第百十九話 帰路

帰り支度をしていると、4人の男女が辺りをキョロキョロしながら、何かを探しているようだ。

あ!すっかり忘れてた、、、。


「カティ!ユーリ!ファルコさん!ヘルマンさん!迎えに行かなくてすみません!国王の一行に混ぜてもらってフォルクヴァルツに帰りましょう」

「あ、、、は、初めまして!カティア・カナリスと申します!わ、私、英雄様にお会い出来てこ、光栄っす!!」

「ユーリエ・フォスです。叙勲式拝見しました」

「フ、フ、ファルコ・ラスカーであります!」

「ヘルマン・ギーレンです!おお、本物の低硬度の英雄様だ!あ、握手お願いします!」


え?皆んなどうしたの?

そんなキャラじゃないよね?


………あ、そうか。今、僕はリンの格好だった。


「えっと、、、アリアから聞いています。ここまで連れてきてくれた騎士団の方々ですね?アリアは一足先に帰ったのであなた達は国王護衛に混ざって王国に帰りましょう」

「「「「は!」」」」


やりづらい、、、。

だいたい10歳の子供相手に何でそんなにかしこまるんだか。

騎士団からは僕の年齢は公表してないのかな?

最近何となく身長も伸びてきたし、も、もしかして、カッコいい大人!とか思われてたりして。

そんな訳ないか、、、。


護衛の4人は、もうアリアもいないし、リヴォニア騎士団と合流してもらった。

リヴォニア騎士団も憧れの団らしく、4人ともガチガチに緊張していた。



ディアともここでお別れだ。


「アリアちゃんはもういないのか?」

「ああ、ディア。うん、面倒だったから、片付けちゃった」

「女神様を片付けたって、、、。まあ、本人なんだからいいのだろうが。あなた達、、、達っていうのも変だが、あなた達のお陰で戦争にならずにすんだ。ありがとう」

「何いってるのさ。ディアが居てくれたから、事前に戦争の事を知れたし、書状を持って行ってくれたからこそ、こうやって和平条約まで結べたんだよ。僕はただ手伝いをしただけだよ」


フォルクヴァルツまでフィア達を助けに来てくれなかったら、今頃フォルクヴァルツは戦場になっていたはずだ。


「そ、そうか。それはまあ、それでも、いいのだが、、、そのなんだ。アリアちゃんにはまた会えるのだろうか?」

「え?そうだなあ。僕じゃダメ?、、、だよね」

「いや!そんな事はないぞ?アリアちゃんで都合が悪いならあなたでも問題ないぞ!むしろその方が、、、いや!ほら!女神様と会うとか簡単には出来ないものな!」

「う、うん?まあ、またシュタールに遊びに行くよ。僕が行けばアリアにも会えるし」

「そうか!それは楽しみだな!待っているぞ!」

「うん、、、。あれ?何か忘れ物がまだあったような……なんだっけ」

「何かシュタールに置いてきたか?」

「ああ、いや、シュタールはほとんど通り過ぎただけだし、、、」


まあ、あとで思い出すかな。


ディアとは別れ、フォルクヴァルツへと帰る馬車に乗り込む。


「うーむ。無事終わったか。始めはどうなることかと思ったが、終わってみれば三国間で条約を結んで、安全保障の面でもこの南北の繋がりは大きな利益となったぞ」

「フォルトナーさんのお手柄ですね。一時的な損はでましたが、大きな目で見れば全体としては得になりましたよ」

「まあ、僕は殆ど何もしてないですけどね」

「何を言っとる!同行させた騎士団員から簡単な報告は聞いたぞ?また神の妨害があったそうじゃないか」


ああ、そうだった。

今度はベニトアイト神がちょっかい出してきたんだよ。

しかも、フォルクヴァルツ王国に攻められると困るって言ってたんだよな。

それはフォルクヴァルツを護りたいとかの意味じゃなくて、別の理由があって今のフォルクヴァルツは攻撃されたくないって感じだった。


スファレライトと何か関係あるのか、それとも、別の理由で動いていたのか。


「他にも聞きましたよ?国境の町やマルブランシュではアリアさんは聖女扱いらしいですね。いったい何をされてたのですか?お年寄りに大人気だったとか」

「あ、あれは、腰痛とか神経痛を治してただけで、別に聖女みたいなことはしてないんですけどね、、、。そういうとアリアが恥ずかしがるから面白がって言ってるだけなんですよ、きっと」


そうなんだよ。

やってる事は治療院と同じようなものなんだから、聖女とかノリで言ってるだけなんだよ。


「そう言えば高速馬車はどうされましたか?」

「え?、、、、あ!!馬車!マルブランシュに置きっ放しだった!取りに行かなきゃ!、、、あ、そうだ、それにアーデを迎えに行かなきゃ!」


そうだよ、それを忘れてたんだ。


「アーデさん?と言うのは?」

「マルブランシュで出会った、魔女なんです。魔女の最期の生き残りですね」

「魔女、、、ですか?歴史の教科書の話しでは無いのですか?本当に?」

「ええ。魔法で調べた結果ですので、間違いはないですね」


クラウゼンさんも知らない、、、というか、大人でさえ既に教科書レベルになっているんだな。

魔女自体がアールブの民と同じで長生きだもんね。


「アーデに必ず迎えに行くって約束したんで、僕はマルブランシュに行きますね!ここからだとどれくらいかかるかな、、、。馬車って余りは無いですよね」


どうしようかな。

走って行けるかな。

回復しながら猛ダッシュで行けば半日くらいで着くかな。


「待て待て。お前一人で行くつもりかよ」

「え?ダメですか?」

「ダメに決まってるだろう。もう、お前は国王候補なんだから」

「まだその話し続いてるんですか?どうせ次期国王はフリーデになるんでしょ?フリーデから注目を逸らすだけなら、別に僕じゃなくたっていいじゃ無いですか」

「お前、、、フリーデは国王にはさせん。クリスは、、、まあ、言わなくても分かるだろうが、大魔王には国王はさせん。リーンハルト、お前が唯一の国王候補だ。冗談でもないし、何かにお前を利用しようとかも無い!お前が国王に相応しいと俺も王宮も判断したんだ」


本気で言ってるの?

皆んなして、頭おかしくなっちゃった?


「クラウゼンさんも同じ意見ですか?」

「ええ。フォルトナーさんならフォルクヴァルツ王国を正しく導けると思いますよ。まだ、年齢的に達してませんので、今すぐという訳では有りませんが、然るべき時が来たら国王になってもらいたいですね」


これって、また何処かの神が洗脳してるのか?


「とにかく僕は国王になんかなりたく無いので、丁重にお断りします」


まあ、答えは決まってるよね。

国王の仕事なんてキツそうだし、やる気も起きない。

それに僕は国王とかになりたいわけじゃなくて、国王や英雄を助ける人になりたいんだよ。

それなのに、僕が国王になってどうするのさ。


「ダメだ!もう、決まってる事だ!お前に断る権利はない!」

「そんな横暴な!、、、分かりました。それなら、シュタール王国に亡命します」

「リーンハルト!そんな事は許さんぞ!そうだ!お前、王都に家族がいるらしいな。その者たちが一生遊んで暮らせるだけの金を用意しよう。な、それならいいだろう?」

「お金には困ってないので要りません」

「なら、何が欲しい!お、女か!そうか!それなら国民から募集すればいい!今のお前なら嫁に来たいという人はいくらでもいるぞ!」

「そっちも間に合ってますから要りません」

「お、お前、すごい奴だな、、、」


そうかな?

でも、これ以上欲しがるなんて贅沢な気がする。


「僕じゃなくても、僕よりも国王に相応しい人が見つかればいいんでしょ?」

「お前みたいな奴そうそういるかよ!実力も運も持ってる奴はなかなかいないから、お前にやれっていってるんだよ!」

「むう。絶対居るって、、、。まだ時間はあるんでしょう?それまでに国王を見つけてやる!」


フリーデだって元々候補なんだし、修行すればまだまだ国王としての資質が目覚めるかもしれない。

あとは、国王の器に相応しいアバターを手に入れて、適当な中身を入れておけばいいかもしれないな。

ただ、中身をどこから調達するかが問題か。

最悪、僕のサブアカウント二体目にして、たまにログインして「うむ」とか「大儀であった!」とか言ってればいいんじゃないのかな。

、、、それだと、クラウゼンさんの仕事が増えて倒れちゃうか。

むむ。何か僕が国王にならずにすむいい案が無いもんだろうか。


「とにかく、僕はアーデを迎えに行く約束があるから、行きますね!」

「お、おい、待て!こら!」

「うわわ!馬車がまだ走ってますよ!」


走行中の馬車からふわっと飛び降りる。


「出来るだけ早めに帰りますね〜」

「ダメだといっとろうに!お、おい誰か!あいつを連れ戻し、、、、もうあんな遠くに、、、誰かついて行って護衛するのだ!」

「は!我々が行きます!」

「ま、待って、置いてかないで下さいっす〜」


何か聞き覚えのある声が聞こえるけど、まあ気にせず西に向かって走る。

このまま、ずっと半日も走って行けば、日が暮れる前にはアーデの居る町に着くと思う。

もちろん体を回復しながら、走り続けるという方法にはなるけど。


「早いっす〜!英雄さまあ!」

「英雄様ー!お待ちをー!低硬度の英雄様ー!」


や、やめてよ!

変な呼び方を大声で叫ばないで!


ううっ。一人の方が早いから、引き離しちゃえば諦めるかと思ったけど、あれをずっと叫びながら追いかけられるのは嫌だな。


ちょっと待つか、、、。


「ああ、待っていただいて、すみません」

「良かった〜。置いてきぼりになったら、道わかんなかったっす、、、」

「いやいや、付いてこなくていいから、あっちの国王の方に戻ってよ」

「そ、そうはいきません!国王から護衛任務を任されております!英雄様をお守りして、しっかりと王国までお連れします!」


なんで、リンの方はこういう扱いなんだよ。

アリアの時はもっと仲良く話してくれたのに。


「ふう。もう、分かったよ。でも、付いてくるなら、その呼び方はやめて欲しいかな」

「で、ですが、勲章を一度に二つ授かり、ノルド戦でも他の部隊の何十倍もの敵を葬り去った実績をお持ちの方をあなた様は英雄様ですので!やはり英雄様とお呼びするのが適切かと!」


どっちも僕の実績じゃないよ、、、。

4人ともなんかキラキラした目で見てくるし、、、。

これ、本当の事話したいけど、ダメかな。

こういうイメージ崩したら、国王がすんごい起こりそうだよな。


「と、とにかく、僕の事は、えっと、フォルトナーでいいか。それかリンとかでいいよ」

「む、無理です!」

「そうっす!そんな呼び方したら、口がひん曲がってしまうっす!」


僕の名前は呪いかよ!


「せめて、英雄だけはやめて、、、」

「うう。仕方ないっすね。じゃあ、フォルトナー様で」

「カナリス!何故上から目線なんだよ!すみません!英雄様!」

「いや、カティのでいいよ、もう、、、。皆んなもそれで良いかな?」

「はい、英雄様!」

「分かってないでしょ!特にファルコさん!」

「す、すみません。フォルトナー様」


付いてくるのも、呼び方も諦めて、このまま5人でマルブランシュを目指す。

僕は走って、4人は馬だ。

それでも、僕の方が早そうだから、馬には疲労と骨折をしないようにした上で、スキルに「駿馬」と書いておいた。

これで、少し早めに走っても付いてこられるだろう。


「いけません!」

「何さ。まだあるの?」

「我々が騎馬でフォルトナー様だけ走るのなど、そんな恐れ多い事できません!」


面倒だな!もう!


「そうしないと今日中に着かないからこれでいいの!これ以上ワガママ言うなら置いて行っちゃうよ!」

「そ、それだけはご勘弁を!分かりました!我らは馬で付いてまいります!」


よし、何かまた言ってきたら、置いていくって言えば通りそうだな。



西へ西へと進む。

この辺りは街道らしい道も無いし、目印になる物も無い。

お日様の位置と、何となくの方角で西に進んでる。

でも、未だに村どころか道の一本も見えてこない。

人の気配も全く無い。

つまりは、、、。


「迷った、、、」

「は、はあ」

「ここどこだか分かる?」

「い、いえ。フォルトナー様がものすごい勢いで進まれるので、分かってらっしゃるのかとばかり思ってました、、、。す、すみません!我々もきちんと確認しながら進むべきでした!」

「いやいや、いいよ。適当に進んだ僕がいけないんだから」


しかし、これは困ったな。

地図、、、スキル?とか魔法みたいなのないかな。

友達を探すスキルなら地図が出るんだよな。

アーデを友達として登録出来てればこれで探せたのに。


まあ、そう言う地図が出るスキルがあるんだから、単独でも地図スキルもあるでしょう。

よし、久し振りにスキル作成スキルで作ってみようか。


「ちず」


あれ?クルクル何か回ってる。

これって、リンからアリアに水筒を送った時と同じだな。

時間が掛かってるのか?



圏外


検索できませんでした



何だこれ?

圏外って、何の?

見つからないんじゃなくて、検索出来なかったのか。

どうしようこれ。


「あの、フォルトナー様」

「ん?何?」

「あの遠くに見えるのって、村じゃないでしょうか」


んー?そう、かな?家らしき物が何件か集まって見える。

地図スキルも出来ないし、あそこに行ってみるか。

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