第百十六話 交渉人

「シュタール王、それに、デマルティーノの議会の人。私の話しを聞いていただけますか?」

「うむ。セラ、、、アリア殿。聞こうではないか」

「なんでございましょうか。女神様」

「女神はやめて。アリアです!」

「ああ、これはこれは、申し訳ありません、アリア様」


まったく、誰が聞いてるか分からないんだから、やめてよね。

まあ、自分で女神だ!とか嘘ついて、皆んなを従わせようとか浅い考えをしてた僕の自業自得なんだけどさ。


「シュタール王はフォルクヴァルツがエルツにしてきた仕打ちを反省させる為に、戦いを仕掛けようとしてるんでしょう?」

「う、うむ。反省させる、、、といえばそうなるな。多少、子供の躾の話しのようにも聞こえるが、意味合いはあっておる」

「フォルクヴァルツはもう、そのエルツへの扱いを反省して、悔い改めて、謝罪と賠償もするって言ってるんです!だから、もうこれ以上、争い事を起こして無駄に血を流さなくてもいいんです!」

「それは、分かっておるのだ。フォルクヴァルツが変わろうとしている事も、そのやり方もディーの持ち帰った書状に全て書いてあった」

「それなのに、まだ、攻めるとか言ってるんですか?」

「前にも言ったが、私一人の考えで動いているわけではないのだ。そう簡単に変えられるものではない」


やっぱりそう言う話しになっちゃうのか。


「それって、七賢者って言う人達のことですよね。その人達を全員を納得させれば、解決って事で良いんですよね。それなら、頑張って説得しましょうよ。今だってここにお二人居るんだし、外には将軍さんだって居るんだから、多数決で方針変えられますよ?」

「いや、アリア殿。七賢者ももちろん国を動かしている者達だが、今回の事はそう言った話しではないのだ。国民皆が思う感情なのだよ。説得するならシュタール王国民全てとなるのだ」


そんな。

全員って無理じゃないか。

それに、国王の言っていることは、間違いがある。


「国王。あなたは逃げているだけです。国民感情だとか、皆んなの気持ちなんだ、とか言って、自分がそれを覆すのが怖いんですよ!それを否定しようとして、自分が国民から恨まれるのが怖いんだ!」

「何を勝手なことを。私にも責任があるのだ。国民の気持ちを受け止めて、それを国の総意として国を動かしていく責任がある!それを考えずして、これまでの方針を変えるなどできぬのだ!」

「だから、そこが土台から間違ってるんですって!一国の王なら、間違いをきちんと正して、国民を導いてあげるのが責任なんじゃないのですか?間違った感情を、国民の声だからって何でもホイホイ従ってたら、それは、国の長じゃなくて、ただの操り人形です!」


国民の声を聞くのは大事だよ。

でも、全てをそのまま受け入れるのが、王の役割じゃないよ。


「それでは、独裁になってしまうではないか。過去にもそうやって失敗した国はたくさんある」

「違います。国民の声は聞くんです。でも、正しい方向に導いてあげるのも必要なんです!フォルクヴァルツ国王は普段、国民の声をよく聞いていて、大した事じゃ無いのに一生懸命解決しようとしている。だって、隣の家がいつもうるさいとか、言ってくるんですよ?そんなの国王に言う事じゃないって言うのに!」

「そ、そうだな。フォルクヴァルツ人はそんな話しを国王にしているのか、、、」

「でも、国王はすぐに動いて、解決しちゃうんです。翌日には家と家の間に壁を作ったり、夜間の騒音は控えるように御触れを出したりします」

「いや、そんな事をしていたら、キリがないだろう」

「ええ。だから、いつもいっぱいいっぱいになって、王宮は大変になってます。でも、それが、国民の為だからって、皆んな頑張ってるんです。だけど、全部が全部叶えているわけじゃなくて、間違っていることはちゃんと正しているんです」


ああ、こんなにフォルクヴァルツ国王の事を褒める日が来るとはな。


「それに、今回のエルツ族の考え方もそう。間違った認識に気付いたら、すぐに考えを改めて、対策を講じて、謝罪も賠償もすると言っています。国王自らの過ちも素直に認めて、ごめんなさいしてるんです!そして、国民全員に対しても、その間違いを正そうとしています!」

「国の長がそう簡単に間違いを認めるわけにはいかないのだ!他国にも舐められてしまうし、示しがつかない」

「簡単なわけないです!そんな訳ないでしょう!でも、間違ったまま、何もしないで見ないフリをするより、今恥をかいてでも、国の将来の為に自分は汚名を被れるのが、本当の長でしょう?」


むむ、とシュタール国王は唸って少しだけ黙ってしまった。


「………ふむ。だが、現実問題として、ここまで動いてしまっているのだ。後戻り出来ないところまで来ているのに、引き返す事など出来ない」

「何言ってるんですか!まだ、これからですよ!シュタール王国はフォルクヴァルツ王国と戦いに来たわけじゃない!和平を結びに来たんです!」

「ア、アリア様?口を挟んで申し訳ありませんが、大軍をここまで動かしておいて、和平交渉とは行きますまい。当事者同士が良くても世間がそうは見ないかと」

「だから、フォルクヴァルツも同じだけ、軍を引き連れて来れば良いんですよ」


皆んな、はあ?と一斉に声を上げる。

え?何?練習でもしてたの?


「お互い、自国の最大戦力を出し合って、それで、話し合いです!和平交渉です!別におかしくないでしょう?信頼し合った同士でも無いんだし。決裂したらその場で戦争始めれば良いんだし」

「わああ、ちょっとお待ちを。その交渉の場というは、もしや」

「丁度いいからここでしましょう?」

「待ってください。それだと、交渉決裂してしまえば、この国が戦場になるではないですか!」

「決裂したら、でしょう?だったら決裂しないように頑張ってね?」

「い、いや、おかしいでしょう?デマルティーノは無関係ではないですか!それなのに、何故我々が決裂しないように頑張らないといけないのですか!」


あれ?分かってないのかな?

無関係とか言ってるけど。


「デマルティーノ帝国は当事者ですよ?さっき、シュタールが勝ったらフォルクヴァルツの領土と民を貰うって約束してたじゃないですか。がっつり、シュタールの仲間ですよ?」

「い、いや、あれは、、、くっ。シュタール王!こんな戯言間に受けてはいけませぬ。このまま、我が軍と共にフォルクヴァルツへと攻め入れば、勝てるのは目に見えているのです。そこをわざわざ和平などする必要はありません!」

「申し訳ないが、私は腹を括ったよ。我が国民の為に私は泥を被る事に決めた。国民全てが戦争だと言ってきても、私は正しいと思う方を選ぶ。結果として、我が国、我が国民の利になる事を選ぼうと思う」

「し、しかし、、、それでは、我が国に危険が、、、それに、これのどこにも我が国にメリットが無いではないですか!」

「ですから!デマルティーノ帝国も当事者なんですって!二つの国の間を取り持つんだし、場所も提供するのだから、手数料くらい取れるでしょ?しかも、どっちの国からも」

「ほ、ほう。仲介という立場をとるわけですな」

「後はどれだけ出させるかはあなた達の腕次第ですよ。それなら、場所を提供して、仲を取り持つだけで、金銭的な利益も得られるし、何より国同士の争いを解決したって言う実績が世界中に認められます」


な、なるほど、、、と、議会の人達は端に寄ってコソコソと話し合いをし始めてしまった。

でも、これで、こっちも何とかなりそうな気がしてきた。


「し、しかし、アリア殿。我々やデマルティーノ帝国の方々は良くても、フォルクヴァルツ王国はいかがなものだろうか。いくら、こちらから、和平交渉だと言っても、既に進軍はしてしまっているし、宣戦布告は先んじて出してしまっている。これでは、我らの言うことを信じてもらえるかどうか、、、」

「そこは、、、まあ、ボクが何とかします。フォルクヴァルツに、、、えっと、ボクの分身、、、じゃなくて、、、そう!天使が居るので、通信魔法で連絡を取ってあちらにも手回ししておきます」


色々と話がややこしくなってきた。

アリアの方が天使なのに。

結局、女神とか変なこと言ったのがいけなかったな。


「し、しかし、今は世界規模での通信障害が発生していて、通信魔法は使えないのではないのでしょうか。先程もまだ復旧していないと連絡がありましたが、、、」


あれ?僕達だけじゃなくて世界中で起きている事なのか。


「ああ、そのようですね。ですが、ご安心を。私と我が天使との通信は専用回線を使用していて、障害には無関係になります。今も、あちらの様子はリアルタイムで把握できていますので、大丈夫です」

「なんと、リアルタイムでの通信ですか!流石、神の行使される奇跡は違いますな。我が国でも、数十人の魔導師がマナを集めて行う大規模通信魔法でも、数秒のタイムラグがありますのに」


あれ?そうなんだ。まあチャットとかも、多少遅れがあるけどね。

それに、アリアとリンの間は通信なんじゃなくて、中身が一緒っていうだけなんだよな。


これでも、通信っていうんだろうか。






さあて、あとはフォルクヴァルツの方だな。

ちょっと急ごうか。


「先生!体調が悪いので早退します!」

「何?そんな元気な病人がいるか!待て!早退は許さんぞ!」

「ええ、、、。フリーデ、クリス!二人も気分悪いよね!なんかこう一緒に風邪ひいた?みたいな!」

「え、ええ!そうですわ!わたくし達調子悪いんですの!」

「大魔王は風邪なんぞひかん!」

「ク、クリスはアホな事言うくらい意識が朦朧としてるんです!」

「あ!リーンハルトくん、私も!私も!病気!」


ちょっと無理があるよな。

どうやって、学校を抜け出そうか。

フリーデとクリスにも来てもらいたいし、こんな事なら先に根回ししておけば良かったよ。


「ああ、分かった分かった。両殿下を王宮にお連れする必要が出てきたのだろう?それなら、最初からそう言えばいいものを、、、。こうなる時がいつか来るからと、クラウゼン宰相殿から聞いているから、問題ないぞ」


あ、そうなんだ。

流石クラウゼンさん。

でも、そういう事は先に言っておいてよね。

僕はこういう時の誤魔化し方って下手なんだから。



王宮の謁見の間にフリーデとクリス、リーカも一緒に来ていた。


「リーカは別に来なくても良かったんだよ?」

「ああ!ヒドイ!私にあんな事させたのに!嫌がる私に無理やりさせたのにい!」

「ちょっとリーンハルト?あなたこの子に何させてるのよ」

「いやフリーデ、誤解だよ!リーカも紛らわしい良い方しないでよ!僕が魔法を使っている間に回復してもらっただけじゃないのさ」

「誤解でも紛らわしくもないです!すぐ終わるからって言ったのに!私が泣きながらやめてって言ったのに全然やめてくれなかったじゃないですか!」

「我が友よ、、、。それは、鬼畜と言うものだ。流石の大魔王も引いたぞ」


誤解だって!

あ、リーカがぺろっと舌を出してる!

わざとやったな!

くぅ、後で仕返ししてやる。


「なあ、そろそろ本題に入ってくれないか?急ぎの謁見だと言うから、会議を中止して来たんだぞ?」

「ああ、すみません!国王!今、あっちの方での動きとか、意向を伝えに来ました」

「ああ!とうとう動いたか!」


あ、そうか、シュタール軍が攻めに来ている事も伝えてなかったっけ。

その辺の諜報活動とかしてないのかよ。

隣の国にまで来てるんだし、あんな大軍の動向くらい掴めないものかね。


「シュタール王国はほぼ全軍を出して来ました。そして、その軍勢は今、デマルティーノ帝国に入っています」

「な、なんと!もう攻めて来ているではないか!何故その事を報告しなかった!何か動きがあれば、必ず報告しろと言っただろうに!」

「さっき帝国に入ったんですよ。それに、一時的にデマルティーノ軍と揉めたと言うのもありましたし」

「おお?そこで、潰しあってくれれば、軍力も弱まるな。帝国に入ったのだから、シュタールが勝ったんだろうが、多少は弱まったか?」


あれえ?さっきこの人の事、褒め称えたような気がするけど、別人だったかな。

ちょっと今のこの人を褒める気が起きないな。


「僕が戦闘を回避させましたよ。双方とも無傷です」

「何をやってるのだ!お前が助けてどうする!むしろその場に居るのなら、戦闘のドサクサに紛れて、シュタール王の首でも取ってこい!」


あれあれえ?

こんな人だったっけ?

あっちの人達に合わせたくなくなっちゃったなあ。


ううう、、、。それでも、この人を連れて和平まで導かなければいけないんだよ。

やる気が一気に無くなったなあ。

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