記者たちは安堵あんどの表情を浮かべる。

 この宣言には世界中の人々も安堵した事だろう。



 僕が想像していた支配とは、だいぶ違う。

 宇宙人は見た目とは違い、人類に対して温厚な対応をするみたいだ。


 生活も当分は変わりなさそうに思える。

 彼らは案外、良い宇宙人なのかもしれない。


 宇宙人は話しを続ける。


「この惑星の国の政府の上に、ワレワレの政府が乗っかる形になると思う。

 君たちの意見には耳を傾けよう。意見は改善の参考にもさせて貰う。

 ただ、どのような改正方法を出すのかはワレワレが決める。

 そして君らに拒否権は無い。強制的に従って貰うヨ」


「具体的にはどのような改正案が出るのでしょう」


「まだ何も決まっていないヨ。

 ただ、この惑星の住人に取って、有意義ゆういぎなな、利益になる改正をワレワレは行うネ」


「人類に不利益を被ることは無いという事ですか?」


「イヤ、そうとも言えない。例えば資源開発の為、環境破壊をしていたら、ワレワレは規制を掛ける。一時的には君らは不利益を被るだろうが、長期的に見ればこの惑星の住人には利益になるだろうネ」


「なるほど」



 ここまでの意見では彼らはとても理性的だ。

 むしろ利益などを追求して歯止めが効かなくなっている人類より、かなりまともに見えてきた。




 アメリカのアナウンサーが割り込むように質問をする。


「今回の戦争……、モノリスの破壊ゲームにおいて、相当数の軍人が捕虜として捕らえられています。これから彼らはどうなってしまうのでしょうか?」


「ほとんどの捕虜はすぐに解放するヨ。ただし、ワレに対して銃弾を放った者は別だ。この惑星で言う『殺人未遂』という罪に当たるからネ」


「銃弾を放った者達はどうなってしまうのでしょう?」


「罪に対して償ってもらう。詳細な検査のサンプルになってもらったりして有効的に活用させてもらうヨ。場合によっては人体実験に強制的に参加してもらうかナ」


「人体実験ですか……」


 アナウンサーの顔色が悪くなった。



 サンプルとか人体実験とかおっかない話が出てきた。

 その言葉には残酷な一面が垣間かいま見られる。これが彼ら宇宙人の正体だろうか?



 宇宙人はアナウンサーの不安をよそに説明を続ける。


「君たちだってやっているじゃないか、人体実験。

 例えば薬の開発でも、動物実験や治験ちけんとか必要不可欠だよネ。それと同じだヨ」


 確かに治験とかの人体実験はやっているが、宇宙人の実験に関しては安全性はどうなのだろう。

 宇宙人は引き続き説明をする。


「人体実験といっても充分なシミュレーションを何度も繰り返し、安全な施術しか行わない予定ダ。

 もちろん事故の確率もあるが、その確率はこの惑星に例えると『隕石に衝突して死亡する確率160万分の1』より遙かに低いネ」


「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


 アメリカのアナウンサーが安心して少し涙ぐむ。

 その姿を見て、僕も少しグッとくるものがあった。




 再びイギリスのアナウンサーが質問をする。


「今後の具体的な予定はどうなっていますか?」


「ワレワレの計画では、この惑星の習慣に合わせて、週に一度の間隔で発表を行う予定ダ。この惑星では国ごとに時間が分かれているようなので、各国の正午12時に発表を行うヨ」


「発表内容はまだ何も決まっていないんですよね?」


「ソウダネ。何も決まっていないし。もしかしたら何も行わないかもしれない。

 現状のシステムを調査して、問題が無いようならワレワレは何もすることが無いからネ」


「なるほど、あくまで問題点を解決する姿勢なのですね」


「当面の間はネ。まずは問題点の洗い出しと解決に徹するヨ」


「そうですか。ありがとうございます」



 ……これもしかしたら人類は支配された方が良かったんじゃないか?

 ここまでの宇宙人の意見を聞いている限りだと、そう思えてきた。


 隣に居るミサキにも感想を聞いてみる。


「なんだか大丈夫っぽいね」


「うん、そうね。いい人っぽい感じがする」


 ミサキの表情が先ほどと違い、かなり穏やかだ。

 僕も自然と笑みがこぼれた。



 会見はまだまだ続く。

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