第7話 お手伝いシール
夕方、健一は惰性でアニメを見ている。テレビに子守りをさせながら、私は今日の料理を作る。
じゃがいもは万能だ。おやつにもなれば、煮物にもなる。
下ごしらえしていたものは焼けばいいから、さっき剥いておいたじゃがいもを丸のままレンジにかけて少し煮て、冷蔵庫にあった半欠けの玉ねぎや人参、ひき肉と一緒に炒めて、味付けして煮る。そんな肉じゃがもどきを煮ながら、フライパンを用意して野菜を炒め出す。
煮物の加減を見ながら、野菜も炒め、中ほどになったら肉を入れる。本当は別々に焼けばもっと美味しく出来るらしいが洗い物が少し面倒だ。
「お母さん、今日は何」
炒め物の音に健太が聞いてくる。
「いつもの炒めものに肉じゃがよ」
「えぇ、チキン食べたい~!カーネルサンタの、それ飽きた~!」
健太は駄々をこねた、私は揚げ物が得意ではなく、というより、三人ぐらいなら買う方が安いので揚げ物は買ってくるのだが、それで健太は味をしめてしまい、すっかりカーネルサンタのファンだ。
「来週末にココノカ堂行って時間あったらね」
「え~ココノカ堂ならワック行きたい、今ワクセイジャーのおもちゃなんだよ、お願い~」
「どうせワクセイジャー見てないじゃない、それに約束したでしょ、小さなおもちゃ十回我慢できたら大きいの一つ買ってあげるからって」
「ぶぅ~」
私は健太をたしなめながらフライパンを振るい、肉じゃがの火を止め、野菜炒めに味を付ける。健太はテレビを放って台所へ来た。
「ママ~」
「あっ、もう、今料理を火から降ろす所だから……」
「今日まだぎゅうしてないよ、ぎゅうしよう」
仕方なく火を止めた鍋を一回置いて健太を軽く抱きしめ、腰に抱き着かせるままにしながら、私はテーブルに皿を並べようとする。
「お皿僕やる~」
健太は私からお皿を奪って言った、私はもう、とちょっと呆れて怒った
「はいはい、お手伝いシール欲しいのね」
健太は悪ぶれないで笑っている。
「だって集めたらコミコミ買って貰う約束だもん」
はいはい、私は健太の並べた皿に野菜炒めをよそって、そのフライパンを片付ける足で肉じゃがとお椀を持ってきた。
「あ、僕よそる」
健太はお椀を並べながら言った。
「多くよそるつもりでしょう?」
「うん、……だめ?」
そんなことだろうと思っていた私は、健太をあまり咎めることはない、食べ盛りなのだ、その内大きくなってお母さんの肉じゃがなど食べてくれなくなるかもしれない。
「じゃあわかりました、ちょっと多く作ってあるから、健太はいっぱい食べてね」
結婚する前友人に言われたことを思い出す、結婚して子供とか産まれたら、やっぱり自分のおかずあげちゃうわけ?
その時私は曖昧に笑っていただけだったけれど、今ならわかる。さっきももう少しでお母さんの分をあげると言うところだったけど、どっちみち肉じゃがはちょっとぐらい余っていても邪魔にならないから心持ち多めに作って置いたことを思い出した。でもそれは理由ではない。
あげてもいい。もちろん愛情もあるし、そんなにお腹も空かないのだ。
私は健一さんの文をラップに包むと、テレビを消して、二人で食卓を囲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます