開戦二日目 2

 戦闘機の攻撃が一通り落ち着く。するとテレビは全く別の場所から中継が入った。


「こちら種子島宇宙センターです」


 ロケットの発射台が画面に映った。


 青く済んだ空を背景に、現場のアナウンサーが語り始めた。


「ただいま、アメリカの核弾頭を載せたロケットが種子島を飛び立ちます。

 宇宙にある巨大モノリスを核攻撃するためです。

 詳しい内容はお伝えする事ができませんが、各国から同時に攻撃がされるようです」


 ロケットは打ち上げ直前のようで、周りからは白い蒸気のようなものが立ち上がっている。


「カウントダウンが1分を切りました、間もなく発射されます

 ……5、4、3、2、1、0、ただいま発射されました。

 轟音を鳴り響かせ、ロケットは順調に宇宙に向かっていきます」


 点火されまばゆい閃光を放ちながら、ロケットはまっすぐに宇宙に向かっていく。

 その後、しばらくすると『ロケットは無事に軌道上へと乗りました』と速報が入る。

 地上での攻撃が成果を上げてない以上、コレに期待するしかないかもしれない。



 しかし核攻撃は、宇宙人に対して有効なのだろうか?

 直前で爆発すればダメージを与えられそうだが、近づくとミサイル攻撃の時のように、レーザーで迎撃されてしまいそうだ。



 種子島宇宙センターの中継が終わると、こんどは世界各国からの中継が入る。

 いずれの状況も最悪らしい、様々な兵器による攻撃は一つも当たらず、全て迎撃されてしまっているようだ。


 人類の攻撃は全く効いていないが、ひとつだけ幸いな事がある。宇宙人に撃墜された飛行機は一機も無いという事だ。



 テレビ中継を見入っていると、声が掛かった。


「弟ちゃん、人類どうよ」


 姉ちゃんだ。ようやく起きてきたらしい。


「うーん。攻撃が当たらないみたいだよ」


「なんでよ? 乗っ取りはもうしないんでしょ?」


「いや、レーザーや、なにかよく分からない装置で、こちらの攻撃が全部防がれているらしいんだ」


「ふ~ん。そうなんだ」


 興味があまりないのか、寝起きでまだ眠たいのか、生返事が返ってきた。

 人類の未来に関わることなのだから、もうちょっと興味をもってほしい。


 姉ちゃんは台所にある菓子パンと飲み物を持ってくると、居間のソファーに座り、僕といっしょにテレビを見始める。



 変わりない戦闘機の画面が流れ続けるかと思えたが、突然テロップが表示された。


『アメリカで犠牲者が出た模様』


 すぐにスタジオへと中継が切り替わる。


「緊急速報です、ただいまアメリカで犠牲者が出た模様です。

 情報によると犠牲者は13人、ガンシップと呼ばれる特殊な攻撃機に乗っていたようです。

 ガンシップとはどのような飛行機なのでしょうか」


 隣にいる軍事専門家に話しを振る。


「簡単に言うと、大型の輸送機に大砲を付けたような飛行機ですね。

 105mm榴弾砲りゅうだんほうという大型の大砲を備えています。

 こちらの写真は、105mm榴弾砲を写したものです。

 重量1.3トン、全長5.2m、有効射程距離は11kmというものです」


 専門家はテロップを取り出す。

 そこには大型の自動車くらいの、大きな大砲が映っていた。

 どうやらこの大きな大砲を輸送機にくくりつけてあるらしい。


「あっ、たった今、ガンシップ内からの映像が入りました。こちらをご覧下さい」


 慌ただしくテレビ画面が切り替わる。


 切り替わった映像は軍から提供されたものらしく少し画像が荒い。

 輸送機という話なので、広い室内を想像していたのだが、中にはギッシリと機械や砲弾で埋め尽くされていて、中にいる兵士は窮屈そうだ。


 映像の中では、兵士がガンガン大砲の弾を込めて撃っている。

 何事もおこらなそうだが、次の瞬間、カメラの映像は真っ白になり、辺り一面が光りで満たされた。

 そして、しばらくしてその光が収まると兵士は忽然こつぜんと消えていた。


 その後、主を失った飛行機はそのまま自動運転で飛んでいく。



「これはどのような状況でしょうか?」


 アナウンサーが隣の軍事専門家に説明を求める。


「うーん、なんとも言えません」


 分からなくて当然だ、宇宙人の持っている兵器の説明などできる人間はいない。


 混乱しているスタジオをよそに、またテロップが入る。


『エイリアンから新たな情報が発信!』


「また新たな情報が入りました。こちらをご覧下さい」


 テレビはまたも切り替わる。


「えーと、この惑星の映像配信はこれでいいのかナ?

 ウム、では本題に移ろう。

 ここは月軌道上のワレワレの基地だ、そして先ほど13人を捕虜として確保したヨ。今のところは生きているから、今のところは安心してネ。

 それでは残り、32時間と16分32秒。がんばってくれたまエ」


 カメラは例の宇宙人を写した後、13人の兵士の姿を次々と映し出した。人質は無傷のようだ。


「捕まったのはあの人たちだけなの?」


 姉ちゃんが僕に聞いてきた。


「うん、そうだよ。ほかに捕まった人はいないらしい」


「たった一機だけか運が悪いね。なんで彼らだけが捕まったんだろう?」


「確かにそうだね。なんでなんだろう?」


「よほど嫌なヤツだったんじゃないの」


 姉ちゃんが冗談っぽく言った。


 ……まてよ、冗談っぽく言っているが、これは真実なんじゃないか?

 ガンシップによる攻撃が、宇宙人にとって嫌な攻撃だったんじゃないだろうか?


 僕はこの仮説が正しいか、試しに著名で書き込める巨大掲示板に意見を投下してみた。


-----------------------------

「ガンシップの乗務員だけがさらわれたのは、ガンシップによる攻撃が宇宙人にとって厄介だったんじゃないだろうか?」

-----------------------------


 すぐに反応があった。


-----------------------------

「なるほど、そうかもしれない」

「確かに、一理あるな」

「言われてみれば、彼らだけさらわれるのは確かにおかしいな」

-----------------------------


 肯定的な意見が多いので、僕は次の行動を起こそうとした。


-----------------------------

「この仮説を軍関係者に伝えた方が良いかな?」

-----------------------------


 すると、こんな答えが返ってくる。


-----------------------------

「知り合いにマスコミ関係者がいるから伝えてみるよ」

「俺は、自衛官の知り合いに伝えてみる」

「俺、自衛官で作戦中だから、上司に伝えてくるよ」

-----------------------------


 ……作戦中の自衛官がこんな場所を覗いてちゃダメだろ。

 まあ、役に立つかわからないが、僕の意見は伝わったようだ。


 その後、しばらく掲示板を眺めているとこんな書き込みが来た。


-----------------------------

「先ほどの話、上層部に通ったよ。

 明日の総攻撃に備えて、これから忙しくなるから書き込めない」

-----------------------------


 この日、テレビを見続けたが、相変わらず戦闘機の攻撃は当たらない。

 ダメージを全く与えること無く2日目が終わった。


 はたして人類は勝てるのだろうか?

 あのガンシップが何かヒントになれば良いのだけれど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る