開戦三日目 2

 僕が掲示板にモノリスが小さくなっているかもしれない事を伝えて、およそ10分後。テレビで掲示板に書き込んだ内容と同じ速報が入る。


「緊急速報です、どうやら巨大モノリスが縮んでいる様子です。

 戦闘開始時にモノリスは縦1700m、横900m、厚さ300mありました。

 世界8カ所にあらわれたモノリスはいずれも同じサイズでしたが、人類側の攻撃を受けて少し小さくなったようです。

 現在、アメリカのモノリスが最も縮んでいて、縦1576m、横813m、厚さ262m。

 体積で言うとおよそ73%に減っています。つづいてヨーロッパが79%、ロシア82%、我々の東アジア地方は85%となっています。

 無敵に思えたモノリスの防衛システムですが、このまま攻撃を続ければ人類が勝てるかもしれません」


 この情報は兵士たちにも伝わっているらしく、いままで敗戦濃厚で暗く落ち込んでいた顔が、明るく、凜々りりしく映る。砲弾を装填する兵士も、先ほどと比べ軽やかに見えた。


 人類に希望の光が見えてきた。




 砲撃を開始してから、およそ13時間たった。人類の砲撃によりモノリスは目に見えて小さくなった。

 特にアメリカのものは小さい。さきほど測定した大きさでは、縦1140m、横672m、厚さ213m。

 体積で言うと、最初の35%まで減っていた。

 兵士たちはかなり疲労しているはずだが、アメリカ軍の士気は上がりまくりで、ノリノリで砲弾を装填しまくる。


 砲撃の音が鳴り響く戦場から、突然、テレビは静寂の世界に切り替わった。

 国際宇宙ステーションからの中継だ。アメリカ人の宇宙飛行士が状況を説明する。


 同時通訳で少しわかりにくいが、これから宇宙空間のモノリスに対して核攻撃が始まるらしい。

 ステーションの窓の外を映し出すと、遙か彼方に消えそうなくらい小さなロケットの炎が、複数見えた。


 しばらくテレビ画面は変わらない。5分が過ぎようとしたとき、画面の奥から突如、豆粒くらいの光の球が現れる。そして光の球の連鎖は続いた。

 30発ぐらい打ち込んだのだろうか。光が収まり、攻撃後にカメラは宇宙空間のモノリスを写しだそうとするが、あまりにも遠くてダメージを与えたのかよく分からない。


 これから偵察衛星をモノリスに向かわせて、状況を確認するみたいだが、今日中には到達できないらしい。

 核攻撃の成果はかなり先にならないと分からない。



 テレビはスタジオに戻り、核攻撃にたいして討論をするが、結果が分からないので結論がでるはずが無い。

 カメラはまた、現場の砲撃シーンに戻そうとした時だ。割り込むように宇宙人からの映像が入ってきた。


「君たち、核攻撃をしたよネ。結果がしりたいよネ。

 でも君らの技術ではどうなったか分からないよネ。しょうがないから教えちゃうヨ」


 宇宙人のアップが映ったかと思うと、次に宇宙空間のモノリスの映像になり、画面の隅には『10分前』と表示されていた。モノリスの奥には爆発する前のロケットが映っている。


 宇宙人の映像の再生は続く、やがて先頭のロケットが爆発し、辺りは光に包まれる。

 すると、宇宙人のカメラはモノリスの側面からの映像に切り替わる。

 核弾頭から放たれた光は、何かの力に引っ張られるようにモノリスを避けて曲がった。


 宇宙人の解説が入る。


「コレは磁力線による誘導だヨ。君たちの単位で言うと7万ガウスくらいかナ。

 宇宙を長い間航行すると、大量の有害な放射線ガンマ線バーストなども対応しなきゃならないからネ。

 このくらいの光はねじ曲げられないとネ」


 僕は改めて宇宙人の技術の高さを知る。

 いまのところ宇宙人のモノリスは防戦一方だが、彼らが本気で攻撃してきたら、人類は一体どうなっていたんだろうか。


「でも、これだと衝撃波までは誘導できないんダ」


 なんと言うことだ。それなら、あの核攻撃は有効だったのだろうか?

 もしかしたら人類は宇宙のモノリスを倒してしまったのかもしれない。


 僕は期待を抱きながら映像を見守る。



 衝撃波がモノリスに到達すると、モノリスは大きくたわんだ。

 鈍い金属のようなモノリスはそのまま耐えきれず折れるかと思ったのだが、ゼリーのようにプルルンとはずんで、しばらく震えてから元の形へと戻った。


「衝撃はこうやって吸収するんダ」


 宇宙人が誇らしく語る。


 ……いや、無いわ。そんな吸収方法は無いだろう。

 もっとなんか凄い方法で衝撃を打ち消せよ。これはかっこ悪すぎるだろ……


 テレビを見ていた姉ちゃんが面白がって笑いながら言う。


「おかしいね、コンニャクみたい」


 そう言われてしまうと、もうモノリスがコンニャクにしか見えなくなってきた。



 人類の核攻撃はデタラメな宇宙人の技術によってかき消されてしまった。

 残された道は、砲撃による撃墜しかないだろう。

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