第53話 陽の差す方へ
私の驚くことがあった。
そこに秋塚さんが遊びに来たのだ。
「あら」
「こんにちは。ここのお惣菜美味しいわよね」
「……それ私が作ったんだけど」
肉じゃがを指して私は言った。パックに詰めながら秋塚さんは、料理はプロのほうがいいわよね、断然。と悪ぶれずに言った。
私がプロ。
ここに来て意外だったのは、調理補助といえば皮むきだと思っていたのに、そうでなかったことだった。
そのまま主婦であったことや料理が好きなことが買われ、ブログも見せたけれど、なによりいつも作るその素朴な味付けが好きだと言われた。
夫みたいな事を言う人だ。
原塚さんとも何もなかったように、お手伝いに来る奥さんがいるレストラン店長とも何もなく私は過ごすのだろう、それに不服もない。
それでももう少しだけあの長いまつげを見ていたかったけれど……。
「あ、サラダの準備やっておいてくれた?」
「はい、いんげんはゆでて、キャベツを切っておきました」
「優子さんの切り方はもうちょっと細かくしてくれないかな……いやいいんだ。それとお湯たくさん沸かしといてね。じゃあ、そろそろランチの準備をしようか」
私は快く返事をした。
ここなら健一の学童にもすぐ迎えに行けるし、調理師免許への勉強もできる。
なにより、私は料理でどこまでいけるかなんてわからないし、そんな、たいそれたことは考えていない。
けれど、陽差しは段々と温かくなる。
私は少し店の前で春めいた陽差しを浴びる。
やがて色とりどりの草花がその陽を求めて伸びてくるだろう。陽の差す方へ。
陽の差す方へ、私はゆっくりと歩いて行く。
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