第百三十話 実験場

3人の魔族はマナを流して強化したリボンで縛っておいた。

たまにマナを流し直せば、逃げ出す事は出来ないだろう。


「おーい。起きるんだ!」

「んん、、、。ん?これは、、、。そうか、捕まったか」

「んあ、ああ。なんだ?俺は何をして、、、、。何か恐ろしい物に襲われたような、、、」

「あんたは忘れていた方が良いわよ。私はしばらくうなされそう」


3人とももう抵抗する気は無さそうだし、これなら落ち着いて情報を聞き出せそうだ。


「あなた達は魔族って言ったよね。それって、神が何かまたやり出したのかな?」

「あ、ああ。そうだ。ベニトアイトとか言う神が俺達を作り出したんだ」

「作り出した?あなた達は人工精霊なの?」

「ああ、よく知ってるな。ベニトアイトが長年研究してきたらしい。人形族を精霊化するのは、ある一部の種族の術式にあったんだが、そこから人格を持たせるのにようやく成功したんだとさ。その成功第1号が俺達ってわけだ」


そ、そうなんだ。

僕の横にその成功例がもう1人居るんだけどね。


「それじゃあ、王都に人形族が現れて、人を襲ったのもベニトアイトのせいなのかな?」

「ああ、そうかもな。人形族を動かす方法を色々と実験していたって言ってたからな。最初は他の国でやってたんだが、その国の管轄の神に怒られて、フォルクヴァルツに来たらしい」


ああ、マルブランシュの妖魔とかもベニトアイトの仕業だったのか。

まあ、あれからするとだいぶ実験の成果は出たみたいだな。

その分犠牲者がたくさん出たから、許せないんだが。

何もこんな人の居る場所で試さなくても良いじゃないかよ。

それをこの魔族に聞いたら、人族で経験値を稼ぐ必要があるのだとか。

ちょうど人族が魔物を倒して成長するのと同じ感覚なのだろう。


それにフォルクヴァルツを実験場にしたかったから、シュタール族が攻めて来られるのは、都合が悪かったと言う事なのだろう。

しかし、マルブランシュでは管轄の神とやらに怒られたって言うのに、フォルクヴァルツの管轄の神は何をしてるんだよ。

この国でも、ちゃんと管理して、ベニトアイトに怒ってくれないと、こっちが困るんだけど。


「あ、あのさ、フォルクヴァルツの管轄の神って誰なの?」


通信障害が解決したらクロを通して管轄の神に言ってやるんだ。

変な事やってる神が居るんだから放置しないで、ちゃんと管理しろ、ってね。


「確か、セラフィナイト、、、とか言ったかな。技術設計をしている女神だとか」


ああ、身内でした、、、。

何だよ!クロのやつ、この国の管理者だったのかよ!

もうちょっとやる気出してよ!


あ、そうか。それで、僕を勇者にしようとしたり、スファレライトの企みを妨害しようと、一応は頑張ってたのか。


「あと1つ。今って通信障害になってるのも、ベニトアイトのせいなの?」

「さあな。世界中で発生してるんだろう?そんな大それた事をただの一般神が出来ないだろ?」


一般神って何だよ。

上級神とかいるのかよ。

そこも気になるけど、通信障害はベニトアイトのせいじゃないとすると、あとはスファレライトかもな。

アイツも一般神なのか分からないけど、こう言うのやりそうではあるな。


「ねえ。あなた達って、人工精霊なんでしょ?それじゃあ中の人が居て、実は天の国の人だ、って訳じゃないんだよね」

「あと1つなんじゃないのかよ、、、。ああ、そうだよ。俺達はベニトアイトに作られた擬似的な生命体だ。知識を事前に分け与えられて、一昨日、急にこの姿でこの世に生まれたんだ。知識はあるから理解はしているが、実感はわかないな。本当に自分が人工的に作られた存在なのかってのはな」


アズライトもそう言う気持ちなのだろうか。

僕が勝手に生み出しておいて、あなたは実は人工物なのですよと言われて、嫌な気持ちになっているのだろうか。


ちらっと、アズライトを見ると、僕の視線に気付き、にかっと笑顔を見せる。

嫌がられているわけではないのか、それとも、我慢してるだけなのか。

直接聞くのはちょっと怖い。


「スファレライトとベニトアイトって仲がいいの?」

「ああ、それはだな」

「おい。喋り過ぎだぞ。ペラペラ内情を敵に話したら、後でベニトアイトが俺達にどんなひどい事するか分からないぞ」

「それはもう無いだろう。どうせ俺達はここで破壊されるんだし、それに、ベニトアイトには特に恩義も感謝の気持ちも無いからな。まだ生まれて2日しか経ってないが、ベニトアイトは俺達をただの物としか扱わなかったからな」

「そうよね。私達が何を言っても、人形が文句を言うなって聞いてくれなかったものね。人族を吸収しないと生きていけない体だって作り変える事も出来たはずなのに、お金が掛かるからってしてくれなかったし」


この人達も苦労してるんだな。

どうにも神はこっちの世界の住人を軽く見てるような気がする。


「あなた達は自由には出来ないけど、捕虜として扱います。不便にはなると思うけど、きちんと国際法にのっとってあなた達の人権は保証します」

「俺達は別にこの世界の国に属してるわけじゃないんだぞ。神が送り出してきた、ただの人形だ。人権なんて無い存在だぞ」

「僕には区別付かないからね。僕があなた達を人と感じてるんだから、人として扱うのは当然でしょう?」

「そうか、、、。ありがとうな」


インベントリに収納した人達も早く帰してあげたいけど、その前にこの魔族の3人を王宮に連れて行って、そこでもう一度、今の話しをして貰いたい。

王都に着いたらその時にさっきの家族連れとお婆さんは解放してあげよう。


「それじゃあ王都まで連れて行くよ?収納して行った方が早いから、悪いけど少しの間、我慢しててね」

「ああ、俺達は文句が言えない立場だ。好きにしてくれ」


魔族の3人に手を触れて、インベントリに収納しようと近づく。


「うがあ!や、やめろ!」

「ぎゃああ!熱い!」

「きゃあああ!やめて!」

「うわっどうした?!」

「マスターがやってるのです?」

「違う!まだ何もしてないよ!」


魔族達は急に苦しみ出し、地面を転がり回っている。

そして、3人同時にぴたっと動きが止まると、苦しみに耐えている姿のまま固まってしまった。


「え?どうしたの?もう大丈夫なの?」


恐る恐る近づくと、3人の姿に違和感があった。

皮膚が岩のようになったいたのだ。

さっきまで普通の肌をしていた筈なのに、今は灰色の岩で出来た彫刻のようになったしまっていた。


「マ、マスター、、、。岩になっちゃったのです」

「う、うん。ベニトアイトがやったんだろう。口封じなのか、色々調べられるのを嫌がったのか」


とにかく、この魔族達をこのまま放って置くのも良くないから、ストレージにでも収納しておくか。


『ブラントストフノバクレツ』


ドグオオオオン


「ぐあああ!」

「きゃあああ!」


うぐう。爆裂の魔法か。

今のは直撃だった。

気を抜き過ぎて防御のレベルがかなり落ちていた。

アズライトは?

まずい!かなりダメージを受けている。


アズライトに近付き、回復魔法をかけないと。


『ブラントストフノバクレツ』


「うわあああ!」


こ、これはかなりまずい。

僕の生命力もかなり無くなっている気がする、

どこだ?どこから攻撃してきている?

体中に怪我をして、左腕とかもう千切れそうだけど、最大レベルまで運動能力を引き上げて、アズライトの所まで駆け出す。

全身が痛みて気絶しそうになる。


また、爆裂魔法の魔法名が聞こえてくるけど、ギリギリ間に合った。

アズライトに手を当て、インベントリに収納する。


『ブラントストフノバクレツ』


ドグオオオオオオオン


ドサッ


もう声も出ない。

意識が朦朧として来た。

ダメだここで僕が死んだら、アズライトもさっきの人達もここに放り出されてしまう。

そうしたら、この爆裂に巻き込まれてしまうのだから、絶対に僕は死んだらいけない。

そうだ!

インベントリからアリアを出す。

フリーズ状態からウェイクアップシグナルを送って起動する。

意識をアリア側に移す。


「セラフの翼!第四の翼 擬グングニル!目標、近くの人工精霊!」


『対象、人工精霊ライト、6体。精神汚染魔法による捕捉妨害有り。解析中、、、。解析完了。ロックオン成功。いつでも行けます』


「雷槍!いっけえ!」


思いっきりマナを込めたせいか、空中に雷の槍が6本浮かび上がり、僕の命令と共に四方に飛んでいく。

僕を中心として半径2ハロン程度の範囲に槍が散らばっていき、何も無い空間に雷槍が突き刺さる。


『ぎえええ!』

『フギャッ!』


そんな声なのか鳴き声なのかよく分からない音がして、ドサドサッと何かが倒れる音が続く。

その方角を見ると、急に魔族らしい姿が倒れた格好で出現する。

気絶して精神汚染魔法が解除されたのだろう。


木の上にいた者や、岩陰にいた者など、全部で6人。

さっきの対象には人工精霊ライトって書いてあったから、石にされた魔族よりは下位の魔族なのだろう。

そう言えばあの石像化した魔族は爆風で粉々にされてしまった。

証拠隠滅も兼ねた攻撃だったのかもしれない。


今のうちにリンの方を回復しておこう。

アズライトは時間を停止させるために一旦ストレージに移しておく。

他の家族連れとかも同様に移す。

どうにも王都へ帰るまでは、気が抜けないようだ。

セラフの翼は出したままだから、そのままリンを回復する。

ああ、やばいな。僕、もう死にそうだ。


「第二の翼 命の源泉。第三の翼 空虚反転。おおう、流石にリンを回復するのはマナが大量に必要なんだな」


結局、アリアのマナはほとんど使い切ってしまった。

これはこれで危険だから、今度はリンに意識を移して、アリアのマナを回復させる。


「アザレアの杖と水筒、、、の水筒をアリアに」


アリアの手の中に水筒が現れる。

そして、その中の水をアリアに意識を戻して飲んでいく。


見た目は二人だけだど、やってる事は無言で自分で自分に水筒を渡して水を飲んでるだけだよな。

一人で何やってるんだか。


2人とも回復したから、さっきの魔族モドキの様子を見に行ってみる。

まだ、気絶してる筈だけど、、、、。

あれ?居ない。

もう目が覚めて、また移動したのか?


試しに、第四の翼 擬グングニルを出してみたけど、対象は居ない、と出て発動しなかった。

逃げたのか、ベニトアイトが回収したのか、どちらかだろう。


結局、捕虜も岩にされちゃった上に粉々にされたし、あの魔族モドキも逃してしまった。


どうにもベニトアイトには上手く逃げられた感がある。


家族連れやお婆さんを帰さないといけないし、アズライトも回復したいから、王都へと帰ることにした。


1人だと危ないので、アリアとリンの2人、、、いや結局1人だけど、見た目的には2人で帰る。


1人で話していてもただの独り言なので、お互い無口のまま、喧嘩したカップルのように黙々と王都へと向かった。


何だよこれ。

僕と2人きりで歩くとか違和感だらけなんだけど。

それに、僕と2人きりで歩く、という言葉も何だかな。


「やあ、お帰りなさい。あれ?先程出掛けられた時とは違う方では?あ、いや、すみません、、、ははは、お若いのに流石英雄殿ですな!」


いや、これ、僕ですから、、、。

それに、アズライトも僕の分身、、、、というか娘みたいなものですので、、、。


衛士さんには適当に誤魔化して外壁門をくぐる。

家族連れとお婆さんを解放しようと思ったけど、お婆さんとママさんはアズライトのインベントリに収納していたんだった。

と、思ったんだけど、インベントリを見たら、どちらも僕のインベントリに収納されていた。


マナを共有してるからか、インベントリもストレージも僕とアズライトは同じ空間を共有しているみたいだな。


家族連れ4人とお婆さんをインベントリから解放して、今日のところはそのまま家に帰ってもらった。

さて、あとはアズライトを回復しないとだよな。


アズライトをインベントリから出す。


「ふぃ〜。戻ってこれたのです。1人は寂しかったのです」

「あれ?何で全回復してるの?いや、いいんだけどさ」

「インベントリの中で自己回復したのです。暇だったのです。真っ白なお部屋は退屈なのです」

「そ、そうか。ごめんね。まだ、何が起きるか分からなかったから、安全なところまで出せなかったんだよ」

「アズを心配してくれた結果なので問題ないのです」


アズライトは家に帰して、僕は国王に報告に行くとするかな。


「アズライトはアリアと一緒に家に戻っててくれないかな」

「それはいいのですけど、、、、この方はどなたです?」

「あ、そうか、初めて会う、、、わけじゃないんだけど、こっちはアリアって言う僕のサブアカウントなんだ」

「さぶあかんと」

「えっと、とにかくこっちも僕が中の人なんだ」

「つまり、、、、アリアマスターなのです?」

「え?それは、、、合ってるのかな。まあ、それでも良いけど」


とりあえず、アリアと一緒にアズライトには家に帰ってもらった。

帰りの会話からすると、やっぱり、リンとは別人だと思っているみたいだった。

後で図に書いて教えてあげよう。

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