エイリアンに支配された日常と非日常  ~頭の良いアホなエイリアンに支配されて、地球は大変な事になってしまいました~

クロウクロウ

ふたつ目の銀色の月

 布団から手を伸ばし、パシッと目覚ましのスイッチを押す。

 時刻は6時53分、7時にセットした目覚まし時計はまだ鳴っていない。


「また、目覚ましに勝ってしまったか」


 僕は独り言をつぶやき、布団を跳ね上げ、カーテンと窓を開け放つ。

 そして空を見渡し、太陽の登りきった空の中から月を見つけ出す。


 明るい空の中では、月は薄くぼんやりと確認できる程度で、いまにも見えなくなりそうだ。

 しかし、おぼろげな月に寄り添うように、ハッキリとふたつ目の『銀色の月』は今日もそこにあった。



 僕の名は笹吹ささぶき ツカサ、高校2年生。どこにでもいる一般的な学生だ。

 成績は普通、特技と呼べるものはなく運動は苦手で、趣味といえるものはテレビを見ることやマンガや小説を読むことくらいしかない。


 でもテレビ鑑賞や、小説や漫画などの読書が『趣味』と言えるだろうか?

「僕の趣味はテレビ鑑賞です。すごいでしょう」と胸を張って言える事ではない。


 これらは誰しもが日常的に行っていることで、特別なことは何も無い。

 つまり僕はどちらかというと無趣味で、少し寂しい人間だ。


 だがそんな僕が最近ハマっている事がある。

 少しだけ早起きをして、この銀色の月を見る事だ。

 その大きさは、およそ1,200km。月の直径は3,474kmらしいので、月の3分の1以上をしめている。

 そして、なんと驚く事にこの巨大な物体は人工物らしい。



 この銀色の月は、およそ一年前にふらりとやってきた。

 観測された当初は地球にぶつかるのでは無いかと心配されたが、衝突することは無くスルリと他の惑星や地球を避けて、月の前に陣取った。


 専門家の言うことには、自然の彗星などにはあり得ない動きらしい。

 明らかに何かしらの力で『速度の増減』『軌道の変化』を繰り返していたらしく。世間ではコレは異星人の作った宇宙船という話になっている。



 銀色の月が地球のそばにやってきた頃は、それは騒がれた。

 テレビ、新聞、ネットありとあらゆるメディアで話題の中心となる。


 そりゃそうだ、地球以外の知的生命体の襲来である。

 しかも向こうは星間飛行も可能なテクノロジーを持っている。


 テレビでは連日れんじつ、天文学者や物理学者、怪しげなエイリアン専門家という人物が様々な持論を繰り出した。


 その意見は、『人類を滅ぼしにきた』『地球を侵略しにきた』

 といった物騒なモノから、


『彼らからすれば我々は原始動物にしか見えない、観測しに来ただけだろう』

 といった観測者だという説。


 はたまた『地球人に素晴らしい知識を授けに来た』『大きな災害から地球を救いに来た』

 といった一種の救世主のように扱う知識人もいた。


 僕もあの当時は「これから何が起こるのだろう?」と期待と不安な日々を送っていた。

 しかし、一週間、一ヶ月と経ち、あちらからは一向にアクションがない。


 しびれを切らした一部の人間からは、

『地球から宇宙船で人類を送り込もう』という意見も出たのだが、コレがなかなか難しい。こちらからの、コンタクトは容易ではなかった。



 かなり昔にも人類は月に着陸できたので、この新たな月面への着陸は技術的には可能なのだが、それは計画通りに決められた地点に着陸できるという条件が付く。

 もし、あの銀色の月に滑走路やヘリポートへのハッチのようなモノがあり、異星人から『こちらへ着陸して下さい』などといった着陸地点の変更の指示があっても、今の人類の技術では対応できないらしい。


 下手な場所に突っ込んで、エイリアン側が攻撃と受け取られたら、大変な事になる。

 相手は超テクノロジーの持ち主だ、反撃にあって人類絶滅という事もあり得る。


 そんなリスクを犯す事はできるはずも無く、我々人類はただ見ているだけの日々がつづいた。


 そして一ヶ月を過ぎるとテレビやネットでは語る事が無くなり、3ヶ月も過ぎるとたまに話題に出る程度となり、一年近くたった今では、ほとんど騒がれなくなった。



 世間では忘れ去られて来ているが、この銀色の月は見ていて飽きない。

 様々な思いをめぐらせながら、僕は空に浮かぶ水銀の球のようなこの月を眺める。


『どこから来たのか?』

『何しに来たのか?』

『宇宙人は乗っているのだろうか?』

『もし宇宙人が乗っているのなら、それはどんな姿だろうか?』


 疑問は尽きる事は無い。



 しばらく眺めていると、

「ツカサ、ご飯ができたわよ」

 母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。


 僕は開けた窓を閉めると、朝食を取るために台所へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る