第八十二話 6枚の翼

翌日からは、あのマルレロ組とかいう連中は来なくなった。

客足も最初こそ少なくなってしまっていたけど、だんだん回復してきて、数日後には前以上の行列が出来るようになった。

でも、これで終わりという気は全くしない。

ああいう連中は変にプライドがあったり、ヤケに外聞を気にする。

僕達子供に舐められて終わったら、組の名前に傷が付くとかなんとか言って、今度は人数を増やして来たりするんだ。

その方が名前にキズが付くってものなのに分かってない。


「おう、嬢ちゃん、また来てやったぞ」


ほらね。そろそろ来るんじゃないかなって思ってたよ。


「ここじゃあ一般の人に迷惑がかかるから、あっちに行くよ」

「お、おおう、上等じゃねえか、迷惑は掛けちゃあいけねえな。オラッ!てめえら行くぞ!」


お、素直に僕の言うこと聞くじゃないの。

一度負けてるから、あまり強引な手には出れないのかな。


「ダメ!アリア!あんなにたくさんいるのよ!」

「前に言ったでしょ?我慢できないって」

「あの後、分かったって言ったじゃないの!」

「そうだっけ。でも、ダメ!皆んなは付いてこないで!私だけじゃないと、全力出せない」

「そ、そんな、、、」


無理にでも皆んなには残ってもらった。

これからあまり良い事をする訳では無いし、僕自身、リーンハルトの頃から避けてきた事もしないといけないかもしれない。

あの時、、、戦争の時は、僕には7や8というレベルがあったし、色々なスキルや魔法が使えた。

言ってみれば余裕があったんだ。


でも、今は余裕なんて全くない。

レベルは1だし、スキルも魔法もゼロだ。

何故か剣術はかなりの腕前が残っているから、そこに賭けるしかない。

まあもう1つアテもあるけど。

でも、それだけギリギリなんだ。

余裕があって、それのお陰で戦争の中でも自分だけはワガママで人の命を奪うというのは避けてきたけど、今回は違う。


そんな事は言ってられないかもしれない。

だから今度こそ覚悟を決めないといけない。



人が居ない、町の外れに来た。

空き家が多く、人もまばらで、、、というより誰も居ない。

こんな場所がこの町にあったんだ。


「ここでいいだろう。おい、嬢ちゃんよ。この前は、良い事をしてくれたじゃねえかよ。お陰でオレは組の中でも位が落ちちまったよ。ガキの女に負けて、尻尾を巻いて逃げてきたってな」

「まあ、本当の事だし」

「ぐっ、、、。だがな、オレはマルレロ親分に誓ったんだ。相手が誰だろうと全力で潰すのがオレの流儀だってな!」

「それは親分とやらに誓うものなの?」

「いちいちうるせえ!テメエのせいでオレは組で馬鹿にされ続けているんだ!まずはテメエをブチ殺して、後はあのガキどももみんな殺してやる!」


絶対に皆んなには手を出させない。

コイツの命と皆んなの命なんて比べるまでもない。

ここで、手を抜いて後悔する事は絶対にしない!


「悪く思うなよ?こっちは負けらんねえんだ。一斉に行かせてもらうぜ」

「大人気ない」

「うるせえ!!テメエらやっちまえ!!」


うおおおおっ、という怒号が響き渡り、何十人いるか分からないおじさん達が僕に殺到する。

本当、大人気ない。

リボンをまたほどいて、マナを流し込む。

今日はもう一本借りてきた。

そのもう一本はエステルの物だ。


アニエスに追加で欲しいって言ったら、何故かエステルが大急ぎで持ってきてくれた。

エステルは言っている事も行動も、よく分からない事がある。

だけど、僕の事が心配で行動してくれているのは分かる。

だから、このリボンは僕にとって、2本とも心強い剣になる!


二刀流を使い、迫り来るおじさん達をザクザクと斬り捨てる。

遅い、遅過ぎる。

まるでダミー君が並んでいるだけのようだ。

こんなの剣術の練習にもならない。

やっぱり、レベル差があった時と同じくらいの速度能力があるみたいだ。

これも天使の能力なんだろうか。


でも、斬っても斬っても、次から次へとおじさんは現れる。

こう言うとキモいな。次から次へとおじさんが出現。


うう、流石にこの人数はキツイな。

何人居るんだよ。

全然減った気がしない。

裏でポーションとか飲ませてるのか?


あ!本当に飲ませてた!

くっ!コイツらはプライドとか無いのか!

こんな可愛い女子1人にポーションまで使って!


ええい!回復が間に合わないくらいに、斬ってやる!

一気に突っ込んで、ズバズバ斬る!

回復してるところにも突っ込んで、ポーションも叩き割ってやる。


「うおお!何しやがんだ!この卑怯者が!」

「何ぃ!そっちの方が卑怯じゃん!こんな大勢でか弱い私を寄ってたかって!」

「か弱い奴がこの人数を圧倒するんじゃねえ!」


まあ、ごもっともだけど。

でも、だいぶ減らしてきたぞ。

ポーションを割ったのは良かった。

あれで、回復が出来なくなった分、人数は減る一方になった。


あと数人だし、最後にはあのサンドバルを倒せば終わりだ。

アイツ、全然手を出さないで、体力温存してやがる。

ズルいぞ!

でも、まあ、なんとかなりそうだ。


パンッ


なんの音?

うぐっ


なんだ?力が入らない。

お腹が熱い。

血?

なんで?

誰も近くには居ないし、魔法は使われてないよ?


くっ、まずい、何だこの脱力感。


「ふははは!流石のテメエもこのマナ弾には敵わないか!」


はあ?マナ弾?あの?

当たると眩しいだけのマナ弾?

それが当たってなんで、お腹から血が出るのさ。


「これはノルドから密輸した、最新式のマナ弾を超高速で打ち出せるルゥジョーと言うものだ!マナ弾でも高速で打ち出せば、テメエの腹にも穴が開けられんだぜ!」


うう、ダメだ。

全然力が入らない。


グボォ


口から血を吐く。

これ、かなりまずいな。

でも、むしろ、これで一気に片がつきそう。



ポーン

『脅威判定B 生命の危険を察知しました 脅威の排除をしてください セラフの翼を常時解放します』



あ、あれ?代行神罰とかじゃないの?

と、とにかく死にそうだから、そのセラフの翼とやらを使ってみる。


「セ、セラフの翼」


おお?背中に何か現れた?

痛みでよく見えないけど、名前からすると多分、翼なんだろうな。



セラフの翼


行使する翼を選択してください


第一の翼

第二の翼

第三の翼

第四の翼

第五の翼

第六の翼



くっ、もうあまり突っ込む力は無いんだからさ!

何も書いてないじゃないか!

どれを選べばいいんだよ!


うぐぅ、お腹痛いー!

もういい!上から試してやる。


「だ、第一の翼!」



『セラフの第一の翼を行使します。範囲内に適用中』



何だよ。何も起きないじゃん。次!


「ぐふっ、、、だ、第二の翼」



『セラフの第ニの翼を行使します。対象の生命力を全回復しました』


さっきは動かなかったけど、今度は左から翼らしきものがバサッと僕に掛かる。

ああ、僕の生命力が回復したのか。

でも、今はいらないよ!

生命力はまだ余裕があるんだよ!

でも、無駄に力は湧いてくる。


「第三の翼!」



『セラフの第三の翼を行使します。対象の損傷、欠損を修復します。修復完了まであと、17秒』


右から翼がバサッとくる。

おおお!マナ弾で撃たれたお腹が見る見るうちに治っていく。



『修復完了しました』



うん、すっかり良くなったぞ。

さっき生命力も全回復したし、朝より調子が良いくらいだ。

スクッと立って、僕の体を確認してみる。

お腹の傷はもちろんだけど、何故か服もキレイに修復されていたし、リボン剣もボロボロだったのが新品のようになっていた。

そこまで修復対象になるんだ。


「な、何だ、、、テメエは何なんだ!まさか、その翼はて、天使なのか!」


ん?あ、そうか、そう言えば翼が出てるんだっけ。

自分の影を見てみると、確かに僕の背中には翼が付いていた。

片方に3枚ずつ、合計6枚の翼がある。

この一枚一枚があの能力に対応しているのか。


「さあ、なんだろうね。あとは何が使えるのかな。第四の翼」



おお?

左の真ん中の翼がバサバサと羽ばたくと、ブウウンと音がして右手に雷の棒が現れる。

何だよ雷の棒って。

でも、そうとしか言いようがない。

パリパリと細かい雷を出していて、この棒そのものも雷で出来ていると分かる。

先は三つに分かれていて尖っている。

ああ、棒じゃなくて、槍なのかな?


これで闘っていいのかな?

んー、これ短めだし、投げるタイプかな?

投げちゃえ。


ブゥン、と空気が唸って雷の槍は飛んでいく。

おじさん達に当たると、槍はそのまま突き抜けていく。

え?素通り?と、思ったけど、槍が貫通したおじさんはバリバリと放電しながら暴れ出す。

槍の軌道上には、ピクピクとしながら気絶しているおじさん達が倒れている。


ヒイッとその隣にいたおじさんの声が漏れる。

これいいね。死なない程度に嫌な感じで痺れまくってる。

天使の罰は戒めの為、とかなのかな。

反省しなさい!なんて。


投げた槍が地面に刺さるとすうっと消え、手元には第二射が現れる。

便利だ。

手前にいるおじさんと目が合う。


「へ、へへ、へへへ、あ、あっちに投げてくんねえかな?」

「お、おいずるいぞ!おめえ!あ、、、ははは、わ、悪かったな、も、もうしない、もうおめえには関わらないからよ、な?」

「ふふっ、ダメ」


えい!

第二射を投擲!

今話しかけてきたおじさんは2人とも貫通した。

パタパタと倒れて白目を向いている。

うんうん、生きてる生きてる。


敵が居ればどんどん次の槍が出てくるみたいだ。


とうとう、あれだけ居たおじさんズはサンドバルを残して皆んな雷に打たれて気絶中だ。


「ふはは。オレはなんて付いてないんだ。相手にしてたのは、天使だったのか、しかも、6枚の翼って、セラフかよ。天使のトップに手を出しちまったら、こうなるわな。なぁ嬢ちゃん。いや、天使様よ。悪かったな。一思いにやっちまってくれや」

「いやいや、命は奪わないよ?」

「はあ?何だよ、コイツらは殺しておいてオレだけ、、、ああ?コイツら寝てるだけか!」

「寝てるって、、、。まあ、似てるけど、気絶ね、気絶」

「何でだ!オレらはオメエ達を殺そうとしたんだぞ!それなのに、気絶だけで赦すのか?」

「屋台を壊したりアニエスを傷付けたことは赦さないけど、殺したりはしない。まあ、最初は仕方ないとは思ってたけど。今はこれがあるから、しなくて済んだ」


サンドバルは口を開けて、ぽかあんとしている。

まあ、そうだろう。

言っている意味は分からないよな。


「まあ、これを受けるくらいの罰は受けてもらうかな?」

「な、ま、待て!それは、さっきから見てると、かなり痛そう何だが?」

「うん?ああ、そうだね。チクッとするかもね?」

「いやいやいやいや、チクッどころじゃねえだろ!?コイツら泡吹いてるぞ!?」

「おお、そだね。2、3日は立てないかもね。で、言いたい事はもう全部言った?」

「待て待て!話し合おうじゃねえか!な!」

「………もう、私達に手を出さない?」

「ああ!ああ!!もう金輪際オメエ達に手は出さない!手下どもにも、あ、親分にもよく言っておく!」

「ふーん。親分って、サンドバルより上なんでしょ?」

「ああ、でも、オレの言う事はよく聞いてくれるんだ!だから、ここで手打ちにしようや」


まあ反省しているみたいだし、ここまで言うんなら、いいかな?


『第一の翼が対象の嘘を感知しました。対象名、ロドリゴ・サンドバル。嘘の内容、[親分にもよく言っておく][オレの言う事はよく聞いてくれるんだ]以上、2点』


ほう、第一の翼は嘘を見破る力か。


「サンドバル?」

「ああ!分かってくれたか?」

「うん。サンドバルは嘘付きって言うのがね?」

「な、何を!待て!待てー!」


ブンッと雷槍を投げると、サンドバルにストッと刺さり、バリバリ放電する。


「うががががが!!」


ひとしきり、雷に撃たれたサンドバルはぱたんと倒れて、ピクピクしている。

すうっと槍が消えると、もう右手には槍は出てこなくなった。

その事が闘いの終わりを告げる代わりとなった。

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