第52話 少しずつ歩こう

 少しずつ温かな陽が差すようになってきた。

私はいつものように新古書店へ急ぐ。

「あ。優子さん」

原塚さんが話しかけてきた。

「そうだ俺、ここ辞めて就活に本腰入れることになりました。いままでお世話になりました」

「あら」

「小野もなんだかガテン決まったって言っています」

「そう、あ、で、いつ辞めるの?」

「今月いっぱいです」

「あら、じゅあ一緒ね」

「え?」

「あ、でも最後まで気を抜かないでね?」

そして私たちは別れ、朝礼で高田さんが言った。

「春も近い、さてこの中に就職が決まったのがいるらしい。小野」

「あ、えぇっと、どうもオヤカタに気に入られたみたいでなんとか仕事決まりました……」

「お前そのガテンノリなんとかならないのか」

皆は笑ったけれど、小野さんが色気でどうこうはできない人だとわかっての温かい笑いだった。

「で、原塚、大原」

私たちも呼ばれた。

「原塚は就職に専念するようだ。それから大原は新しいパート先が決まった」

「え、そうだったんですか」

私は笑って答えた。

 新しいパート先、それは家の近くのキッチンだ。

 小さい所だけれど調理師免許を取れれば補助が出るし、勉強もできるらしい。かかっているクラシック音楽は甘い。きっとやっていけるだろう。

 何よりプロの料理がこれからは毎日仕事場で見られる。

 そこにブログに書いた小料理なんかも置かせていただくことになった。

 人に出して恥ずかしくないものをこれから作るようにしないと。

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