第百十八話 調印式

「はて?アリア殿がフォルクヴァルツ王国の主神、、、?そうなのですか?アリア殿」

「え?、、、、いや、その、、、何といいますか、、、多少は?」

「なんと!ではこの和平もフォルクヴァルツによって仕込まれたものなのでは?アリア殿!あなたは我々を騙したのですか?」

「ち、違います!フォルクヴァルツとは過去に少しだけ関わりがあっただけで、主神とかじゃないです!」


ああ、まずいまずい。

女神とか言わなきゃ良かった。


「怪しいですな。そもそもあなたは本当に女神様なのでしょうか?フォルクヴァルツ王国の騎士団員などと言うことはありませんかな?」

「何!?アリア殿!そこまで謀ったのか?」

「いえ!本当にフォルクヴァルツの者ではないですよ」

「失礼ながら、身の潔白を証明していただくのが一番かと。ステータスを見せていただければ即判明いたしますぞ?」


デマルティーノの人は何いっちゃってるのさ!

困った困った。

せっかく平和の道を進めそうだったのに、フォルクヴァルツ国王のせいで台無しだよ!

元はと言えば僕のせいかもしれないけど、、、。




よし、こうなったら、詐称じゃなくしてやる。

アリア自身は自分のステータスは変えられないからリンの方に意識を戻す。

でも、リンの方だと翼非表示モードにはできないから、こっそりと扉の方に行き、少しだけ扉を開く。

背中だけを廊下に出して、小声でつぶやく。


(セラフの翼 第六の翼 窓を破壊する者(ウィンドウブレーカー)、対象、アリアージュ・ミヌレ!)


廊下にはバサァッと翼が出るけど、まあ、なんとかなるでしょう。

ちょっと扉の向こうがざわざわしてるけど、気にしない。

廊下にはレリアも居るし、一緒に待機している騎士団の人達には説明してくれる筈。

部屋の中はアリアの方に皆んな注目が集まっているから、僕のこの変な行動には誰も気付かないようだ。


とにかく、アリアのステータスの職業と種族が問題なんだ。



職業 天使

種族 人族



これを書き換える。



職業 女神

種族 天人族



よし、これで、本当に女神になれるぞ。

保存っと、、、、、あ、あれ、、、マナがグングン減っていく、、、、。

ま、まずい、ゆっくりとだけど、確実にマナが減り続けているのが感覚で分かる。

マナは超大量にある筈と思ってたけど、もしかして、全部使い切っちゃうのか?

書き換えは終わったから、翼は閉じてクラウゼンさんのところに戻る。


「ク、クラウゼンさん!僕にマナ弾を打ち込んでもらえませんか!」

「へ?マナ弾、、、ですか?」

「は、早く!僕が死んじゃう!」

「え?え?わ、分かりました!マナ弾行きますよ!」


よ、よし、マナを受け入れて、少しだけ回復、、、ダメか、減る感覚の方が多い。


「もっと送ってください!多少強くてもいいです!」

「ええ?!もっとですか、、、じ、じゃあ、行きますよ?」


まだ足りない。


「どんどん来てください!かなりヤバイです!」

「そ、そんなことを言われても、もう私もマナが無いですよ!」

「アザレアの杖と水筒!水筒をクラウゼンさんに!」

「この水筒は?」

「それを飲みながら、マナ弾を僕に打ち続けてください!ああ!レリアのお父様も!お願いします!水筒を出すので、それを飲みながら、僕にマナ弾を!」

「ど、どうした?マナ切れなのか?よ、よし、マナ弾で回復できるのだな?」


他にもノインの冠の人達、皆んなに手伝って貰って、マナを回復し続けてもらった。

よし、マナが減っていく感覚がほとんど無くなったぞ。

それでも、増える感覚も無いから、丁度減る量と増やす量が同じくらいになったんだろう。


(おい!リーンハルト!クラウゼンも何をやってる!)

(国王のせいで大変なんですよ!)

(うっ、、、そ、そうかのか?それは、すまん)


「そちらは何をされてるのですか?アリア様の素性がバレそうになって今更慌ててるのでしょうか?」

「そっちはいい、アリア殿。嘘偽りが無ければここでステータスを見せることも構いませぬな?」

「ふう。分かりました。全てをお見せする訳にはいきませんので、一部だけにさせてもらいますね?」

「う、うむ。女神と分かればいいだろう」




名前 アリアージュ・ミヌレ

性別 女

年齢 13

レベル 1

職業 女神

種族 天人族



途中までを表示するようにして、皆んなにも見えるようにした。

クルッと窓を回転させ、周りの人達に見せた。


「おおおお!本物の女神様だ!」

「これはこれは!飛んだ失礼をいたしました」

「アリアちゃん、、、本物の女神様だったのか?」


ふぇ〜、間に合ったか。

おお?リンの方もマナが増えるようになったから、ようやく足りたのか?

周りにマナの操作が得意なこの人達がいて良かったよ。

何せ王国のトップクラスの人達にマナを供給してもらったんだもんな。

リンの方で皆んなにはマナ弾打ち込みは終えてもらい、皆んなにお礼を言っておいた。

クラウゼンさんには物凄く心配されたけど、ほんと助かりましたよ。


(おい、リーンハルト!また何かやっただろう!なんであれが本物の女神になってるんだよ!)

(………企業秘密です)

(誰が企業だ!後でじっくり聞かせて貰うからな!)

(うえぇ)


「いやはや、飛んだ誤解をしてしまった。アリア殿、どうかゆるしてもらえぬだろうか?」

「え?、、、ああ、いえいえ、問題ないですよ。フォルクヴァルツ国王が変なタイミングで冗談を言うものですから、疑ってしまうのは仕方ありませんよ」

「おお!流石女神様、、、慈悲深いお方だ」


あっぶなかったあ。

ああ、でも、これって、詐称するより罪が重かったして。

天の国にはバレてるんだろうなぁ。

通信障害が治ったら、天の国の役所からバンバンメッセージが来たりして。

いや、あっちにも官憲とかいるのかな?

僕を捕まえに来たり、下手をしたらその場で処刑されたりもあるのかな、、、。



和平は合意に至ったということで、三国間における、和平条約が結ばれることとなった。

元はフォルクヴァルツとシュタールだけの和平だったけど、結局、デマルティーノもその条約に参加する事を決めた。

まあ、二つの国に挟まれてるからには、同じ条約に入らなければ不利になるからね。そりゃまあ当然の事だ。


この条約は三国会議が行われたこの都市の名前からとって、ヴェローナ条約と呼ばれる事になった。




「それでは、ヴェローナ条約の調印式を執り行います」


しばらくの間、書類を揃えたり、細かな所を詰めたりするのを待っていたら、調印式と言うのが準備されていた。

合意した内容にお互いが署名をし合って、それを持ってして条約が締結する事を示すのだそうだ。

国同士の約束事だから、こういうのがとても重要なやり取りになるようだ。


会場は先程の白い部屋とは違って、かなり広く装飾も派手な部屋が用意されていた。

壇上には机と椅子が4脚あり、フロアは各国から集まった、国の情報機関の人や民間の報道機関の記者が今か今かと待ちわびていた。


この短時間でよくこれだけ集まったものだ。

この国に限らず各国にはその国の情報を集める公的な大使や他国の報道者が常に居るものらしい。


この調印式の情報が告知されてから、外国から記者が集まったのではなく、既にこの国へ駐在員として派遣されている記者がここに来ているのだ。


僕はそのフロアの横、壁際に立ってその様子をぼやんと見ていた。

もう僕の関わる所でもなく、後はこの調印式が終わるのを待つだけだ。


フォルクヴァルツ国王、デマルティーノ帝国議会議長、シュタール国王の順に壇上へ上がってくる。

あれ?席は4つあるのに、3人だけだな。

まあ、3国の条約なんだから、それでいいんだけど、だったら、席も3つでいいんじゃないのかな。




「アリア様。壇上へどうぞ」

「ふぇ?ボク?な、何で?」

「見届け人という事で署名をお願いしたいと、お話しを伺っております」

「そ、そんなあ」


この人は会場のスタッフだから、ここで文句を言っても仕方ないんだけど、でも、聞いてないよ!

もうその文句を言う人達は全員あそこにいるんだもんな。

文句言いに言ったら、壇上に上がっちゃうんじゃん。

うわあ。ずるいなぁ。


しょうがないか。まあ、ぱぱっと名前書けばいいんでしょ?

壇上に上がって、4つ目の席につくと、何故か会場がざわざわと騒がしくなる。

ほら、やっぱり、場違いなんだよ。

せめてもうちょっと背があって、お姉さん的な見栄えだったらなあ。


「では、定刻になりましたので、只今からヴェローナ条約の調印式を開会いたします。では、ご臨席賜りました、ご来賓の皆様をご紹介申し上げます。はじめに、、、、」


ここからが長かった、、、。

最初に各国のお偉いさんや教会のなんか凄い人、あとは経済界のトップクラスの人とか、そんな人達が何故かここに列席していて、その紹介が始まる。

その後は、この条約の大まかな内容とか、締結に至った経緯とか、もうどうでもいいような事を延々と説明していく。

もう寝てていいかな。


「さて、それでは調印に移らせていただきます。はじめにシュタール王国国王様より調印をお願いいたします」


お。そろそろクライマックスか?

シュタール国王が4冊の調印書に署名をする。


その後はフォルクヴァルツ国王、デマルティーノの議長と調印書を渡して順番にサインしていく。

最後にアリアの番だ。


なんでこんな事に、、、。


ヴェローナ条約調印書


とか書かれた一枚の紙が豪華な表紙の本の様なものに挟まれていた。

そこには長々と条約の本文が書かれていて、下の方には各国の長の署名が3つ並んでいた。

その下にアリアの名前を書く。



ゴルト=ツィン=シュタール=ヘルグリューン

フリードリヒ・アルベルト・フォン・フォルクヴァルツ

ベルナルディーノ・アジオーリ

アリアージュ・ミヌレ



このメンバーの中だと、アリアの名前だけ浮いてないか?

リンの方じゃないだけましだけど、アリアって結局存在しない人の名前なんだよな。

4冊の調印書すべてに名前を書くと、それぞれ1冊ずつ各国と僕に渡される。

他の人達は国の代表として貰っていて、僕だけが個人的に貰ってるんだけど。


「これにて、調印がすべて終わりました。皆様、どうぞ盛大な拍手をお願いいたします」


ふぅ。ようやく終わったよ。


「では、これより、各国の首長様よりご挨拶を賜りたいと存じます。まずは、シュタール王国国王様より、お願いいたします」

「ああ、ああ。テステス。おほん!シュタール王国国王のゴルト=ツィン=シュタール=ヘルグリューンである。この度は三国会議により取り決められたヴェローナ条約の調印式に列席頂き感謝する。この条約としては、、、」


うへぇ。調印の後にもこういうのが続くのかよぉ。

しかも、シュタール国王、話が長いよ!

学校の朝礼で話す学園長のよくわからない話しじゃないんだから!

あれ、いつも長過ぎて、途中で倒れて保健室に連れてかれる生徒とかしょっちゅう居るんだから、短めにして欲しいんだよ!


僕の心の叫びも虚しく、調印後の話しは結局二時間近く掛かった。

あんた調印前にも話しをしたろ!っていう人もまた出てきては、今日の天気の話から始まって、朝の散歩で見た、公園でゴミ拾いをしている若者が今時偉い!とかの話しとかを苦行の様に聞かされていた。

しかも、それさっきの前半戦で聞いたよ。




「うえぇ。ようやく終わったぁ」

「大変だったな。アリアちゃん、頑張ってたぞ?」

「うん。頑張って寝ない様にしてたよ、、、」

「う、うむ。そうだな偉かったな、、、」


さて、帰るとするか。

もう疲れたから、アリアはスリープにして、ストレージにしまっておこうかな。


「アリア殿。では、我がシュタールへ帰還するとしよう」

「えっと、何を言い出してるんですか、、、」


もう疲れてるんだから、そう言う冗談は要りません!


「いやいや、アリア様、このままこのデマルティーノにずっとご滞在くださいませ。お申し付けいただければ何でもご用意いたします!必ずやご満足いただけるように、贅を尽くしておもてなしさせていただきます!」


デマルティーノの人もそう言うノリが好きだねぇ。


「アリアは我がフォルクヴァルツに帰るのだ!ほら帰るぞ!」

「むむ!やはり、フォルクヴァルツの手の者だったのか!」

「これは、条約破棄もありえますぞ!」


まったく、、、この人達は何をまた言い始めるんだか。


「私はどの国も属しません。一度天の国に帰りますが、せっかくの条約を破ることになったら、それを言い出した国に天罰が下りますからね!」

「いやいや、冗談ですよ。ほら、皆んな仲良し、、、」

「そ、そうだ、冗談だ。アリア殿は三国共通の女神であるからな!」


別に三国の女神でも無いんだけどな。

まあ、いいか。


アリアをスリープ状態にして、近くまで寄っていたリンの方ですぐにインベントリ経由でストレージにしまう。


「おお、天に変えられたか!」

「今度はいつご降臨されるだろうか」


これ以上は絶対怒られるから、もうアリアは出しません!

二倍動けるから面白かったんだけど、しばらくは封印だな。

あ、そうか、別のアバターを用意すれば良いのか。

そして、今度は普通の人族のままにすれば良いんだよ。

もう、天使だの神だのにはならないぞ。

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