第8話 バレた……

 昨日、「MSQ」から出ると、現実世界リアルでは1時だった。その後に軽くシャワーを浴びて布団に入ると、時計は2時半を回っていた。ちなみに、いつも俺が寝ている時間は最低でも12時だ。


 そんな遅くまで起きていて、朝は起きれるはずもなく、学校を2時限からの遅刻になってしまった。

 3時限目からの授業も頭がボーっとして、授業を聞く気になれず、度々ウトウトしながら寝そうになっていたりした。


 ──昼休み──


「よう陸斗。お前が遅刻とか珍しいな」


 俺が机に突っ伏して寝ていると、隣から声をかけられる。


「んん?あぁ、そらか」

「ほんとに眠そうだな。昨日そんなに寝んの遅かったのか?」

「まあね」

「珍しいな。何やってたんだよ」

「ゲームだよ、ゲーム」

「え?陸斗がゲーム?珍しいなー」


 そう言って宙はおどけてみせる。


「なんてゲームをやってたんだよ」

「MAGIC&SWORD Questってやつだよ。知ってる?」

「ああ、しってるよ。ってか俺もやってるしね」


 ほー、この地域で俺以外にもVR機器持ってるやつが身近にいたんだな。そこに驚きだ。


「そうなんだ。ちなみにだけど神座どこにした」

「俺は木の神にしたよ」

「まじで!俺も!」


 俺は机に突っ伏していた身体を起こし、宙に正面から対面する。


「俺はルシファーにしたけど、陸斗は?」

「俺はミカエルにした」

「珍しいな」


 俺は椅子の下に置いている鞄から弁当を取り出し、机の上に広げる。宙も自分の弁当箱を持ってきて、俺の正面の席で椅子の向きを反対にして座り、一緒に食べ始めた。


「でさ、あのカサブランカの霊薬が欲しくてさ、何度も山に登ってるんだけど、全く遭遇しなくてさ」


 実は「カサブランカの霊薬」、ある一定確率で「ミクロの山」の山頂の花畑に姿を表すそうだ。確率としては30分の1ほど。

 そんな確率の低い薬草を、簡単に入手することができる俺のスキルって凄すぎないか?


「俺カサブランカの霊薬持ってるから売ってあげよっか?」

「マジで?助かるわ」


 それから、「MSQ」で会う約束や、プレイヤー名を聞いて、午後の授業に望んだ。


 ■


『プレイヤー名グリーンがログインしました』


 俺が「MSQ」にログインすると同時に上のログが視界の上隅を流れる。


「あ、リク?今どこいる?」


 グリーンさんからチャットが送られてきた。

「MSQ」のチャットは音声認識での入力だから簡単で楽だな。


「俺はメイリーンの最初の宿屋にいます」

「じゃあ噴水広場まで来て、私もすぐに行くから」

「わかりました」


 俺は宿屋から出て、左に曲がり、噴水広場を目指した。まだ、宙はログインしていないみたいだ。


 ■


「お、きたきた。こっちこっちー」


 そう言いながら、噴水広場の噴水の縁に腰をかけ、手を振っているグリーンさんを発見した。


「すいません。遅くなりました」


 俺も宿屋から時間たってないと思うけど、もしかして、グリーンさんここにログインしたんじゃ…。


「今日もレベリングする?」

「お願いします」

「じゃあ行こうか」


 俺とグリーンさん、2人はメイリーンのポータル目指して歩いていった。

 途中、グリーンさんのリアルでの面白話を聞いたりもしていた。グリーンさんって学生なんだな。


 ■


 今日はグリーンさんに新しいポータルに連れてきてもらった。場所はドーラの水源の川上の方にある洞窟、「ドーラの洞窟」だ。

 今更だけど、ドーラってなんのこと?

 出てくる敵は虫系が多く、蜘蛛とか芋虫とかがいると、グリーンさんに教えてもらう。

 洞窟の深層部にもポータルがあるらしく、今日は2人でそこを目指す。


「そろそろ敵が出てきてもおかしくないけど・・・」


 さっきからかなりの長さ(1キロほど)の道のりを降りてきてるけど、まだ1回も遭遇エンカウントしていない。


「上位レベルの人達が狩りに来てるのかな?」

「少しここら辺で待ってみますか?」

「そうするかな」


 俺とグリーンさんは洞窟の隅にある石に腰掛け、俺はポーション作り、グリーンさんは持ってる武器を砥石でとぎ始めた。


「リク?何それ?」


 俺がポーションを作るために予め「万能の創造」で創っていた朧華草をストレージから取り出すと、グリーンさんが奇妙な目でこちらを眺めていた。


(しまった。まだ最初の街じゃギガポーションは作られてない)


 そこで、俺は盛大にやらかしたことに気がついた。スキルはそのプレイヤーの実力等に大きく関係してくる。だから他のプレイヤーは自分のスキルをなかなか公開しない。

 それは俺も同じだ。特に俺のスキルは知られちゃダメな気がする。


「リク、何それ?見たことないんだけど。鑑定しても信じられないし」


 グリーンさんは多分俺が持っているこれを鑑定したのだろう。多分鑑定したらこう出たのだろうな。


 ━━━━━━━━━━━━

『朧華草』 ランクA


 ■薬草

 □調合アイテム/素材

 ■品質:S《スタンダード》

 ━━━━━━━━━━━━


「どうしたのそれ?」

「これには深い事情がありまして」

「どうしたのそれ?」


 どんどん詰め寄ってくるのやめてもらえませんか!怖いです。

 グリーンさんがこちらに詰め寄ってくるので、俺も後ろに下がるが、場所は洞窟。すぐに壁際に追い込まれる。


 ■


 数分後、俺はグリーンさんに詰め寄られ、すべてを話すことになった。


「何そのチートスキル。それにレア度が5って聞いたことないんだけど」


「MSQ」にはレア度が大きく分けて5つあるが、そこに「レア度5」というのは存在しない。


「それに能力向上とかのスキルならすでに何個か発見されてるけど、無から何かを生み出すってチートすぎるでしょ」


 そういってグリーンさんはもう一度岩の上に腰掛ける。


「このことは周りには言わないで下さいよ」

「え~。どうしよっかな~」


 グリーンさんは話をはぐらかすように、少し遊んだ口調で言う。


「ほんっとに!言わないでくださいよ!」

「もう~、しょうがないな~。その代わり私とずっとパーティー組んでてよね」


 これは話の最中に、俺の秘密をばらさない代わりに、グリーンさんが飽きるまで俺はグリーンさんのパーティーにいるという約束をしたのだ。


「それはわかりましたって」


 はっきり言って、俺を話したくないんだろうな。正確には俺のスキルとつくだろうが。


 そこからは謎の沈黙が続いた。


 ■


 俺たちが岩に腰掛けて、俺はポーション作り、グリーンさんは剣の調子を見ていると、洞窟に入って初めての敵が出てきた。それは…。

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