第15話 食べる女

 私の作った焼き豚を、小野さんはとても美味しそうに食べてくれた。焼き豚と言っても私は揚げ物は苦手で、スーパーの鳥からを野菜と炒めて作ったまがいもので豚は使っていない。

 二人は大学の知り合いらしかった、そういえばこの辺にどこか学校があったっけ。仲よさげに話していて、私にもそんな時期があったかと言うと、確かに健一さんはその時友人だったけれど……。

 教師のものまねやたわいもない話、そのどれも私には覚えがない。健一さんとは学部が違うこともあり、私は聞いてばかりだったけれど、二人はそうではない。

「ずいぶん仲がいいのね」

帰り際、なんとなく小野さんに声を掛けたら彼女はあっけらかんと言った。

「だって、自分異性と思われてないですし」

「えぇそうなの!そんなに大きい胸していて、どうして?」

私は思わず大げさに仰け反った。

「つうかあいつ彼女いますし」

小野さんは顔色を変えずにこともなげに言う。

「あの顔でいなきゃ詐欺ですよ」

じゃ、さようなら、小野さんは別れ際までさっぱりしていた。あの顔。……困った、私はあまり人の顔が覚えられない。それでも原田さんのまつ毛の長かったことと、すっとした鼻筋は見ていて心地よかった。

 この人の顔を見ていると心地よい。

 私はふとそう思っていた自分に赤面した。

 あんな若い男の子、私なんか相手にするはずないじゃないの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る