三限目の授業とモノリス
それは三限目の授業の時。担任でもある現国の
校内放送が突然、流れてきた。
「授業中ですが、政府から緊急事態のお知らせがあるそうです。
教室のテレビを至急つけて下さい」
なんだ、なんだと教室が騒がしくなる。
墨田先生は「おまえら静かにしろー」と怒鳴りながらテレビのスイッチを入れた。
こういう時に入れるチャンネルは、もちろん国営放送である。
テレビを入れるとアナウンサーが慌ただしく原稿を読み上げている。
「この後、政府から正式に対応策が発表される予定ですが、まずは中継先へ繋ぎます、どうぞ」
そういうと、画面が中継先へと切り替わった。
中継先は、公園のような緑豊かな丘陵地で、レンガ造りの古風な建物があった。
2階建てのあまり大きくない建物で、大きな窓が設置されている。
その作りから歴史と風格を感じるが、建物の頂上部分に赤いボールのような現代風のオブジェがついていて、雰囲気をぶち壊しにしていた。
しばらく間を置いて、中継先のアナウンサーが答える。どうやらかなり遠い場所らしい。
「はい、こちらイギリスのグリニッジ天文台です。先ほどから現れた正体不明の物体をご覧下さい」
そう言うと、こんどはその建物の少し先を映し出す。
そこにはモノリスがあった。
メタリックな暗いグレーで出来たドミノのような細い立方体。
そのおおきさは高さ5メートルはあるだろうか。かなり大きい。
そしてモノリスには光の文字のようなものがびっしりと刻まれていた。
「中央に時計のような数字があります」
アナウンサーがそう説明すると、カメラがモノリスの中央部分を映し出す。
そこには『23:17:04』とあり秒の部分の数字が徐々に減っている。
アナウンサーは時計と言ったが時間が減っているので何らかのタイマーのようだ。
「みなさん、この数字は減っています。
この数字がゼロになると、何が起こるか不安になると思います。
ですが安心して下さい。こちらをどうぞ。」
そう言うと、モノリスの一部分を映し出す。
そこには光の文字で『記者会見マデ』と日本語で書いてあった。
「他の文字をご覧下さい」
そう言うとカメラはモノリスをなめるように映し出す。
英語、ロシア語っぽい文字、中国語っぽい文字、中東やアラブで使う文字が映し出される。
「英語の部分ですが『press conference』という部分があります、『記者会見』という意味です。
ここには各国の報道陣が集まっていますが、文字を確認をしたところ、意味は全て『記者会見までの時刻』という事を示しているようです。
いったんスタジオへお返しします」
そう言うと、中継は終わり、テレビ局のスタジオに映像が移る。
「今回のこの状況、どうでしょうか?」
テレビ局のアナウンサーが、呼び寄せたエイリアン専門家に話しを振る。
「何か人類に向けて発表したいのでしょう。
もし仮に人類を攻撃するのであれば、わざわざ記者会見などせず、いきなり攻撃してくるでしょう。
私は友好的なコンタクトだと思いますよ」
この専門家が言っている事はもっともだ。
たしかに、人類を滅ぼそうとするならば、記者会見を開く事はないだろう。
食い入るようにテレビを見ていたら、2回目の校内放送が流れた。
「先生方は至急、職員室へ集まって下さい。
繰り返します。先生方は至急、職員室へ集まって下さい」
墨田先生は僕らに向けて
「ちゃんと自習してろよ」
と生徒に注意をしてから職員室へと向かった。
この状況で、僕らはそんな忠告を聞くはずはない。
クラスのみんなはテレビを凝視し続ける。
だが、テレビは10分もすると、また同じ事を言い出した。
他に情報が入ってこないのだろう。
さきほど聞いたセリフを繰り返すばかりだ。
クラスの誰かが言い出した、
「他のチャンネルに変えてみようぜ」
言われるがままに、僕はリモコンを取って他のチャンネルに切り替える。
次々にチャンネルを変えていくが、映像はどれも同じような物ばかり。
『記者会見までのカウントダウン』という事以外の情報は得られなかった。
あまりの情報の変わらなさに、飽きてきた。
すると誰かが言った。
「テレビ
テレビ都京とは、戦争が起こっている最中でもアニメを放送していたと言われている伝説のテレビ局だ。
ちなみにこの局が臨時放送をするときは『世界が滅ぶ時』と噂されている。
どうせ通販番組か料理番組だろうと、テレビ都京にチャンネルを合わせると、そこにはなんとグリニッジ王立天文台が映っていて同じような実況中継をやっていた。
「なんだこれ」「これは本当にテレビ都京か」「やべーぞコレ」
いままで和やかだった教室が、緊張と恐怖に包まれた。
事態は非常に深刻だ。もしかすると人類は滅んでしまうかもしれない。
……クラスみんなが青ざめていたら、2分もしないうちに、
「それでは臨時ニュースはここまでにして、これからは今日の晩ご飯、簡単5分レシピクッキングをお送りします」
と、おそらくいつもの番組編成が開始された。
「えっ」「馬鹿な!」「この局面で料理番組だと!」「これが、これがテレビ都京か!」
あまりの空気の読めなささに、クラスメイト達が別の意味で恐れ上がる。
……この局はもう少し、緊張感というモノを持った方が良いだろう。
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