姉ちゃんと幼なじみといつもの光景
朝食を取るために、2階の自室から、一階の台所へと向かう。
階段下の洗面台では、いつものように父さんが丁寧に髪をとかしていた。
父さんは髪の毛が寂しい状況となっている。頭頂部にもう髪は無く、横から無理矢理持ってきている。いわいるバーコードハゲというやつだ。この髪型のセットは、いつも10分以上かけて行われる。
あきらめて丸坊主にしてしまえば良いと思うのだが、ゆずれない何かがあるらしく、無駄に思えるこの作業は毎日続けられていた。
今は全く理解はできないが、僕は父さんの遺伝子を受け継いでしまっている。
この気持ちが分かるようになってしまう日が、そのうち来てしまうかもしれない。
そんな洗面台の脇を通り過ぎ、トイレを済ますと、台所へと向かう。
台所は母さんが用意してくれていた朝食が並んでいた。
席につくと、「いただきます」と、手短に挨拶をして食事にかかる。
テーブルの上にあるトーストに目玉焼きとソーセージを乗せると、二つに折り込むように挟んでかじりついた。
母さんは僕の行動を見ると「お行儀が悪いわよ」と注意をする。
「この方が美味しいんだよ、母さん一度やってみてよ」そう反論をするのだが、
「そんな汚い食べ方はやりません」と母さんには突っぱねられた。
なにげない会話をしていたら、台所の奥から姉ちゃんがあらわれた。
朝っぱらから姉ちゃんは、片手に缶チューハイを持ち、かなり酒臭い。
「ちょっと、
僕を見るなり絡んできた、これは面倒くさそうだ。
「昨日の昼、面接いったんだけどさぁ。
その日の夕方には不採用の通知が来たんだよね」
「へぇ」
素っ気ない返事を返す、また面接に落ちたようだ。ちなみに姉ちゃんは前に居た会社は潰れて、現在は無職である。
「あの面接官、胸ばかり見やがって。なんだ、私の胸がCカップだから採用されなかったのか?
Eカップ、いやせめてDカップあれば採用試験に受かってただろう。
まったく、ふざけんじゃねーよ」
……面接の話など、はっきり言ってどうでもいい。
朝は忙しいし、まじめに酔っ払いの相手をしている暇はないので、適当に話を合わせる。
「そうだね、姉ちゃんの言うとおりだよ。その面接官が悪い。
でもそんなセクハラするような人を面接官にしているような会社はろくなもんじゃないよ。
落ちて良かったんじゃないかな」
「そっかー、そうだよね。うんそうだ」
なにやら納得してもらったようだ。大きく何度もうなずいている。
まだ23歳というのに、酒が入ったその仕草はオヤジくさい。
姉ちゃんが、また変なことを言い出す前に、僕は素早く食事を済ます。
そして学校に出かける身支度が終えると、逃げるように家から出かけた。
学校に行く前に僕は寄り道をする。
うちの3軒先には同じ高校に通う同級生がいる。
いちおう女子で、いわいる幼なじみというヤツだ。
小学生、中学校、高校と一緒の学校に通っている。
この幼なじみ、見た目はちょっとかわいいのだが、その行動には問題がある。
かなり適当でいい加減な性格をしている。やることなすこと何かが欠けている事が多く、かなりズボラだと言って良い。
他の同級生の女子はそれなりに身なりを気づかっているが、コイツは違う。少しでも面倒な事は全くしない。
一度「他の女子みたいにキチンと化粧をしてみては?」と聞いたのだが。
「でも校則では禁止されているからできないよ」と、正論で返してきた。
たしかに校則では禁止なのだが、守っている女子など居ない。ようは自分が面倒なので言い訳をしてしないだけだ。
もう少し、身なりをちゃんとしていれば、かなりモテるとは思うのだが、そんな気は全くないらしい。
そんな性格の幼なじみの家のチャイムを鳴らす。
すると「ツカサでしょ? 入ってきて良いよ」と、ヤツの声が聞こえた。
僕はいつものように玄関を通り抜け家の中に入る。
家の中に入ると、幼なじみの
ちなみにうちの学校の制服は男子は学ラン。女子はブレザーにネクタイという格好だ。
「やって」
ミサキがいつものように近寄ってきた。
しょうがなく僕は、外れているYシャツのボタンを全て留め、手慣れた手つきでネクタイをキチンと締めてやる。
この幼なじみ。自分でまともにネクタイを締められない。
どうも自分でやると、斜めになってしまうようだ。
ちなみに学校でも事あるごとにこういった『お直し』をさせられている。
体育の授業の後には必ずやらされる羽目となる。
周りからは、『 夫婦 』と冷やかされたが、そう言われることはもう慣れてしまった。
だがこの光景を見て夫婦と言われるのは冷静に考えるとおかしい。
妻が夫を送り出す時にネクタイをしてヤルのは分かる。
だが、夫が妻のネクタイを直すのはどうなんだ、これは逆ではないか?
……まあ、どうでも良い事かもしれないが。
ミサキは身支度が終えると、鞄を手に取り。
「じゃあ行ってきます」と声をかける。
少し離れた場所から「気をつけて行ってきてね」
おばさんの返事が聞こえた。
僕は幼なじみの手をとって外に出る。
空を見上げると、銀色の月はいつもそこにあり、常に地球を見張っている様にも見えた。
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