第9話 強敵①

 俺たちが石に腰掛けていると、洞窟の奥から敵がやってきた。それは…。


「「うそでしょ…」」


 俺たちの敵を見た最初の感想はそれだった。


 目の前に現れたのは、この第一エリアの中ボス、ミノタウロスだった。


 ミノタウロスの撃破に必要な最低レベルは20.それもチームの平均がだ。俺たちは二人ともレベル15前後。勝てるわけがない。


 ミノタウロスはこちらに向かって突っ込んでくる。手には石で作られた斧を持っており、それを振り回しながら、洞窟内の内壁を崩しながら。


「リク!逃げるよ!」


 俺は首をコクコク振って、先に洞窟出口に向かって走っているグリーンさんを追いかけて走る。

 後ろからは未だにミノタウロスが石斧を振り回して迫ってきている。


 数分走ると、広い開けたスペースに出た。そこには見知らぬパーティーが魔物モンスターと交戦していた。パーティーの一人がこちらに気づいたのか、嫌な顔を見せる。

 それもそうだろう。今俺たちがやってしまった行為はト・レ・イ・ン・という、他人に自分の敵を押し付けるという、最低といわれる行為だ。



「リク!ここで迎え撃つよ!」


 そういうと、グリーンさんは片手に持っていた剣を抜き、鞘を遠くに投げ捨てる。投げ捨てられた鞘は光の粒子になって、グリーンさんのアイテムボックスに回収される。

 俺も腰に添えていた剣を抜き、今自分たちが来た通路をにらむ。

 通路の奥からはミノタウロスの雄たけびが聞こえてきた。


「「「?!」」」


 もともと広間にいたパーティーはその雄たけびに気づき、こちらに注意を向ける。そちらのパーティーもあらかた敵を片づけたようで、数人がこちらに身を向けて、自分たちの武器を構えている。


 ■


 通路の入り口から牛の頭と巨漢の体をした魔物モンスターが姿を現した。手に持っている石斧は半分ほどから折れており、石斧は光の粒子に変わり始めている。


 ミノタウロスは手に持っていた石斧を投げ捨て、通路の入り口付近の石壁に手を突っ込んだ。すると、ミノタウロスが手を当てた箇所からボロボロと崩れ始めた。

 崩れ切った石壁には先ほど持っていた完全な形をした石斧が姿を現す。

 ミノタウロスは石斧を手に取り、こちらに向かって悲鳴にも取れる咆哮をあげる。


「君たち!なんでこんな場所にミノタウロスがいるんだ!説明を!」


 パーティーのリーダーらしき人が、他のメンバーの代わりに説明を求める。


「俺たちもよくわからないんだ。少し下の層で休憩してたら急にこいつが現れて!」


 俺は大まかに流れを説明して、共闘してくれるか誘ってみる。


「わかった。パーティーの招待を送るから。リーダーはどっち?」

「グリーンさんです」

「わかった」


 少しすると、一つのウィンドウがポップする。


 ────────────

 りきと―からパーティーに

 招待が届いています。


 拒否 | 承認

 ────────────


 もちろん承認する。


 パーティーリーダーはりきとーさんというらしい。


「これからどうしますか?」

「流石にミノタウロスを倒すにはレベルとメンバーが足りないからゲージを二つまで削れたら削って逃げる!」

「了解です」


 りきとーさんのパーティーは三人居て、りきとーさんが剣士、一人が回復系の魔法使い、もう一人が攻撃系の魔法使い。すごくバランスのいいパーティーだ。

 中ボスからはHPにゲージがあり、中ボスは三ゲージ、ボス系は5ゲージになっている。中ボスの場合、一番最初のゲージが緑、次のゲージが黄色、最後のゲージが赤だ。今回は黄色ゲージまで削ろうという作戦だ。


「リク君?君は装備は短剣だけか?」

「はい、そうですけど」

「じゃあ、魔法職か何か持ってるのか?」

「持ってないです」

「そうか。じゃあこれを使ってくれ」


 そういってりきとーさんが一本の巻物スクロールを投げ渡してきた。

 巻物スクロールは基本高い。自分で作るのなら別だが、NPCの店や、露店で買うと最低でも2000Gはするだろう。そして今回投げ渡された巻物スクロールは「ライジング・ストレングス/筋力上昇」の上昇系のものだ。これだけでもピンからキリまであるが、最低でも5000Gはするだろう。

 まぁ、今は勿体ないとか言ってられないのだが。


 俺はスクロールを開いて、中身の魔法を唱える。


「ライジング・ストレングス/筋力上昇」


 スクロールを唱えると、体の周りを一瞬青白いオーラが覆う。

 今ステータスを見たらSTRの部分がかなり上がっているんだろうな。


 他のメンバーたちはすでにミノタウロスに向かって言っているので、俺もミノタウロスに向かって短剣片手に突っ込んでいく。


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