仮想の仮想
リーマン一号
一山
持つべきものは友とは、よく言ったものだ。
「奢ってやるから飯でもどうだ?」
そんな誘い受けて断る理由はない。
なんでも仮想通貨で一山当てたらしいが、奢りであるならそんなことはどうでもいい。
小走りに待ち合わせ場所まで駆けつけると、件の友人は既に待っていた。
「すまないな。突然だったから少し遅れた」
「おお!着いたか!気にすんな気にすんな!今、更に10万ほど追加で稼いでいたところだ」
そう言ってケータイの画面を見せつけてきたが、棒線グラフが上下しているだけで私にはよくわからなかった。
だが、どうやら仮想通貨とは短期間で10万も稼ぐことができるらしい。
「お前にそんな才能があったなんて驚きだな・・・」
「俺もだよ!まぁ、そんなことよりとっとと行こう腹が減った」
「おお。そうだな!それでどこに連れて言ってくれるんだ?」
私の問いに友人は遥か上空を指差した。
・・・
「ほ、本当に大丈夫なんだよな?」
40階建のホテルの天辺に店を構える空中レストラン。
その入り口を前にして私の足はガクガクと震える。
もちろん恐怖からではない。
「一山当てたって言ったろ。心配するなよ金ならある」
友人は大丈夫だと背中を押すが、私は気が気でない。
怯えながらもウェイターが勧めるままに席に座り、メニューを開いて再び衝撃を受けた。
そこにあったのはゼロ。
しかも、ゼロに次ぐゼロ。
「本当の本当に大丈夫なのか?さっき稼いだ10万ですら全然たりないぞ!?」
「いいから遠慮しないで好きなもん頼めよ」
メニューを見ても友人は別に慌てる様子はない。
本当に大丈夫なのだろうか?
懐疑心に包まれたまま私は比較的安い料理を注文した。
「やっぱ遠慮してんじゃねぇか!メニュー貸せ!」
友人は私からメニューを奪い取ると矢継ぎ早にメニューを注文し、テーブルの上にはおよそ2人では到底食べきれぬほどの豪華な料理が立ち並んだ。
もうここまでくれば後戻りはできない。
わたしは友人の懐事情に博打を打ち、空腹の腹を世界三大珍味で満たした。
そして、二時間もしただろうか?
一生に一度の晩餐を残すまいと次々に料理を胃袋に放り込んだが、結局テーブルの上には沢山の食べ残しが広がった。
「ふぅー。食ったなー。そいじゃ帰るか!」
友人はそう言うと、俺を連れ会計もせずに帰ろうとする。
「お、おい!金は!?」
「え?ああ。だから、一山当てたって言ったろ?」
友人は何食わぬ顔で店を後にするが、レストランの従業員は騒ぎ立てる様子もない。
狐に包まれたような面持ちで後ろをついていくと、今頃になって気がついた。
一山当てたとは確かに聞いたが、その山から金脈がみつかったとは初耳だ。
帰り際にチラリと見たリニューアルの看板には友人によく似た男が写っていた。
仮想の仮想 リーマン一号 @abouther
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます