開戦三日目 3

 人類に残された時間は、のこり2時間と47分。

 世界各国のモノリスはだいぶ小さくなっている。


 モノリスの中で、一番小さいものはアメリカだ。やはり砲撃の多さに比例しているらしくその大きさは縦476m、横251m、厚さ42m。

 まだまだ大きいように映るが、体積に換算すると、当初の大きさの1.1%まで減っている。

 このままモノリスを削っていけば、あと30分もしないうちに消滅できる計算だ。


 テレビは日本の近くのモノリスを映し出す。

 日本、韓国、中国の連合軍が絶えず砲弾を浴びせ続けているが、アメリカのものと比べるとなかり大きい。

 それでも体積は2.3%まで減っていて、残り時間内にこちらも破壊できるはずだ。

 だが、モノリスはどれか一つだけ倒せば良いはずなのので、うちらの国の出番は無いかもしれない。



 スタジオでは軍事専門家が雄弁に語る。勝算の出てきた人類は有頂天うちょうてんだ。

 世界各国の街中からも中継が入るのだが、どこも勝った気分で、人々は酒を飲んで酔っ払っていた。


 誰しもが『勝てる』そう思っていたが、それは一つの緊急速報によって打ち破られる。



 モノリスが一番小さくなっていたアメリカから緊急速報が入る。

「ただいまアメリカのモノリスに変化がありました。中継を繋ぎます」


 僕はてっきりモノリスが墜落して人類の勝利したのかと思った。

 しかし事態は大きく異なっていた。


 テレビに写されたモノリスは、全体が赤く光っていた。

 そこに黒い文字で『Counterカウンター attackアタック』つまり『反撃』と書かれている。


 やばそうな雰囲気だが、アメリカ軍はお構いなしに砲撃を続けた。

 すると、モノリスの表面から正方形の板状の物体が剥がれ落ちる。大きさは詳しくは分からないが一辺が5メートル厚さは30cmくらいはありそうだ。


 いくつも剥がれた正方形の板は、なんと飛行しだした。重力に逆らい、あちこちへと自由に飛び回る。


 兵士たちは初めは慌てたが、すぐに冷静さを取り戻し、その剥がれた板を撃ち落とそうとする。

 狙いを定め、砲撃をしようとした時、正方形の板から光りの帯が兵士たちに降り注いだ。


What's happening?なにが起きている」「shitくそ」「Oh God神よ


 兵士たちは悲痛な叫びを上げ、空中に吸い上げられる。

 そしてそのまま正方形の板の中へと消えていった。


 この兵士の拉致アブダクションは画面のいたるところで起こっている。

 理屈は分からないが、戦艦の中にいてもお構いなしらしい。分厚い鉄板をすり抜けて、兵士が次々に空中へと消えていく。


「え、どうなってるの?」


 僕は思わず声を上げる。


「宇宙人が本気をだしてきたんじゃないの?」


 姉ちゃんがさらっと答えた。



 こんな馬鹿げた反撃方法があるだろうか。

 先ほどまでは人類は宇宙人に勝てそうだったが、これでは……


 そう考えていると、今度は日本の方から中継が入った。


「こちらもです。こちらも赤く光りました」


 先ほどまでは暗い灰色をしていたモノリスが真っ赤に光り、表面には『コレより反撃を開始スル』と日本語と中国語と韓国語で書かれていた。


 日本と韓国と中国の連合軍は一旦引こうとする。しかし高速で移動する飛行物体に船の速度が敵うはずもない。

 次から次へと人がさらわれていった。


 やがてほとんどの兵士が居なくなり、砲撃が完全に中断してしまった。



 先ほどまでは砲撃をしていたり、補給をしていたり。軍艦のいたるところで慌ただしく動いていた人たちが、今は誰も居ない。カメラは無人の甲板を写し出す。


 テレビはスタジオに戻るが、誰も言葉を発しない。

 出演者はただただ呆然ぼうぜんとするばかりだ。



 静まりかえったスタジオから、突然、宇宙人からの中継が入る。


「ごめんごめん、ちょっと本気を出し過ぎちゃったかナ。

 でも宇宙の中で生き残るにはこのくらいの出来事に対応できなきゃ。

 そうじゃないと滅ぶヨ。

 例えば小惑星の飛来とか、君らの軍事力で対応できてるかナ?」


 小馬鹿にした態度がむかつく。

 しかし彼らの言っている事はもっともだ。

 仮に小惑星が地球に向かってきたとしたら、人類はなすすべが無いかもしれない。



「それと彼らはワレワレが預かっている。用が終われば帰すヨ」


 カメラは宇宙人の背後を映し出す。

 ホールのようなかなり広い空間の中には様々な国の大勢の兵士が居た。おそらくさらわれた人達だろう。


 良かった、兵士たちは無事でケガ一つなさそうだ。


 だが、この元気な事が裏目に出てしまう。


 兵士の一人がもめ事を起こしだした、拳銃を抜き、宇宙人の方へと銃口を向けようとした。

 それを周りの同僚たちが何とか力ずく押さえつけようとしている。


 宇宙人は今のところは温厚と言って良いだろう。

 人類に対して攻撃らしい攻撃はしてきていない。


 だが、もし傷つけたらどうなるか?

 相手も本気を出し、殺し合いになるかもしれない。



 人間同士のもめ事を見た宇宙人は意外な発言をした。


「銃を撃ちたいのなら、撃っても構わないヨ。

 仮に私が倒れれば君たちの勝ちでも構わない」


 意外な提案に兵士たちは目を丸くする。


「一斉に攻撃した方が、確率は上がるヨ。さあ攻撃してごらン」


 さらわれた時にたまたま武器を手にしていた者が宇宙人の周りに集結する。

 武器は拳銃だけではなく、ライフル、マシンガン、ロケット弾と様々だ。


 彼らは宇宙人を取り囲むよう、半円を描く配置につくと、武器を構えた。

 下士官の一人が進み出て、号令を発した。


「3、2、1、Fireファイヤー


 爆音と共に世界各国の銃弾が一斉に宇宙人に襲いかかる。

 だがそれらは届くことは無かった。

 見えない壁でもあるかのように全ての弾丸は空中に静止した。


 ロケット弾は静止した後、爆発するのだが爆風が回りに広がらない。

 透明な小さな箱に入ってるように炎が封じ込められていた。


「ワレワレの防御システムは、

 超音波層、レーザー防御層、磁力誘導層、重力牽引層、テレポート防御層

 などのさまざまな層から成り立っている。

 今の攻撃は全て超音波層のみで防いだ。それでは攻撃が届かないヨ」


 宇宙人は防御システムの解説をしてくれた。


 説明を受けても納得いかない兵士は射撃を続ける。

 しかし全ての弾丸は空中に止まり、宇宙人には届かない。やがて弾丸が尽きてしまう。


 血の気の多い兵士は殴りかかったが、光のスクリーンが表れて、その中へと吸い込まれる。

 次の瞬間、殴りかかった兵士は50メートルほど後方に現れた。どうやら転相テレポートさせられたらしい。


「のこり時間でがんばってモノリスを倒してネ、君たちにまだ勝ち目はあるかもヨ」


 そう言うと中継は切れてしまった。



 防御システムが分かったところで、人類がそれらを突破できなければ意味が無い。

 ここまで技術力の違いを見せつけられてしまうと、これらのシステムを攻略できる気がしない。



 テレビはスタジオからの中継に戻るのだが、沈黙が続いている。


 スマフォで掲示板をのぞいてみる。そこには、


「おわった」

「もうだめだ」

「ご愁傷さま」


 人類に対して『おくやみ』の言葉が書き込まれるだけだった。




 そして何もしないまま時間が過ぎていき、時間切れとなってしまった。

 人類は宇宙人に敗北したのだ。


 これから宇宙人による支配が始まるだろう。

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