第13話 新古書店

 高田店長は私にこの店について、そして業務について軽く説明を始めた。私は頷いてそれを聞く、

「頼みたいことは棚おろし、商品の査定、レジ打ちです。何も難しいことはないです、では、お願いします」

BGMがアニメゲーム的なものから西野カナなどの邦楽に変わる。彼女の声は甘い、それはそうだろうと夫にも言われたけど、甘い歌い声というのは本当にあって、でも甘い歌い方の声の味は甘いかといえばそうではない、甘い声と言われても声は甘いわけではなくむしろややほろ苦い時もある。西野カナなど女性歌手の場合は、私は甘いとか、少し甘酸っぱく感じる。

 エプロンを着て、私は早速はたきを持って棚を見回りに行く。いくつか見つけた所は下にある引き出しから手頃なものを出して、たまに誰かのレジ打ちを助けに行く。レジ打ちなら何度か学生時代の時アルバイトでやったことがあるけれど、その時とそんなに機械は変わっていないように思えた。

 それにしても、ここのBGMは美味しいものばかりだ、さっき聞いたあの高い声の女性ロックはどんなバンドだろう?この一曲きちんと聞ける気遣いは一枚でも多く中古のCDを売るためだというが、ヒットチャートのCDは棚にないことも多く、そのため高く買い取られる。ちょうど私はYouTubeヒットチャートの色んなお菓子を沢山入れた大袋のような物足りなさにはちょっと飽きていたのでとても口が楽しい、この透明感がある味の女性歌手は誰だろう?次は乃木坂?アイドルは詳しくないが小さくてかわいい果実のジュースみたいだ、時々ある悲しい恋の歌は、店内アナウンスにかき消されてあまり耳に入らない、ここなら、音楽に酔うこともなく働けそうだ。

 そう、私はあまりにも色んな音楽が流れていたり、音量が大きいと音楽に酔うのだ。若いころ夫に誘われたライブハウス、好きなバンドのはずなのにあまり食べたいとも思わなかったのは音量が大きかったからだ。

 客で通っていた時から、実をいうとここの店内放送はいい趣味だと前から思っていたのだ。

 もうすぐ11時半に時計が回る。いつもならこまごまと家のことをやっているうちに過ぎていく時間が、やたらと早く感じるのはきっと私の普段の生活が穏やかだからだ。

「大平さん、お昼行ってきていいよ」

店長の声に甘えて休憩室へ行く。

 説明を聞いた部屋は、平机とシンプルな椅子が置かれていて、白い壁には棚が置かれエプロンがいくつもハンガーにポールにぶら下がったハンガーにかけられている平凡な場所で、私は棚から持ってくるように言われていたお弁当を出して掛ける。

「あっ、ちわっす」

声を掛けてきたのは小野さんだ。体の大きさに合った大きなお弁当を持っている。

「ここいいっすか?」

「もちろんよ」

小野さんは大きな動作で机から椅子を引いて私から見たら左側に座った。

「あ、こんにちは」

原塚さんも休憩室へ入って来た。

「おぉ、なんだ原もお昼か、まぁ座れ」

「お邪魔しても?」

青年は軽く笑った。

「どうぞ、そうだ、よかったらおかず食べる?」

私は青年のまつげの長い顔を正面に見ながら、はにかんでそう笑った。

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