登校風景と何気ない告白

 幼なじみのと手をつないで高校へ通う。

 高校生にもなって手をつなぐのは、正直どうかと思うが小学生からの習慣なのであきらめている。


 一度、中学の時に「そろそろ手を繋がなくても良いんじゃ無いか?」と言ったら

「もうダメなのかな?」と悲しい顔をされてしまった。

 あまりに悲しそうだったので僕は強く断る事もできず、それ以来は惰性だせいで繋ぎ続けている。



 うちの高校は、よくある地方都市にある普通の公立高校だ。

 そして学校の特徴と言えば何もない。


 スポーツあまり得意とは言えず、どの競技も大会に出ると2~3回戦で負けてしまう。成績も普通で、僕らが入学したときは、ピッタリ偏差値50という全国的に平均という値を出した。

 なんの面白みもない学校だ。


 そんなどこにでもある普通の高校の利点と言えば近いことだ。

 徒歩でおよそ20分の場所にある。


 もしこの高校に通わないとすると、多少面倒くさい。

 他にもっとも近い高校でも、電車を乗り継ぎ40分以上かかってしまう。

 地方なので、他に選択肢が無いのだ。

 だからこの高校に通う連中は、地元の小学生や中学生からの同級生が意外と多い。



「いよっ、お二人さん」

 元気よく僕らに挨拶をしてくる。その声は聞き覚えのある声だ。

 声の主は矢上やがみ 太一たいち、あだ名はヤン太。


 コイツは小学生からの付き合いで、少し変わっている。

 小学生の時に将来の夢と聞かれて『ヤンキーになりたい』と答えていた。

 高校になり、夢が叶い念願のヤンキーになった。頭は金髪に染めている


 ヤン太は少し小柄だがケンカは強いらしい。

 よく近辺の高校へいって、ちょっかいを出している。

 3日ほど前にも打ち身をしたらしく、腹部に湿布を張っている。

 本人曰く、ケンカではなく『決闘』というらしいが。僕にはよく違いが分からない。


 ちょっと性格は変わっているが、友人には優しく仲間思いで良いヤツだ。

 付き合いは深く、去年の夏休みは半分以上は遊んだ。

 ただの友人というより親友と言えるだろう。



 僕らは学校へ向かいながら普段通りの会話をする。


「今日の一限目は古文か…… たりーな」

 ヤン太が授業も始まっていないのに愚痴を言う。


「私も寝ちゃいそう」

 ミサキもそれに同意する。


「できれば起きてた方が良いよ、噂によると古文の水沢先生、寝てるヤツをチェックしているらしいから」


「なるほど、あの陰湿な水沢のやろーならやってそうだな」


「私、すでに赤点かも……」


 話しながらだと時間は早く過ぎる。

 あっというまに学校に到着し、教室の中へと移動する。



  ◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



 教室に着き、自分の席に着く。


 このクラスには嫌なヤツがいた。

 野口のぐち 祐二ゆうじ、何かと周りを見下した態度を取ってくる。

 普通なら嫌われるだけの存在だが、社長の息子らしく金回りが良いらしい。いつも3~4人の女子の取り巻と一緒に居る。


「昨日のテレビみた」

「そんなことより今日はどうしようか?」

「またカラオケでも行く?」


「ああ、またおごってやるよ」


 楽しそうな会話が聞こえてきた。



 本音をいうと、いつも女子と一緒に居てうらやましい。

 クラスメイト達からヤツが嫌われている理由はその性格もあるが、妬みが半分以上あるだろう。


 僕のそばにはいつも幼なじみのミサキが居るが、恋人という関係にまでは行っていない。

 あくまで友人という立場だ。


 野口と女子が楽しそうに話しをしているのを見て、僕は前々から思っていた事を実行してみようと決断する。思いきってミサキに告白をした。


「僕たちも試しに付き合ってみよっか?」


 それとなく柔らかく、できるだけ自然に伝える。

 すると少し戸惑った顔でミサキはこう返した。


「……卒業するまではこのままの関係で居ようよ」


 僕の告白は断られ打ち破れた。

 その答えは全く拒否された訳では無いが、告白は流された格好だ。


 目の奥が少し熱くなり、瞳が潤んできた。

 それを悟られないように、僕は古典の教科書を開き顔を隠すようにした。


 まもなく一限目の古典の授業が始まる。憂鬱ゆううつだ。


 一限、二限が終わり、三限目の授業の最中、それは起こった。

 僕の失恋どころの話ではなくなった。

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