第百十七話 三国会議

「つまり、シュタール国王は皆んなに突っつかれて、戦いに出て来たけど、お前に叱られて、やっぱり仲直りするって考え直したんだな」

「まあ、その通りなんですけど、、、。こう、ふあっとした解釈ですね」

「私にも凄い分かりましたよ!さすが!国王様!説明上手!」

「どうせ、僕は説明下手ですよ、、、」

「まあまあ、それでフォルトナーさん。シュタール国王はデマルティーノ帝国で会談を望んでいるという訳ですね?」

「はい、クラウゼンさん。デマルティーノの議会が仲介国となって、会場の提供と交渉の段取りを請け負ってくれます」


まあ、全部僕がやれっていった事だけど、やる以上はそれぞれの国の人達が主導を取ってやって貰わないといけない。


「だが、シュタールは大軍を引き連れて来ているのだろう?そんな所にのこのこと現れたら、やられてしまうのに決まってるだろう?」

「そこは、僕があっちに話をつけてるんですから、信じてもらうしかないですね」

「お前を信じるのは出来るが、世間はそうは見ないだろうに」


ふうん。信じるんだ。

いやいや、別に嬉しくなんかないよ。


「だからこそ、こちらも大軍を率いて行くんですよ。それなら、お互い様だし、牽制しあって結果そうなったと取れるでしょう?」

「まあ、そうだが、、、」

「とにかく同じ席に付かない限り、戦争を回避するのは出来ないんです!あっちはもう、振り上げた拳の落とす先は無いと言ってくれてます。後はこっちが腹をくくる番かと」

「はあ、、、。ただでさえ、エルツ族の扱いやら、常識やらひっくり返して大変だというのに。これ、わざわざ負けに行くんだよな。戦う前から敗戦処理って事だよな」


そう言われると凄く損した気になるから、やめた方が良いと思うな、僕は。


「今までの過ちを正すチャンスですよ?これからずっとエルツと戦い続けるのと、ここで精算して、他国に顔を売るのとどっちが良いですか?デマルティーノ帝国はエルツに歩み寄る道を選んでますよ?」

「分かってるって!そんなのもう答えは出てるんだよ!ちょっといじけただけじゃないかよ!クラウゼン!何をしてるんだ!早く騎士団を全団、緊急招集だ!我が国は負けに出掛けるぞ!」

「はあ。全部は連れて行きませんよ。半数は国内に残さないと、ノルドからまた攻められてしまいますから」

「そんなの分かっとる!その為にも全団招集だ!」


はあ、やれやれ。

ようやく、参加者全員が揃うかな。





「シュタール国王、デマルティーノ議会議長さん。フォルクヴァルツは和平に応じると言ってきました。これから、軍を率いて、こちらに向かってくるそうです」

「おお!そうか。流石、アリア殿の配下の者だ。この状況でこうも早く説得するとはな」

「では、先にこちらで、仲介に関しての取り決めを決めてしまいましょう。奥の会議室で実務者レベルでまずは話し合いましょう。国王様はあちらで、ご休憩頂きます」

「う、うむ。そうだな。しかし、変わり身が早いな。先ほどまで、共に攻めようと言っておったではないか」

「まあ、そうでなければ、国を動かせはしないですよ。お互い、そうでしょう?」

「まあ、違いないな」


うわっはっは、と愉快そうに笑いながら、奥の貴賓室に行ってしまった。


「アリアちゃん。大変そうだな」

「そう思うなら、変わってよ?ディアにもこの苦労を味あわせてあげたい、、、」

「え、遠慮しておく」




そうは言っても、すぐに数万の軍勢が移動できるわけではない。

軍を引き連れて行くこと自体はただのパフォーマンスでしかないのだから、実際に全軍が一斉に移動する必要もない。

つまりは、出陣の準備だけをして、段階的に動かすという体にして、実の所、いくつかの部隊を連れて国王を含めた少数が高速馬車でデマルティーノを目指すのだ。

ただそれでも全く動かさない訳にはいかないから、いくつかの部隊は実際に南に向けて移動させることになるだろう。


そして、当然のように僕はその少数に数えられていた。

国王にクラウゼンさん、後はレリアのお父様を含めたノインの冠が7人付いてくる。

9人いる筈のノインの冠だけど、7人にしかいないのは、だいぶ前に2人が亡くなっていて、新たなノインになる者が出てきていないらしい。

それだけ、ノインの冠になるには厳しい基準が設けられているのだろう。


高速馬車の周りはリヴォニア騎士団の第1部隊と第2部隊が護衛として固めていた。

ツィスカさんやエデルさん、ヴォーさんとかも居た。

久し振りだし、挨拶でもしようかと馬車から手を振ったけど、国王の護衛という事で、ふざけてる場合じゃないらしい。

真剣な顔であたりを警戒しながら、馬を走らせていた。

ちょっと寂しいな。

お?レリアも第2部隊としているようだ。

チラッとこっちを見たら、顔を赤くしてプイッと反対を向いてしまった。

何だ?怒ってるのか?


「これなら、半日もあれば、デマルティーノに着きますよ。あ、例の馬を長持ちさせる魔法はお願いできますか?もう、あれありきでの到着時間の計算をしてしまってますので」

「ああ、はい。分かりました」

「ん?何だ?何かリーンハルトがまたおかしな事をしたのか?」

「おかしなって、、、。馬を疲れさせずに高速移動できる魔法を使うんですよ。フォルトナーさんのお陰でこの速度でも馬を潰さずに済むので助かってます」

「そんな事をしていたのか。それ、俺にも掛けてくれないか?最近疲れて仕方ないんだよ」

「ま、まあ、良いですけど。それやったら余計に働く量を増やしちゃいそうですね、、、」


余裕が出来ればその分だけ、量を増やしちゃうんだよ、こういうタイプの人は。





「もうそろそろ、ここに着きます。この建物が見えてきました」

「本当にリアルタイムでわかるんですねぇ。その通信魔法は人族にも利用できないものなのでしょうか。もし非公開なのでなければ、配布先をお教えいただけないでしょうか」

「配布先?あ、いえ、これは、その、非公開なので!お教えできないですね」

「そうですか、、、。それは残念です」


デマルティーノの人達は金儲けの匂いが少しでもすると、目の色が変わったように、食い付いてくるよな。

うっかり、変な事を口走らないように気をつけないと。


それに、魔法って何処かで配布しているものなのか?

そこで、貰えば使えるようになる?

そんな仕組み知らないよ?

デマルティーノだけのやり方なんだろうか。


フォルクヴァルツ一行が到着して、国王達が案内されてくる。

当然、国王の身の安全の為にノインの冠が周りを護りながら建物の中を案内される。

僕も何故かその護衛対象らしく、国王とクラウゼンさんと僕の3人が騎士達に囲まれて、まとまって移動していた。


「僕は後ろから付いていきますよ。一人だけ子供がいたら護りづらいんじゃないですか?」

「何言ってるんだ、お前は?お前の為にノインを全員連れてきたんだぞ?俺とクラウゼンだけなら半分で済む」


どういう事?

僕の為にわざわざノインの冠を全員呼び出したの?

僕の事は政治利用にしか考えてないんじゃないの。

あ、そうか、だから世間的にもちゃんと護ってるって見せないといけないのか。


ここに連れてきたのも、次期国王だと見せるつもりなんだろうか。

いや、そもそも、僕を国王にするって言うのも怪しいよな。

王族でもないこんな子供を次期国王に、なんて馬鹿げている。

何かから注目を逸らす為に僕を担ぎ出しているんだよ、きっと。

一般庶民の子供が次期国王候補、とか目立つからね。


「おい、どうした?お前がここで上手くやってくれないと、我が国は窮地に陥るのだぞ?気合いを入れてくれ」

「いやいや。それは国王の仕事でしょう?」

「次期国王なんだし、ここまでの手引きもお前がして来ているんだろう?うちの損が出来るだけ出ないように頼むぞ」


まったく、責任押し付けないでよね。

ああ、もう。さっきあっちで褒めたの返して欲しいよ。



フォルクヴァルツ一行が通されたのは、真っ白い壁の比較的シンプルな部屋だった。

扉は4つあり、窓はない。

部屋の真ん中には小さめの円卓が置いてあって、椅子は4脚だけ用意されていた。


その内の2つは既に埋まっていた。

入って右側にはデマルティーノ帝国、ベルナルディーノ・アジオーリ帝国議会議長。

正面にはシュタール王国、ゴルト=ツィン=シュタール=ヘルグリューン国王。

そこに、今入って来た、フォルクヴァルツ王国、フリードリヒ・アルベルト・フォン・フォルクヴァルツ国王が席に着く。


国王そんな名前だったんだ。


それぞれの長の後ろには、ナンバー2の者が付く。

護衛はこの部屋には入れず、扉の外で待機させられている。


そして、僕は「2人とも」この部屋にいる。

僕は何を言ってるんだろう。

でも、実際に僕は2人ともここに居てお互い見つめ合っている。

自分同士で見つめ合ってどうする。

いや、久し振りにお互いを見る距離にいるから、切り替えると感覚がおかしくなるんだよ。

同じ部屋なのに意識を切り替えるたびに、見える景色が微妙に違うから、ちょっと酔ってしまう。


リンは国王にここに居ろと言われたからアリアの方が外に出ていようかな。


「アリア様はそちらの席にお付きくださいますか?見届け人として立ち会っていただきたいのです」

「おお、それはいい案だ。アリア殿、お願い出来るだろうか?」

「え?えーっと」

「ふむ?アリアは我が国の御使いだが。何故、そちらの方々からそのような申し出がでるのか?」


フォルクヴァルツ国王も変に話しに入ってこないでよ。


(ちょっと、国王!アリアの事は放っておいて!)

(何だよ。あれ、お前なんだろう?なんで、あっちに付いてるんだよ!)

(別にあっちに付いてる訳じゃないですよ!)

(なら、こっちに来れば良かろう)

(そうは行かないんですよ!)


「ど、どうされました?」

「ああ!んんっ!わたくし、アリアージュ・ミヌレは見届け人として、ここに座らせていただきます。わたくしはあくまでも中立の立場をとらせていただきますね。ちゅーりつです!」

「え、ええ。確かに女神様には中立の立場をとっていただくのが一番かと」


(おい!リーンハルト!女神って何だよ!アリアは天使なんじゃないのか!)

(色々あって今は女神って事になってるんです!)

(お前、、、。詐称は犯罪だぞ?)

(仕方なかったんです!)


「フォルクヴァルツ国王?始めてもよろしいですかな?」

「んお?おお、始めて貰って構わない」


こうして、フォルクヴァルツ、シュタール、デマルティーノによる和平交渉が始まった。

これは後に三国会議と呼ばれ、社会の教科書にも載るようになるのだけど、それはもう少し先の話。


会議は比較的スムーズに進行していた。

元々、フォルクヴァルツ側から渡されていた謝罪と賠償が書かれた書状があるし、シュタールとデマルティーノとで実務者同士での打ち合わせにもアリアとリンが中継をして、クラウゼンさんとも話し合いは付いていた。


こう言った、首脳会議の場合、話し合いが始まった時には既に殆どの内容が決まっているのだそうだ。

後は、首脳同士で大まかな方針の話しをするだけになる。


「いやしかし、フォルクヴァルツの方々がこれ程までエルツに理解を示してくれるとは、思いもよらなかったですな」

「まあ、これまでの誤解が酷かったものですからな。どうやら神の企みが絡んでいるとか」

「我がデマルティーノでも、一部の狂信的な信者がエルツ族に対して、過激な発言を繰り返しているようで。未だにその企みが動いているのでしょうな」


だいぶ話しも済んだし、これで何とか和平成立かな。


「神と言えば、こちらのアリア殿は今回の和平には、女神ながらに尽力していただいた。あなた無しではこの結末はなかったであろうな。感謝する」

「あ、いえ。そんな。私はきっかけになっただけです」

「いやいや、アリア様のお陰で我らデマルティーノも戦わずして、利を得られましたから、もう足を向けて寝られませんな!わははは」


別に面白くないよ、、、。

あれ?フォルクヴァルツ国王が不機嫌だな。

何だよ。

自分の彼女が男友達と話してるのを嫉妬してるんじゃないんだから、、、。

あ、いや、その例えはやめればよかった、、、。


「そこで、アリア殿!あなたにお願いがある!」

「お願い、、、ですか?」

「うむ。アリア殿には我がシュタール王国の主神となっていただけないだろうか!」

「はあ?何を、、、」


もう!ダメだって!誰がどこで聞き耳立ててるか分からないんだって!

主神とかあり得ないよ!


「おお、それは素晴らしい!デマルティーノの主神の1柱にもなっていただきたいくらいだ」


そっちも何いっちゃってるのさ!

軽い冗談のつもりだろうけど、僕は女神でも何でもないんだから、、、、。

自分のせいなのは分かってるけど、もうやめてください、、、。


「そのアリアは我がフォルクヴァルツ王国の主神である!横取りはしないでいただきたい!」


ちょっと!フォルクヴァルツ国王も参戦しないでよ!

っていうか、この人、本気で言ってないか?

中身が僕だって分かってる筈だよね?

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