第5話 ポーション作成

 今日もやっと学校が終わった。俺は部活はやっていないが何かと他の部活からたまに「助っ人で入ってくれ~」とか「試合に代わりで出てくれ~」とかお願いされて、生粋の帰宅部とは言えないが、部活には今まで入ったことがない。そして、朝練などもやっていない俺が今日はとてつもなく眠かった。理由はすぐに思い当たるが。

 昨日は死に戻ったから半場やけくそで『MSQ』をログアウトしたからまだよかったが、あれでやめていなかったら今日は遅刻していたかもしれない。いや、していただろう。昨日ログアウトした時間が夜中の3時だった。VRゲームでは眠気は魔物の攻撃やそういう効果の持つものにやられない限り、感じることはないらしい。そして眠気を感じないからずっとゲームをやっていて、栄養失調で死んだ人がいるって前にテレビで取り上げていたな。それからっだけ?VRゲームに安全機能として一日のゲーム時間を制限するようになったのは。まぁ、そんなわけで今日一日は授業に集中できなくてつまらなかった。いつもそこまで集中して、授業受けてるわけじゃないけどさ。

 そして陸斗は帰路に就いた。


 俺は家に帰るとすぐに夕飯の支度を始めた。今日は手ごろに出来るカレーだ。カレーなんかは1時間もあればできる。もちろんルーからの手作りだ。そして夕飯を食べ終えたら、軽く今日の復習をして風呂に入った。やっぱり1日の疲れを取るには風呂で長湯に限るな。そして風呂を出たら、昨日からはまっている『MSQ』にログインした。


 ログインするとちょうど目の前に女の人の顔があった。(うわぁ!びっくりした!)多分相手側もビックリしたんだろうな。体を後ろにのけぞらせ、ゆっくりとしりもちをついて倒れた。宿屋とかでログアウトしないとこんな感じの事故も起きる。だから宿屋でログアウトすることをオススメしているのだろう。


「大丈夫ですか?すいませんでした。いきなり前に出てきて」


 俺は倒れた女の人に手を差し伸べた。しかし、女の人はその手を払って起き上がり、何も言わずに去って行ってしまった。これはまずいことをしたかな?周りの人たちの視線が軽く俺に向かっている。俺は速足でその場を抜け出した。

 しかし何だったんだろう。何も言わずに去って行ってしまうなんて。しかも結構美人だったから気になってたんだけどな。まあゲームでだと好きに姿を変えられるから、あまり期待はできないけどさ。俺はその後もしょうもないことを考えながらまたポータルエリアの前まで向かった。今日は昨日に比べると比較的空いている。これは運がいいな。そして並び始めて待つこと約5分。俺の番がやってきた。俺は昨日同じく『始まりの森』を選んだ。体が青白い光に包まれた。


 ついたのは『始まりの森』のポータルエリアだ。俺は学習する子だ。おんなじミスはしない。すぐにポータルエリアから出て、昨日とは逆の北側へと歩いて行った。流石に南側は俺にはまだ早かったようだ。しかも、もう死に戻りするのはゴメンだ。痛みはないんだけど、あのオオカミに引っ掻かれた感覚と恐怖をまだ覚えている。思い出したらまた身震いし始めた。

 北側は『始まりの草原』というらしい。まあ初心者は普通こっちから攻めるんだろうなー。俺はすぐに金が欲しかったから『ドーラの草原』を目指したけどさ、そのせいでブラッドウルフに遭遇して死に戻ったんだけどさ。『始まりの草原』の方には多くのプレイヤーが交流を謀っている。そして草原の中にある一つの小さな小屋は軽い道具屋になっている。僕は草原に足を踏み入れた。草原はのどかで気持ち良い風が体にあたる。やはりゲームの中とは思えない最限度だ。

 今日は『ドーラの水源(上)』に向かおう。そこの水をもって帰ってポーションを作る人に渡すと結構な額で買ってくれるらしい。とりあえずは道具屋によって水を入れる入れ物を買おう。俺は道具屋に向かうことにした。

 カランッ 店に入るとドアベルが鳴り、店内に居た人たちの目がこちらに向く、そしてすぐに興味を無くして、また品定めに戻っていく。ここはNPCがやっている道具屋だから、値下げ交渉ができない。だからみんな少しでもいい品を!と思ってよく品定めをするそうだ。僕の場合はただの水を汲む入れ物を探すだけなので、品定めは必要ないが。店内は外見より中はかなりでかい作りになっていて、少し不思議な感覚に陥る。そして高さも外から見た見た目より二倍くらい高くなっていて、商品の案内が天井からぶら下がっている。(えっと、水差し水差し。あったここか)

 水差しはポーションなど、作ったものを入れておく瓶の隣にあった。水差しは蓋がない壺の形をしていた。大きさは、2ℓから始まり30ℓまで2ℓ間隔である。(うーんどの大きさにしようかな?)って言っても残金が現在ログインボーナスでもらった100Gしかないから6ℓまでのやつしか買えないんだけどさ。でもここで全財産はたいて6ℓのやつ買ってもなー。うーん?どうするか。


「ありがとうございました~」


 俺は6ℓの水差しを買って店を出た。よくよく考えてみればこの水差しで取った水の分、ポーション作る人が買ってくれんだし損はないかなって思ってさ。しかもこれは消耗品じゃないから何度でも使える、だったら一番大きいほうが得じゃん。そのおかげで俺の今の全財産21Gだけどさ。はぁ、2ℓのにすりゃよかったかな。でも水の相場がわからないしな。ぶんっぶんっ 俺は首を横に強く振って水差しのことを頭の隅に追いやった。


「よし!行くか!」


 つい心に思ってることを口にしてしまった、それも結構大きな声で。

 草原で交流をしていた男女や、帰ってきた人など、いた人の全員がこちらに視線を向けた。そしてあっちから「クスクス」と聞こえたと思ったら、違う方向から「クスクス」と笑い声が聞こえてきた。は、恥ずかしい…。俺は急ぎ足で草原から立ち去った。

『ドーラの水源(上)』は『ミクロの山』を越えた谷にある。俺は今必死で山を登っている。


「ハアハア、ぜえぜえ」


 リクのレベルはまだレベル1。レベル1のHPじゃ【体力UP(Lv1)】が入っていてもこの山を登り切るのはつらかった。さっきからもう5本のポーションを飲んで頑張ってはいるがまだ山の半分にも足しっていない。そしてまたHPゲージがレッドゾーンに突入した。ゴクッゴクッ

 ポーションは決しておいしいものではなかった。まあ薬草をすりつぶしたのを水に溶いただけのような作り方からできるので、とても甘くなるとは思えない。このポーションの苦みが残り少ないHPを減らしてる気さえするぐらいだ。そして今6本目を飲み干した。けれど体力はHPバーの三分の二のところで止まってしまう。


(ハアハア ハアハア)かなりきついな。そしてポーションも残り少ない、っていうかなんだあの苦さは!ポーションってもっとマイルドな口あたりな気がしたのに、ブラックコーヒーよりも苦いなんて思わなかったよ。ゲームなんだからもっと甘い味にしてくれてもよくない?!しかもHPは回復されてもすぐに減るしさ。

 リクはぐちぐち言いながら山を登って行った。そして半分ぐらい登ると、目の間に小さな角を生やした茶毛のウサギが飛び出してきた。明らかにこちらを威嚇している。【鑑定】


【ホーンラビット】 ???

 ━━━━━━━━━━━━

 ■unknown

 ドロップアイテム/

 ??? ??? ???

 ━━━━━━━━━━━━

【ホーンラビット】っていうのか小さくてかわいいな。

 ポンッ 白い半透明なプレートが【ホーンラビット】の頭上に出てきた。プレートには【ホーンラビット】(この第5話ではこれからウサギと呼ぶ)とHPバーが出てきて、3秒ほどしたら名前は消えて、HPバーだけが残った。俺は今まで杖代わりにしていた西洋剣を両手で強く握った。まだ剣先には泥がこびりついている。それを俺が振って払おうとしたその時。ウサギがこちらに向かって角を向けてとびかかってきた。リクは体をそらし避けたが二の腕に角がかすり、ダメージを負った。

 HPバーがレッドゾーンに入るあと少しのところまで減らされた。幸いこのゲームでは痛覚がほとんどカットされているので全然痛くはなかったが。

 俺は剣の柄をさらに強く握りしめて、ウサギがもう一度突っ込んでくるのを待った。そしてもう一度ウサギが助走をつけてとびかかってきた。それを俺は横に動いてかわし、ちょうど横に来た時に大きく剣を振りかぶって叩き切った。ウサギはそのまま地面に急降下。そしてHPバーがどんどん減っていってゼロになった。パリンッ ウサギは割れたガラスの破片のようになり、空に昇って行った。

 ピロリン 聞いたことのある音がきこえ、俺はシステムウィンドウを開いた。


『初討伐おめでとう! 報酬500G』


 そう表示されていた。そしてステータスを見ると確かに500G増えていた。これで全財産は521Gだ。これで今日の分の宿代は何とかなるな。

 ウサギの消えた場所に何か落ちている。

【ホーンラビットの角】

【ホーンラビットの毛皮】

【ホーンラビットの肉】

 が落ちていた。ドロップアイテムだ。それを俺は拾ってアイテムボックスに入れた。

 ━━━━━━━━━━━━

 ■アイテムボックス(5/30)

【ポーション(緑)】×4

【水差し(6ℓ)】

【ホーンラビットの角】×1

【ホーンラビットの毛皮】×1

【ホーンラビットの肉】×1

 ━━━━━━━━━━━━

 アイテムボックスにはまだ5個しかアイテムが入ってないな。

 俺はドロップアイテムを全部しまい終わると、システムウィンドウ(これからはSWとする)で地図を確認した。山頂まであと半分だ、そしてそこから少し下ったところに『ドーラの水源(上)』はある。ん?水源の近くに何か赤いスポットがあるな。俺はヘルプを開いた。ポンッ


「はいはーい。どうしましたですわ」


 出てきたのはキャラメイクの時にも出てきてくれた、てんこさんだ。


「この赤いスポットが何かわからないんだけど」


「これは帰還専用のテレポータですわ。ここのポータルは『メイリーン』などの町などに帰るためのの専用ポータルですわ」


「そうなのか。ありがとう」


 そうゆうとてんこさんはまた「ポンッ」ときえていった。なるほど、帰還専用ポータルか。確かにここまで遠いとまた歩いて帰るのも大変だしね。あって当然かな。

 そして俺はまた息を切らせながら無言で登山を再開した。別に登山って言っても、過酷な道とかがあるわけじゃないよ?ただただ道のりが長いだけ。


 そして3時間後…

 やっと山頂についた。山頂はいろんな花が咲いているお花畑のようになっていた。柵はなく花壇って感じにはなっていない。ここまで来た疲れをとってあげよう、みたいな感じだろう。そして俺は谷の方に向かって山を下って行った。この時はそこに咲いてた花がとても貴重な薬草だとは知る由もなかった…


 山を下り始めて1時間半ぐらいで『ドーラの水源(上)』に到着した。そこにはちらほらと人がいるが、魔物ではない野生の動物がたくさんいた。そして一番意外だったのが、ユウリさんが居たことだ。ユウリさんは露天を開いているようだ。相変わらず悪目立ちする外見をしている。そして売っているものは水差しや、ポーション。それに薬草図鑑なんて言うものまで売っている。


「こんにちは。ユウリさん。この間はアドバイスありがとうございました」


「おー、リク君か。昨日ぶりやな。あれから何か収穫はあったんか?」


「いえ、何も。実はあの後・・・で死に戻りしたんですよ」


「そりゃきのどくやな。ほなら商品、かわいそうやからなんぼかまけるで?」


 やっぱりユウリさんは商売がうまいな。自然な感じで商売に話を持っていく。今回はお金が少し入ったし、買っても無理はないかな?


「じゃあ、その薬草図鑑をひとつ」


「元値は800Gやけど可哀想割りで500やな」


 げ!所持金のほぼ全部持ってかれるじゃないか。でもせっかくまけてくれたのにそれを無下にするのも悪いし… 

 僕はユウリさんになけなしの500Gを払った。


「まいどありー」


 やっぱり商人怖い…


 そして俺は水源の近くにより、水差し一杯に水をすくってアイテムボックスにいれた。これでやりたいことは全部終わった。あとは帰るだけだ。そういえば買った薬草図鑑で一回でも目を通せば、あとは「unknown」にはならないはずだ。そして今まで「unnkown」だったものもわかるはず。そう思って俺は図鑑を開いて1ページ1ページ目を通しいていく。すると何やら見覚えのある薬草が目に留まった。それはメガポーションの材料になる花だ。そう、さっき山頂の花畑で見た花の一つだ。取っておけばよかった。そして俺は帰還専用ポータルに向かった。


 帰還専用ポータルはかなりの人でごった返していた。何やらトラブルがあったようだ。え?今空を火の球が飛んだ気が…ほら、また。


「おーい。ケンカだ、けんか」


 人ごみの中からそんな声がちらほらとあがっている。喧嘩みたいだ。俺は人ごみをかいくぐって一番前の方まで来た。ほんとに喧嘩だ。いや、喧嘩の域を超えている。魔法が飛び、飛びあっていたり、太刀筋が見えないほどに早い。これが喧嘩なのか?


「すいません。これってなんで喧嘩してるんですか?」


 俺は近くに居た、大剣使いっぽい男の人に聞いてみた。かなり人相の悪い人だ。


「あー、お前初心者か。これはチームデスマッチだよ。こいつらがどっちが先にポータルを使うか争ったら喧嘩になって、チームデスマッチに発展したんだよ。けどよこいつらがポータルのを含んだ場所でフィールド作りやがったからよ」


 なるほどな。今チームデスマッチで戦っている人たちがポータルをフィールドに含んでしまったから、ポータルが今使用できなくてみんないきず待ってるらしい。


 チームデスマッチが始まって25分。やっと決着がついたらしい。勝ったのは剣士のパーティーだ。まさかあそこで逆転するとは思わなかった。

 俺が見始めたのがチームデスマッチが始まって約5分経ってた頃だ。デスマッチ会場の時計が5分弱をカウントしていたから。そして開始10分頃、魔法使いがいるパーティーの魔法が相手のリーダー核に当たった。そしてそれがきっかけか、どんどん剣士のパーティーメンバーがやられて行って、残り二人になるまでやられてしまった。そして時間が過ぎて、開始14分。一人の剣士の攻撃が魔法使いに当たった。そっからは早かった。剣士パーティーの二人が残りの魔法使い二人の懐に入り込み、下から切り上げた。そのあと二人で最後の一人に走り込み、両サイドから剣で挟まれ、真っ二つに切られた。そしてゴングがなり、空中のホログラムウィンドウに勝敗が表示された。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 最初は何やってんだよ!とか言ってキレていた人も、だんだんバトルを楽しみ始めて、最終的にはあたりがコンサート会場並みの大熱狂になっていた。その中に俺もいた。何やら陰で賭けも行われていたらしい。勝負が終わるとフィールドが消えて、無くなっていたポータルが姿を現した。そして二つあるポータルに人が順番に並んでポータルに入って消えていった。そして俺の番が来てポータルに入り『メイリーン』に帰ってきた。そして俺は露店をやっている噴水広場へと向かって歩いて行った。


 噴水広場はいつもどうりの賑わいだ。そしてそこにユウリさんの店がないことに少し違和感を感じた。辺りから商いの声が聞こえる。そして俺はポーションを売っている露店の前まで来た。露店のテーブルにはポーションがかなりの量と、ハイポーションが10個等間隔で置かれている。ほかにも麻痺毒や、解毒剤なども置いてある。俺が商品を見ていると店主が声をかけてきた。


「いらっしゃい。お兄さん。ポーリンの薬屋になんかようかい?」


 ここは『ポーリンの薬屋』ていうのか。ユウリさんの店とが雰囲気が大違いだ。いや、どこもあの店とは似ても似つかないんだけどさ。あの骸骨の置物とかさ。


「あー、こんにちは。実は『ドーラの清水』を6ℓ売りたいんですけど」


「すみません。今日は『ドーラの清水』は仕入れ終えてるから、これ以上は買えないんだよね。ごめんね、おにいさん」


 あぁ、そうなのか。じゃあ今日の宿分で取ってきた薬草を売って帰るかな。


「じゃあ、これだけ売りたいんでいいですか?」


「はい。では売る商品をこのアイテムボックスに入れてください」


 店主が『露店の風呂敷』についている『会計のボックス』を俺の前に出した。俺はその中に売りたい、薬草70個。上薬草30個。トイチの花30個をボックスの中に入れた。


「はい。薬草70個に上薬草30個にトイチの花30個ですね。薬草は相場の一個10Gで買わせていただきます。上薬草は最近仕入れがなかったんで一個50Gで。トイチの花も最近仕入れがなかったんで150Gで買わせていただきます。合計で6700Gですね。間違いがなかったら、OKをタッチしてください」


 70×10+30×50+30×150=6700

 よしあってるな。俺は表示されているOKをタッチした。よし。これで取引成立だ。初めての対人取引緊張したー。この間はNPCが相手だったから、緊張も何もなかったけど、やっぱり人が相手だと無駄にドキドキするな。でも『ドーラの清水』売れなかったけどどうするかな。俺も一応【調合】のスキルもってるから自分で作ってみるか。


「すいません。ここって『調合セット』って売ってますか」


「はい、売ってますよ。初級、中級、上級とありますがどれにしますか?」


 えーっと、初級が1000Gで、中級が3000G。上級が6000Gか。とてもじゃないけど上級は買えないな。となると、初級か中級だけど今はお金に余裕があるし中級でもいいかな。これからもポーション作り必要だろうし。


「じゃあ、『調合セット(中級)』でお願いします」


「はい。今日はいろいろと売ってくれたので負けときますね」


 そういわれて俺は『調合セット(中級)』を2700Gで買った。そして俺は初めてログインした時の宿屋に向かった。


 宿屋につくと一人の客が俺と入れ違いで宿屋から出てきて、そのまま噴水広場の方に向かった。

 カランカラン 宿屋の扉が開いてるところで入ったのに、ドアベルが鳴って少し変な感じがした。多分あのドアベルはプレイヤーを感知するとなるようになっているんだろう。宿屋は入って右側が少し大きな食堂になっていて、左側にはスタッフルームと思われる部屋と、受付台があった。相変わらず外見と中身の大きさが一致しない。まぁそのうち慣れるだろう。俺は受付台に向かった。


「お泊りですか?休憩ですか?」


 ここでいうお泊りは「ログアウトされますか?」という意味で、「休憩しますか?」はだれかとの待ち合わせや、ナニをする目的のことである。俺はもちろんお泊りだ。


「では、お泊りで500Gになります」


 俺はNPCに代金を支払って部屋のカードキーをもらって指定された部屋に階段を昇って三階の『302』と書かれた部屋に向かった。確かに部屋のドアに大きく『302』と書かれていた。俺は扉にカードキーをかざし、アイテムボックスにしまって部屋のドアノブをひねった。

 部屋は洋室で土足OKだった。ベットはしっかりしたふかふかななものだ。一応洋服ダンスのようなものもあったが、服はアイテムボックスにしまうのでただの飾りだ。そして机の上には室内販売のタブレットが置かれていた。

 俺はさっそく今日買った『調合セット(中級)』をアイテムボックスから取り出し床に広げた。入っていたものは、

『薬研』

『乳鉢』

『乳棒』

『ガラス瓶』

『マジックランプ』

『薬瓶』

『説明書』

 だった。まずは普通のポーションを作ってみるか。

 まずは薬草と『オトギリソウ』を別々で『乳鉢』に入れて粉末になるまで『乳棒』でつぶす。その後に『薬研』で粉末にした二つの生薬を混ぜ合わせる。そして『水(清水の方が好ましい)』をガラス瓶の中に混ぜた生薬と一緒に入れて、『マジックランプ』で煮詰める。この煮詰めるときに【調合】のスキルを使う。スキルを使うタイミングで品質が変わってくる。

 そう説明書には書いてあった。実践してみよう。

 えっと、まずは薬草から『乳鉢』と『乳棒』を使って粉々にして『オトギリソウ』も同じようにつぶして生薬にすると。ゴリゴリゴリッ 結構腕の筋肉を使うな。思ったより疲れる。ゴリゴリゴリ これで二つの生薬ができた。かなり腕が張ってきた。まさかゲームでの作業が現実と同じになってるなんて思ってなかったよ。

 そして次に二つの生薬を『薬研』を使って混ぜ合わせる。

 俺は二つの生薬を『薬研』に移し替えた。ギィギィギィ 『薬研』はただ転がすだけで簡単かなと思っていたが、めっちゃ難しいな、これ。なかなか生薬が混ぜあわないし、生薬が端っこに寄って行ってしまう。ギィギィギィ 数分してようやく、生薬が均等に混ざり合った。そして最後に『ガラス瓶』に今日とってきた『ドーラの清水』を入れて混ざった生薬も入れた。あとは『マジックランプ』に火をつけるだけなんだけどこれ、どうやってつけるの?俺は疑問に思って説明書を見返したが、どこにも書いていない。知っていて当然ってことなのかな?俺は本日二度目のてんこさんを呼んだ。


「これはランプの根元に3秒間手を当てると勝手にMPを取られて火が付きますですわ」


 てんこさんは丁寧に教えてくれた。俺はお礼を言って作業に戻った。手をランプの根元に当てて3秒待つと勝手に火が付いた。その上に生薬などを入れた『生薬入りガラス瓶』を置いて【調合】のスキルを使った。するとゆっくりではなく、いっきに黄色に『生薬入りガラス瓶』の中の色が変わった。これで成功だ。


「はじめてにしては上々の出来だろう」

 ━━━━━━━━━━━━

『ポーション』 黄


 ■HPを少し回復する

 □回復アイテム/HP回復

 □複数効果/なし

 ■品質;LQ(低品質ロークオリティ)

 ━━━━━━━━━━━━


 確かポーションなどの出来の判断は、朱→黄→緑→白→水→紫という順番らしい。これ以外にも赤という色もあるらしいが、それは失敗作だ。そして品質というのは、出来の中でも、いい品か悪い品かを定めるものだ。


 ■F :最高品質フローレス

 ■HQ:高品質ハイクオリティ

 ■S  :標準品質スタンダード

 ■LQ:低品質ロークオリティ

 ■BQ:粗悪品バッドクオリティ


 の5段階に分かれている。そして今回のはLQ(低品質ロークオリティ)だ。BQ(粗悪品バッドクオリティ)じゃないだけましだ。

 その後も俺は一時間ぐらい続けたが、黄色が3個、朱色6個、緑色1個と普通だった。そして今ちょうど薬草が全部切れた。あーあ、もっと作りたかったんだけどな。

 ん?まてよ。確か【万能の創造】スキルって薬草生成だったよな?俺はSWを開いてスキル欄に予備スキルから【探求心(Lv1)】と【万能の創造】を交換した。そして


「スキル【万能の創造】。薬草出てきて」


 そういって、目を瞑って、もう一度開けると目の前には三枚の薬草があった。すげぇ。そして俺は【万能の創造】のLv1スキル名を思い出した。『薬草の創造』。俺は今日図鑑で見て、取り損ねた花の名前を思い出しつぶやいた。


「スキル【万物の創造】。カサブランカの霊薬出ろ」ボソッ


 そう言うと目の前に ポンッ と今日見た花が出てきた。


「うっ、うおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ドン!「うるせーぞ!」


 隣の部屋から壁ドンを食らった。壁の薄さまで本格的に再現しなくていいのに…

 でもこれはすごい。これさえあればなんでも作れるかもしれない。そう思って、うつむきながら考えていると、勝手に意識が飛んだ。強制ログアウトだ。


 俺は目を開け、VRドライブを頭から外し、部屋の隅にある時計に目をやる。げっ、もう夜中の2時じゃん。時間制限かけておいてよかった。俺はトイレに行ってから、布団に潜り込み、目を閉じた。

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