4時限目と臨時休校

 3時限目が自習へと切り替わりチャイムが鳴る。授業の最中で先生が戻ることは無かった。

 4時限目を迎える前に、また校内放送がまた流れる。


「生徒は自分の教室に待機して下さい。

 繰り返します、生徒は自分の教室に待機して下さい」


 考えられる原因は、先ほどテレビで見たモノリスだろう。


 ほどなくして4時限目が始まったが、数学担当の斉藤先生が来ない。


 暇を持て余し、スマフォでトゥイッターを確認しようとしたのだが、みんなが例のモノリスの事をつぶやき過ぎたのか『ただいまサービスが混み合っています』という画面が表示されたままで、そこから先に移動しない。


 しょうがないので、ニュースサイトを覗いてみるのだが、あいかわらず

『記者会見までのカウントダウン』というテレビ以上の情報は見当たらない。



 4時限目に入って15分ほどした頃だっただろうか、数学の斉藤先生ではなく、担任の墨田すみだ先生が再びやってきた。

 教壇に付くと、生徒達に軽く怒鳴るように連絡を言う。


「今日の授業は中止だ、明日の授業も休講だ、おまえらすぐに帰っていいぞ」


「やったー」「何して遊ぶ」


 生徒達は喜びの声を上げるが、先生はそれをとがめる。


「まてまて、国家非常事態宣言で自宅待機だからな、くれぐれも外出はするなよ」


「なんでだよ」「少しぐらい良いじゃない」


 教室のあちこちからブーイングが上がった。


「おまえら、外出したら下手すりゃ逮捕だぞ。おとなしくしてろ」


『逮捕』という言葉は高校生には強烈だ。


「へーい」「わかりました」


 ふてくされながら、しぶしぶ了承の返事を返す。


 うちのクラスメイト達は実に脳天気のうてんきだ。

 下手すれば明日、人類が滅んでしまうかもしれないというのに


 しかし、もし明日が『地球最後の日』となったら僕は何をするんだろうか?

 今朝の告白がうまく行ったなら、幼なじみのミサキとイイ感じに発展ができたかもしれないが、見事に振られてしまった直後だ。間違ってもそんな事にはならないだろう。


 ……思い出したら、悲しくなってきた。

 明日が、人類最後の日でもかまわないかもしれない。



 ざわついている生徒を前に、墨田先生が念を押す。


「繰り返すぞ、明日は外出禁止、自宅待機だ」


「先生、今日のお昼はどうしましょうか?」


 ミサキから緊迫感のまるで無い質問が飛び出てきた。


「まあ飯くらいなら良いだろう。飯食ったら帰れ、寄り道はするなよ」


「わかりました」


「では各自気をつけて帰るように」


「先生、さようなら」


 先生に挨拶をすると、本日の授業は終わりとなった。




 授業が終わると、いつもの親しいメンバーが僕の席の周りに集まる。

 昼飯を一緒になって食ったり、よく遊んでいる5人組だ。


 僕と幼なじみのミサキ、ヤンキーに憧れているヤン太と、他に二人。


 一人目はゲーマーのキング、太っていてでかい。本名は真山まやま 昇太しょうた

 あだ名の由来は、中学生の時に地元の格闘ゲーム大会で優勝したから。

 高校生になってもその腕前はすごい。この間、銃を撃って殺し合うゲームで世界7位になったとか言っていた。


 二人目は小学校から同じ学校に通っている、地坂ちさか 莉子りこ、あだ名は『ジミ子』。

 背が小さく、消極的な性格なのであまり目立たない。地味だからジミ子。

 ちょっとした悪口のように感じるかもしれないが、小学生の時からのあだ名で、付けた当時はそんなに悪意は無かったと思う。本人も気にしていないようなので、ずっとこのあだ名のままになっている。



 ジミ子が「オッス、昼飯どうする?」みんなに問いかける。

 するとヤン太が「いつも通りで良いんじゃねーか」と返す。


 教室の机で島を作り、各々弁当を広げた。

 食事をしながら雑談を交わす、話題はもちろんモノリスだ。


「アレ、どう思う?」

 ジミ子がまだついているテレビを指さした。


 キングが大きなリアクションを伴い返事をする。

HAHAHAハハハそれより、今日の午後と明日が休みになったんだ、ゲーム三昧だぜ」

 キングは海外のゲームに手を出しているせいで、最近はしゃべりが外人っぽくなってきた。


「いつも通りじゃねーか」

 ヤン太が突っ込みを入れる。


「ねぇ、記者会見ってなにを発表すると思う?

 これから宇宙人との親睦しんぼくとか始まったりするのかな?」

 ミサキが期待を込めてみんなに問いかける。


 それをヤン太が茶化す。

「どーだろーな。案外、ケンカしに来たかもよ」


「そんな事ないって! 絶対に友達になりに来たんだよ」

 どうやらミサキは穏和派のようだ。


「イヤ、人類への宣戦布告かも?」

 ジミ子が突然、おっかない事を言い出した。


「だ、大丈夫だって」

 それでもヘラヘラと笑うミサキを見て、僕は少しからかってやろうと思った。


「ジミ子の話も否定は出来ないよ、エイリアンの出方次第では大変な事になるかもしれない。下手をすれば『人類最後の日』とかになるかも……」


「……明日が最後の日」


 ミサキが僕の言葉を真に受けて、急に深刻な顔をして悩んでいる。

 そこまで脅す気は無かったので、僕は慌ててフォローをする。


「ま、まあ大丈夫だよ。アメリカの大統領とかがよほど馬鹿じゃない限りはね……」


「そ、そうよね」

 その言葉を聞いて安心したのか、ミサキの表情が明るくなった。


 キングがうちらのやり取りを見て、あきれたようなリアクションをしながら、

WHOOO!フー俺には『人類最後の日』でも関係ないね、ただゲームをやるだけさ」

 と、言い放つ。彼はこの非常時でもいつもの調子だ。


「たしかに、キングは人類が滅びそうでもゲームやってそうだよなー」

 ヤン太がそう言うと、みんなに笑いが起きた。



 気温も過ごしやすく、心地の良い日だった。

 僕らは誰も、この『エイリアンからの記者会見』を深刻に受け止めてはいなかった。

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