第八十三話 代行天使業

つらい闘いは終わった。

本当につらい。

だって、僕の周りには焦げたおじさんズが大量にピクピクしているのだから。

こんな結末になるとは、、、。


あ、そう言えば第一から第四までは翼の力が何なのか分かったけど、第五と第六は分からないままだったな。

どうせならサンドバルで試せば良かったよ。

でも、流石にこのピクピクサンドバルで試すのは気がひけるよなあ。


それに、この翼はどうやって収納すればいいんだ?

もしかして、この先ずっと出っ放し?

すごい邪魔なんですけど。

カフェとかで席に座ったら、隣の席の紅茶に第五と第六の翼が浸かっちゃうんですけど。


ふんっ!ふんんんんっ!

ダメかあ。

背中に力を入れてみても、多少、ふぁさと動くけど、畳んだり縮めたりとかは到底無理っぽい。


さて、どうしようかな。

これだと、アニエス達の所に帰れないぞ。


「アリアー!アリアー!」

「、、、、アリア」

「だ、大丈夫なのか?コイツら」

「う、うう、怖い」

「ふっ、俺様にかかればこんな物だ」


ありゃりゃ、皆んな来ちゃったよ。


「もー、皆んな来ないでって言ったのに!」

「そんな訳いかないでしょ!心配で仕方なかったんだから!」

「皆んなで固まって、あの建物の陰でずっと見てたの。アニエスとエステルが心配でずっと泣きそうになってたのよ?」


そ、そうだったんだ。

あれ?エステルも?


「でも、勝てて良かった〜。アリアが急にお腹から血を出して倒れた時はどうなることかと思ったわよ!」

「翼が現れて、、、、治ったから、、、、驚いた」


うんうん、と皆んな頷く。


「それって本物の翼なの?」

「え?そ、そうかな?どうだろう。触ってみる?」

「い、いいの?」

「おおおお、、、いい、、、これは、すばらしい」

「とっても柔らかいし、感触が気持ちいいわね」


ちょっとくすぐったい。

あ、触られた感触があるんだ。


「お、俺もいいかな?」

「ぜ、是非!その羽毛に顔をうずめさせてくれ!」

「ダメに決まってるでしょ!」


ありがとう、アニエス、代わりに止めてくれて。

気持ち悪過ぎて、答えを返す気にもならなかったよ。


おじさん達の死屍累々たる山、、、、まあ死んでないんだけど、この光景はもう見ていたくないから、広場の方に戻ってきた。


屋台は臨時休業したらしい。

良かったのかな。


「その翼ってしまえないの?」

「うん、どうしよう、邪魔だよね」

「天使の翼を邪魔って」

「え?」

「え?」

「、、、なんで、天使って分かるの?」

「白い翼っていったら、天使か神様しかいないじゃない」

「6枚の翼は熾天使セラフの証しだな!」


エリックすら知っている事なのか。

僕は真実の書が無いと本当に物事を知らないな。


「でも、その天使の翼をどうやって出してるの?魔法で擬似的に出してるとか?」

「う、うん。魔法は魔法なんだけど、これは本物の天使の翼、、、、かな」


皆んな固まる。

うう、やっぱり内緒にしておけば良かったかな。


「そ、そ、そうすると、、、アリアって、本物の、て、天使様!?」

「ふおぉ、、、、マジ天使?、、、」

「いやまさか、、、そう、なのか?」

「俺は分かってたさ!だって、もう見た目が天使そのものじゃないかっ!」

「本当なの?」


うわあ、どうしようかな。

アバターはそうでも、中身は違うんだよな。

正直に言うのもややこしいし。


「えっと、半分だけ?とか」

「え、どう言う事よ?」

「その、つまり、、、代行!そう!頼まれて、天使のお仕事を代行してるんだ!ほら、ステータスにも書いてあるし」


ステータスを皆んなに見せる。


「い、いいの?見せちゃって。あ、人族、、、そうよね。人族よね。ああ、良かった。天人族とかだったら、びっくりだったわよ」

「本当ね、職業が天使になってるわ」

「おお、、、13歳、、、お姉様だった」


エステルの反応は、、、まあいいとして、他の皆んなはこれで、分かってくれたかな。

むしろ、職業欄に天使と書いてあって、種族が人族なのが良かったかも。


「いやいや、これ、おかしいよ!」

「うむ、おかしすぎる!」


え?やっぱりダメ?

男子2人には見抜かれた?!


「生命力の最大が3千に、マナが8Tだなんて、桁が違いすぎる!こんなの、勇者以上じゃないか!」

「天使が職業だと!金儲けのために天使をやっているなんて、俺の天使が金の亡者とでもいいうのか!ん?はっ!そうか!逆に言えば金さえあれば、この目の前の天使が俺の言うがままに、、、」


んんんん、、、。

クロードの意見はごもっともだ。

そこを隠し忘れた僕がいけない。

エリックは、、、。

皆んなのスルースキルが高くなるのも分かる気がする。


「クロード、その、この事は秘密にして欲しい、、、な」


ずぎゅうううん


な、なんだ?何か今変な音がしなかった?


「あ、ああ、俺はお前の為になら、どんな事だって秘密にするぜ」

「あ、うん、ありがと」


ま、まあ、誰かに言いふらすような人じゃないのは分かってるけど。


「ねぇねぇ、天使の仕事って何するの?」

「え?、、、そ、そうだね。天に召したり?」

「ええ!?殺しちゃうの?」

「違った!あ、さっきのみたいな、天罰とか?あとは、そう回復?とかかな」


かなり適当だけど、さっきのセラフの翼の能力ならこれでもそう外れてはいないだろう。


「ああ、あれは凄かったわよね!雷の棒がズドンって刺さって、あれが天罰?」

「う、うん、棒じゃなくて、槍だと思うけど」

「あ、槍か、、、恥ずかしい」


僕も同じ間違いをしてました。

恥ずかしい。


「おお、天の御使い様!この町にもご降臨されたか!」

「ありがたやー、ありがたやー」

「ああ!なんてお美しい御姿、、、。神々しい、、、」


おわっ、町の人々が集まってきてしまった。

こんな、派手な翼を広げていればこうなるか。


「あ、あの、これは、その」

「天使様!私の娘を助けてください!お医者様にも匙を投げられてしまって、もう助からないと言われているんです!どうか、どうか、ご慈悲を!」


ええええ?!

そんな事言われても、、、。

あ、さっきの翼で何とかなるかな。


「あの、娘さんはご病気なのですか?」

「はい、、、何が悪いのかも分からず、日に日に痩せていって、今では目を開ける事もなくなってしまいました」


うう、どうしよう。

ここで何とかしてしまったら、大きな話になってしまいそうだな。

でも、この人は困っているみたいだし、その子も助けてあげたい。

そして、その力が、僕にはあるかもしれない。

なら、行くしかないよ。

まあ、悩む前に結論は決まっていたんだよね。


「娘さんの所に案内をお願いできますか?」

「ああ!!ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」


あ、いや、まだ何もしてないだけどな。



女性に案内されて、病気だという娘さんが寝ている部屋に入る。

アニエス達も一緒だ。

この女性の家の周りには何故か大勢の人達が集まっている。

僕が歩くと目立つから皆んな興味津々で付いてきたのだろうか。


「この子です。どうでしょうか」

「はい。少し見ますね」


見てもさっぱり分からんのだけど、一応ね。

ああ、この子はもう命の力が少ないのが一目で分かる。

顔は痩せこけて、青白く、息遣いもか細い。

一秒一秒、命の火が小さくなっている。

急がないと。


「セラフの第三の翼!」


さっきはぼくが対象になっていたけど、今度は自分以外を対象にしないといけない。

どうすれば、回復対象が変わるんだろうか。



『セラフの第三の翼を行使します。第一対象の損傷はありませんでした。第二対象、候補、ジョゼ・ドロール、以上、1名』



これがこの子か?


「対象!ジョゼ・ドロール!」

「え?この子の名前?なんで?」


あ、そう言えば聞いてないか。



『損傷回復完了しました。警告。病原体が残存するため、根本治療を推奨します』



あれ?治ったの?治ってないの?

この翼だけじゃダメって事なのかな?

じゃあ、もう一つの方だ。


「セラフの第二の翼、対象、ジョゼ・ドロール!」



『セラフの第二の翼を行使します。対象、ジョゼ・ドロール。対象の生命力を全回復しました。対象の病原体を排除しました』



これで、治ったんだろうか。

顔色はだいぶ良くなったような気もする。


「あ、あの、御使い様。娘は、娘はどうなりましたか」

「ええ、病気の源は排除出来たと思います。体力も回復しました。しばらくは様子を見てください。何かあれば普段はあの広場にいますので声をかけてくださいね」

「ああ!ああ!ありがとうございます!天使様!」


ああ、いや、まだ分かんないよ?

困ったな。


おおおおお!!


なんだ?!

外が大騒ぎになっている。


「今の話を聞いて盛り上がっているみたいね」

「これじゃあ、奇跡だものね」


いやいやスキルや魔法だって似たようなものじゃないか。

スキル作成スキルの作成候補に病気回復とか欠損回復とかあったよ?

それを持っている人と同じじゃないか。

あ、もしかして、そういう人あまり居ないのかな。


ジョゼちゃんのお家を出ると、大勢の人に囲まれて、ウチにも来てくれ!私の怪我を治してくれ、とせがまれる。


やっぱりこうなったか。

僕の翼珍しさじゃなかったね。

皆んな何かしらの病気とか怪我に悩まされているんだ。


でも、こんな一度になんて治せない。


「皆さん、この中で本当にお困りの方、命の危険に晒されている方が先でお願いします」

「私よ!私本当に困っているのよ!」

「いや俺はずっと悩まされてるんだ!俺を先に診てくれ!」


ダメか。

困っているのは分かるんだけど、一番困っている人に手が届かないのは嫌だな。

ジョゼちゃんみたいな人がいるんなら、見つけ出してあげたい。

あ、そうだ。


「セラフの第一の翼。皆さん嘘はつかず、本当の事を話してください。命に関わる怪我や病気の方だけ、先にお申し出てください」

「私よ!危険なのよ!」

「俺だって!死にそうなんだよ」

「息子が起きてこないんです!働かないんです!」


最後のは違うんじゃないのか?


『第一の翼が対象の嘘を感知しました。・・・・』


これで少なくとも、嘘を言っている人は区別できる。

本当の事を言っている人の中から、危険そうな人を見つけていこう。



どれくらい時間が経っただろう。

どれくらいの人を治療、回復しただろう。

どれくらいの人から感謝されただろう。

もう途中から記憶が飛んでいる。


診断とかもいらないんだから、病人の人の所に行ったら、第二か第三かどちらか、または両方の翼を羽ばたかせて、すぐ次に移動する。

術前は症状の話とか本当に治るのかとか色々言われて、それでも聞いても仕方ないから、ボーッとしながら聞いたフリをする。

術後は術後で、感謝されつつ移動し、お金を渡そうとしてくるのを歩きながら断り、次の番の人に案内される。


それを何十人と繰り返した。

途中なんか、痔が治らないとかで、おじいさんのお尻に手を当てて治したり。

働きたくないんすよ、とかいう人生相談をしてくる若者に第四の翼を最小の力で出して、ビリビリで喝を入れたり。


まあ、大変か大変じゃないかで言ったら、そこそこ大変だった。


「終わった〜」

「お疲れ。天使も大変ね」

「代行ってこれじゃあ、割に合わないわね」

「ブラックな、、、天使代行業、、、黒天使、、、カッコいいかも」


今は終わったけど、この翼を出したままだと、また、他に人が集まってくるかもしれない。

早くなんとかしないと。


「うう、しまいかたが分かんないよう」

「自分の翼なんじゃないの?」

「そうなんだけど、あまり思い通りに動かせないんだよ」

「このままじゃあ困るわね。お風呂とか、寝る時とか」


そうだよ。このまま寝たら邪魔で仕方ないよ。


「、、、、ステータスは?、、、、」

「え?」

「、、、ステータス、見た?」

「見て、ないけど、、、、あ!そうか、そこに何かあるかもしれないんだ。ステータスウィンドウ!」


ずっと窓無しだったから、ステータスウィンドウの存在を忘れてしまいがちになってしまう。



魔法 [鍵]

一部ロックされています

常時解放 セラフの翼 展開中 [閉じる]



ああ、あったあった。

思いっきり閉じるボタンがあったよ、、、。

閉じるを押すと、背中にあった6枚の翼はしゃわーんと音がして、粉々に分解されてしまった。

閉じるんじゃないのかよ!


「あ、しまえたの?」

「うん。何とかね。もっと早くこの事に気付いてれば良かったよ、、、」

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