第百三十一話 失われた女神

再び謁見の間に居る。

さっきの魔族連中の報告だ。

今日は2度に渡って、謁見の方達を皆んな抜かしてしまって申し訳ない。

いつか、クレームが来ると思う。


「早かったな。何か成果があったのか?簡潔にまとめてくれ」

「ええ、まあ。その緑の人達と会って戦って勝ったんですけど、石にされちゃって、その後別の緑が出てきて、爆発で石は砕けちゃって、逃げられちゃいました」

「まとめすぎだ!もう少し分かりやすく説明しろ!」


何だよ、まとめろって言ったの国王じゃんか。

仕方ないので、森で起きた出来事を細かく説明した。


「ふうむ。魔族か。それにまた神の仕業とは」

「ですが、フォルトナーさんの話からすると、知性のある魔族はその3人だけで、あとはその人工精霊ライトとか言う、知性無しの魔族モドキだけなのではないでしょうか」

「あ、いや、僕はその魔族モドキと会話した訳では無いので、知性が無いとまでは分からないんです。何となくそうなんじゃ無いかなって思っただけで」


それに、知性有りの魔族があの3人だけって保証も無いしね。

あっさり、ベニトアイトが石化して、証拠隠滅するくらいだから、意外と魔族を作るのは簡単に出来るようになっているのかもしれない。


精神汚染魔法がどのようなものなのかと言う事を伝えたから、騎士団としても対応方法はこれから考えるだろう。


「それよりも先に、国民への周知徹底が先ですよ!普通にピクニックに来てたんですから!」

「触れは既に出してる。だが、王都全体に行き渡るには時間がかかるのだ」

「それは、ちゃんと情報伝達網を整備してないからです!有事の際の危機管理がなってないですよ!」

「わかっておる。だが、予算的にも人員的にも整備するのは難しいのだ」


そんなに連絡するのにお金とか人がいるかな、と思って聞いてみたら、どうやら、何かの通達がある度に、各部署のサインが必要なるらしい。

今回も外出禁止準備情報を発行する為に10以上の関係部署のサインを貰う必要があったらしい。

その上、それを王都の中央と東西南北の5つに分割された、王都管理部に通達を出し、そこでも、いくつかのサインをもらい、そこから、更に細かな地域自治体などに通達が降りていく。

そこでも、サインがいくつもされていき、ようやく町の自治会長や、外壁門の部署に通達が届くことになる。


本当にこの通達が必要な人に正しく届くまでは、どんなに早くても3日はかかるらしい。

だから、国民の人達は皆んな今回の事を知らなかったんだ。


この後の事は騎士団に任せるとして、僕は家に帰らせてもらう。

今回の事で僕もアズライトも、後はアリアもそうだけど、精神系の魔法に対抗する手段が無いことに気付かされた。


その辺りの強化をしておかないと、また魔族と戦闘する事にでもなった時に、今回のような事になりかねない。



家に着くと、早速自室にこもって魔法かスキルの良いものが無いか探してみる。

だが、小一時間検索してみたけど、魔法もスキルにも、精神を守ると言うようなものが全く見つからなかった。

精神強化というスキルは以前作った事があったけど、強くするだけでは、精神攻撃には対抗できないようだ。

ただ、アズライトにも入れていたから違いが分からないけど、もしかしたら、そのスキルのお陰であれくらいの精神汚染で済んでいたのかもしれない。

そう言えば騎士団の人は記憶を失う程の精神汚染を受けたと言っていたから、多少は防御出来ていたのだろう。


でも、それじゃあダメなんだ。

きっちりとガードして、こっちの攻撃が当たり、あっちの攻撃を避けられないと、次は全滅してしまうかもだ。


魔法とスキルに無いなら、魔術や精霊術かな。

僕の知っている術式には、そう言った精神系のものは無かった。




そう言う訳で、今はミスティの家に来ている。

アーデも居るので、2種族の生き残りに貴重な魔術と精霊術の話しを聞ける。


「ふむ。精神を守るという精霊術は聞いた事が無い。あったら欲しいくらい」

「魔術にもそうゆーのはないよ。人を呪うのはあるけど」

「そっちは要らないかな。そっかあ。やっぱり無いよね。敵は攻撃に使ってるんだから、何かの系統で扱える筈なんだよな。魔族だから、、、魔の、、、法、あ、魔法か。魔の、、、術、、ああ、魔術か。魔族だからって言うのは関係ないのか」


どうにも考えの方向を間違えているようだ。

ベニトアイトが精霊に人工人格を生み出せた時に偶然出来た精神系の攻撃術なんだろうか。

それだと、新しい系統だから、対抗出来る術なんて無いぞ。


「裏で糸を引いているのは神なのだろう?それなら、術としては、神の御業のようなものなのでは?例えば、我が主人、あなたの翼のような」

「ああ、なるほど。そっちの術があったね。術、なのか?セラフの翼とかって、一応魔法の位置付けなんだけど、別枠なのかな」


そう言えば、スキル作成スキルでセラフの翼やアザレアの杖と水筒を作った訳じゃなくて、何かもっと別の高位の作成方法で作ったんだと思う。


「何か精神を守るような力を持った神の名前って知らないかな?」

「あまり、神の名は知らない。憎っくきスファレライトとかはよく知ってる。アレのせいで、神とは嫌なものと言うイメージが強い」

「アーデも知らない。魔法が使えなくなって神との繋がりが薄くなったから。エルツの方が強く結びついていると思う。直接の子孫だし」


そうか。

種族が枝分かれする前に直接神との子として生まれた種族だもんね。

神の名やその力は浸透しているかもしれない。


「ありがとう。帰って家族に聞いてみるよ」



「ただいま〜」

「おかえり〜」

「ねえラナ。ラナ。聞きたいことがあるんだけどさ」

「な、何よ。帰ってくるなりいきなり。スリーサイズは教えないわよ?それとも、ヘソクリの金額?あ、お風呂でどこから先に洗うかとか?もうご主人ったら変態さんなんだから〜」

「勝手に変態にしないでよ、、、。そんな事じゃなくて、神様の事を聞きたいんだよ」

「そんな事、、、。ええ、どうせ、私の事なんてそんな事ですよーだ。ふん。もういいわよ、ご主人には何も教えない!」

「ご、ごめん!違うんだ!本当はとっても聞きたいんだけど、今は急いでいるから後でじっくり聞きたいなあって」

「ほんとに?」

「ほ、ほんとほんと。ラナって、ど、どこから洗ってるのかなあ、、、。き、気になるなあ、、、」

「ド変態がここにいるわ。近寄らないでくれる?変態が移るわ」


変態は伝染しないと思うよ?

くっ。たった一言間違えただけでこんな目に。

女性に対してはいつも真剣に考えて話しをしないと痛い目にあうぞ、、、という父さんの教えは合っていたんだ。

ここは、真面目に、真剣に謝ろう。


「ラナ、、、。その、ごめんね?」

「うっ。ずるいぞ、ご主人。上目遣いで目をウルウルさせて謝るとか、、、。もう許しちゃう!」

「ちょろい姉」


よ、良かった、真面目に謝ったから、許してもらえた?

ちょっと違うかもだけど、良かった。



「それで?神様の事、、、だっけ?何を知りたいの?」

「精神を守るような神様を知らないかな?その神の使う力みたいなのでもいいよ」

「精神、、、。んーと、そう言う神様っていたっけかな?呪ったり、相手の心を乱すような神様ならいっぱいいるけど、守るのは知らないな〜。フィアちゃんはどう?知ってる?」

「守る、、、。いくつか居ると思ったけど、、、そう言うのはマイナーな神だからあまり知られていないのよ」


マイナーでもいいから、その名前が知りたいんだよ。


「ああ、確か女神で、クォンタム、、、そう、長い名前なのが居たわ。あ!そう、クォンタムクアトロシリカよ!その女神が精神守護を司っていた筈」


おお、確かに長めの名前だけど、それが精神守護の女神か。

その女神の守護が付けば、精神汚染から守ってくれる筈。


「アズライト。ちょっと、ステータスを変えさせて欲しいんだけど、いいかな」

「もちろんなのです。マスターになら何されても文句は、、、」

「それは、いいから!それ言うと、周りの圧が強くなるから!、、、オホン。それじゃあ、変えるからね」


アズライトのステータスを開き、加護の欄に「クォンタムクアトロシリカの守護」と書き込む。

長いな、名前。

あれ?保存しようとしたら、クルクルと何か回って動かなくなっちゃった。


これって、時間が掛かってるんだよね。



『クォンタムクアトロシリカとの接続が出来ませんでした。該当の神または女神が存在しません』



ええ?この女神居ないの?

どう言う事?


「ダメだ。その女神は居ないみたいだよ」

「あらま、女神って居たり居なかったりするの?お出掛け中?」

「ラナでもボケる時があるんだね。天の国にも存在しないって事みたいだよ」

「あう。ボケたつもりはないんだけど、、、恥ずい」


存在しない、、、亡くなったのかな。

女神もやっぱり死んじゃう事があるのか。

そりゃそうか、クロとかカルとか見た目は普通の女の子だったもんな。


でも、その女神が居ないとしたら、どうするかな。


「他に精神守護の神は居ない、、、よね」

「そうね、、、。ごめんなさい、他にもいるはずだけど、分からないわ」

「いや、いいんだ。別の方法を考えるかな〜」


でも、神の作り出した力に対抗するというのは、普通のやり方で出来るとは思えないしな。


「マスターマスター」

「何?アズライト」

「女神様が居ないなら、アズのように作るといいのです。アズも作られた精霊なのです。女神様だって作ってしまえば、万事解決なのです」

「人工女神って事?いやいやいや、そんなの、無理、、、か?どうだろう。精霊で出来るなら、天使や女神も作り出せるか?」

「アリアちゃんも似たようなものじゃないの?」

「あれは、、、、中身空っぽだしな。でも、職業が女神ならいけるのか?それで、そのあと、どうやってその精神守護の女神にすればいいんだ?」


名前を変えればいいんだろうか。

色々やってみたいけど、アズライトやアリアで試すのはちょっと怖いな。

また人形族屋に行って仕入れてくるか。


あ!だとすると、先にやるべき事があるな。


「えっと、皆んな。あの、その、、、も、もう一人増えるかもしれないんだけど、、、いいかな?」

「急に何言い出すの?また、女の子をどこかで見つけてきたの?拾ってきたところに返してきなさい!」

「いや、捨て猫じゃないんだから。そうじゃなくて、さっきの女神の話しだよ。居ないなら、人工でも作るって話し。女神を作ってみようかと思うんだ」

「あれ本気の話しだったの?神を作るとか罰当たり過ぎない?」


そう、なのかな。

精霊を作ったり、天使を乗っ取ったりしてる時点で充分罰当たりな事はしてるから、女神を作るくらい同じ事だよ。

以前には僕は女神だって、偽称した事もあるしね。

今更、1つ2つ増えたところで、罰が当たるなら変わらないよ。


「やれるだけやってみたいんだ。この国を守る為には必要な事だしね!」

「違いますよね?単に面白そうだからですよね?」

「国を守るとかあまり考えてないわよね」


失敬な。ちょっとは考えてるって。

この国がなくなったら、別の国に引っ越さないといけないし、そうなると面倒だから守ろうかな、くらいには思ってるって。


「と言うわけで、今回は国の為、僕達の生活を守る為に、仕方なくもう一人増やすことになります!ですので、その許可をいただけないでしょうか!」

「これがまた、いやらしい意味で女の子を増やしたいって理由じゃ無いのが微妙な線なのよね」

「本人は面白そうな事にワクワクしてるだけですもんね。余計タチが悪いです」


だって仕方ないじゃないか。

神様作るとか考えもしなかったけど、一度思いついちゃったら、やってみたくなるってものでしょう?


「にいちゃん!僕も分かるよ!理想の女子を作り上げるとか、男のロマンだよね!」

「待ちなさい!ブロンはいつの間にそんなご主人みたいな事言うようになったの?!情操教育に良くないわ!ご主人!ブロンの躾に良くありません!」


え?何、これ僕のせいなの?

いや、僕のせいか。

まずは、ブロンの考え方を治すところから始めないといけなかったようだ。

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