記者会見の前夜

 昼食が終わり無駄話をしていると、担任の墨田先生が見回りにやってきて、

「いつまで残っているんだ、早く帰れ」

 と軽く怒鳴られた。


 僕たちは手早く帰りの準備をして、教室を立ち去った。



 帰り道も同じ話題が続く。できるだけ話を続けたいのでゆっくりと歩くのだが、各々の家へと分れる道への交差点へとたどり着いてしまった。もちろん結論は出るハズもない。


「またな」「じゃあね」「Good byeグッバイ

 ヤン太、じみ子、キングといつも通りの挨拶を交わして、それぞれ家の方向へと消えていった。



 実家が近いのでミサキと二人きりになった。


 ミサキと話す。


「明日は大丈夫だよね?」


 僕はただの高校生で何の保証もできないが安心させるため、こう言い切った。


「大丈夫だよ」


 少し心配そうな顔をしていたミサキに笑顔が戻った。

 そのまま別れを挨拶を交わすと、僕達はそれぞれの家の中へと入る。



 家に帰ると、まずテレビを見て情報を得ようとする。僕は居間のテレビへと向う。

 自分の部屋にもテレビはあるが、地上波しか入らない。居間にあるテレビはBSとCSが映る。

 CSには海外のニュースチャンネルもあったはずなので、何か新しい情報が入るかもしれないからだ。


 情報収集のため、居間に行くと、姉ちゃんがパジャマ姿で腹を出してソファーで寝ていた。


「人類存亡の危機かもしれないというのに、この人は……」


 姉を足で押しやり、ソファーに自分の座るスペースを作ると、さっそくテレビを付ける。

 日本のテレビ局をザッと見て回るが、あいかわらず『記者会見までのカウントダウン』という情報以外は出てこない。


 そこで海外のニュースチャンネルに切り替えてみる。すると、こちらではもう少し建設的な意見のやり取りがなされていた。

 これから起こるであろう出来事を書き出して、否定派と肯定派に別れた様々な専門家が分かりやすくその確率を精査して発表していた。



 大まかな内容は、


『友好的な内容の発表 78%』

『観測者として、今後は地球文化には関わらないなど、中立的な立場の宣言 19%』

『宣戦布告など、敵対的な発表 3%』


 と、なっていた。



 やはり記者会見をわざわざ開くのは、何か『友好的な発表をするため』だと考えるのが主流のようだ。


 日本の専門家も

「もし仮に人類を攻撃するのであれば、わざわざ記者会見などせず、いきなり攻撃してくるでしょう」

 と言っていたが、海外の専門家もおおむね同意見のようだ。


 僕は少し安心をする。



 他に何か情報が無いかと、海外チャンネルを見回っていたら、姉ちゃんが起きた。


「あぁ、弟ちゃん、おはよう」


 時刻はもう午後2時過ぎなのに、おはようときた。

 いろいろと意見を並べて反抗しても良いのだが、今は忙しいので会話を合わせる。


「おはよう姉ちゃん」


「あれ、もう2時か、帰るのがずいぶん早くない」


「国家非常事態宣言だからね」


「なにそれ、なにが起きたの?」


「ほら見てみなよ」


 僕はテレビを指さす。

 そこには例のモノリスが映っていて、着々とカウントダウンが進んでいた。

 その映像を見ながら、僕は姉ちゃんに解説をする。


「宇宙船から謎の物体がやってきて、明日に記者会見するんだってさ」


「へぇ~、なにを発表するの?」


「それが全く分からないから、みんな大変な事になっているんだよ。

 専門家の言うには、友好的な発表という見方が大半かな。

 なかには、宣戦布告という過激な意見もあるけど、そういった意見は少数派でほとんど起こりそうに無いかな」


「ほほぅ、なるほどねぇ。でもこういった場合は映画とかだと戦争になるじゃない」


「そりゃ映画フィクションの中ならね。でも現実だと戦争なんて滅多におこらないじゃない」



「まあ、そう言われれば確かに。でもそれだとつまらないじゃない。

 ここは派手に戦争するべきでしょう」


「えぇぇ~」

 僕はその発言に、ドン引きする。


 たしかに映画などでは、前半に地球側がやられていても、中盤で何か都合の良い弱点を見つけて、後半に巻き返して勝ってしまうが、現実ではそんな事は起こりえないだろう。


 人類と宇宙人の科学レベルを比べると、おそらく竹槍でジェット戦闘機と戦うようなモノだ。人類が一方的に蹂躙じゅうりんされて終了する未来しか考えられない。


「ほら、人類の人数が劇的に減ればさぁ、求人率が高くなって良いところに就職できそうじゃない」


 目的はそこか。就職活動のために地球を滅ぼす気か、この姉は。

 冗談にしても、もう少し考えて発言するべきだろう……


「それに昨日の面接で私を落としたセクハラぎみの面接官、この機会に死んでしまえば良いんじゃないかな」


 ……先日の面接の事をまだ根に持っている様子。

 テレビを見ながら、昨日の面接の愚痴をつぶやいている姉ちゃんをほったらかして、僕は自分の部屋に戻った。



 部屋の中に戻った僕は、引き続き情報を収集する。

 しかし、これといった有力な情報は入ってこなかった。


 それは答えを知っているヤツがなどいないからだ。

 ネットの掲示板の無駄な討論を見ながら、無駄に時間だけが過ぎて行く。


 気が付けば、僕は机に突っ伏して寝ていた。



 翌日の朝の6時57分。いつもセットしている目覚ましが鳴る3分前。

 寝不足にもかかわらず、僕は目を覚ました。


 いつもの習慣で窓を開け放ち、空を見上げる。

 そこには相変わらず、銀色の月が存在していた。


 今日は、宇宙人から記者会見が開かれる。

 いったいどんな発表がされるのだろうか。

 不安と期待が一杯で、僕の胸は高鳴っていた。

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