第八十四話 越境

お金は溜まった。

僕はあまり役に立ってないけど。

でも、皆んなは僕が居たからここまで出来たって言ってくれた。

今では新メニューも追加したり、屋台も2つ目を用意して拡大路線に突き進んでいる。

行けるところまで行くらしい。


「本当に行っちゃうの?」

「うん。家族が心配してるし、こっちも家族が心配だから」

「せっかく仲良くなれたのに、残念だわ」

「ありがとう、フェリシー」

「、、、」

「?エステル?」

「最後だから、、、言う、、、好き!」

「うえっ?!エステル?僕、女の子だよ?」

「そのギャップが、、、いい、、、中身は男の子みたいな所、、、好き」


バ、バレてる?

いやそれよりも、これって、告白?

それとも、友達としてって事?

女の子同士だけど、中身は男の子だからあってるのか?


「エステル、抜け駆けはダメって言ったよね」

「、、、ごめん、、、もう最後だから、、、いいかなって」

「うう、私も、自分で変だと思うけど、あなたの事、小さな女の子って思えない時があるの。この気持ちが、どう言うものなのか、よく分からないけど、でも、クロードよりアリアの事の方が上なのは確かよ!」

「ア、アニエス?!俺の事嫌いになったの?!」

「別に嫌いにはなってないわよ。でも、ごめん。もうクロードとは、友達としてしか見れないかも」

「う、うう。ア、アリア〜」

「え?ごめん?クロード。え?これ僕のせい?」

「いや、この際だ!言ってしまえ!俺も実はアリアの事が好きになってしまったんだー!」

「、、、はい?!」


何だこれ?

皆んな僕をからかってるのか?


「うむ、皆は残念だったな。アリア姫は俺様を選んでしまったのだから。さあ!アリアよ!俺様と行こうではないか!」

「エリックも元気でね」

「、、、、う、うむ」


結局、女子2人、男子2、、、1人に告白されてしまった。

見た目じゃなくて、中身として好いてくれたんなら、嬉しいよ。

クロードは外見で、かもしれないけど。


「また、会えるわよね?」

「うん。戦争も終われば、行き来しやすくなるよ。またここに来るよ」

「、、、約束、、、」

「うん。約束」


3日前からフォルクヴァルツとの馬車が再開した。

戦争は終わった、のか、もしくは一時的にも王都での戦闘は無くなったとみていいと思う。

ここから一番近いフォルクヴァルツの村まで馬車で7日は掛かる。

王都までは更に2、3日必要だ。


そこまでの馬車代と食費や滞在費はある。

あとは、普通なら武器や防具は必要になる。

馬車の旅とは言っても、国境付近は村すら無く、魔物や危険な獣が多く出る所を通る。

どんな人でも、最低限自分を守る物は用意するのが越境旅の基本になる。


もちろん高い金を払えば、護衛付きにする事も出来るけど、今の数倍は旅費が掛かってしまう。

だから、大抵は自分の身は自分で守る事になる。

マルネの町と王都の間の旅とはだいぶ違うものになりそうだ。


馬車乗り場まで、皆んな見送りに来てくれた。


「皆んなありがとうね」

「うううう、、、絶対、絶対手紙だすのよ!」

「うん。アニエス。必ず出すよ。返事書いてね」


「、、、好き、、、」

「う、うん。あ、りがと、エステル」

「真っ赤になる所も、、、、いい」


「うう、ぐす、ぐす、私は友達としてだけど、好きだからね」

「うん。僕も。フェリシー。あ、もう馬車が出るから!じゃあね!」


「お、おいぃ!俺の最後のあいさつは!?」

「ふっ、男の扱いはこんなもんさ」

「エリックと同じ扱いかよお!」


まあ、あの2人は、いっか。

馬車の一番後ろに乗って、幌から顔を出す。

数台でまとまっていくから、先頭の馬車から順番に動き出す。

あ、次は僕の乗った馬車の番だ。


「またねー!」


ぶんぶん、と手を振る。

ああ、皆んな泣いてるな。

ここに居たのは、ほんの数日だったのに。

ふふっ、なんせ告白されてしまったからね。

しかも2人も!

男子は数には入らない。


う、クロードも泣くなよ。

いや、エリックの方が号泣だな。

エリックも実はあの発言は本気だったりして。


ああ、皆んなが小さくなっていく。

そして、とうとう町も見えなくなってしまった。


「別れは寂しいわよね」

「え?あ、はい、そうですね」


白髪のおばあちゃんにそう話しかけられる。


「もう手は良いんじゃない?」

「??、、、!!あ、そうでした」


気付いたらまだ手を振っていた。

恥ずかしい。


「お友達?」

「はい。とっても、私に良くしてくれた、友達です!」

「そう、それなら、良かったわ、この別れはまたそのお友達に会える楽しみになるんですものね」

「はい!楽しみが増えました!」


ふふふっ、少し気が楽になってきた。

ありがとう、おばあちゃん。

あ、それだけ、僕が寂しそうな顔をしてたのかもしれないね。



数日して、ようやくマルブランシュ共和国の端っこの村まで来た。

あのおばあちゃんは2つ前の村で降りていった。


ここからは危険地帯になって来る。

だから、乗客は皆んな武装をしている。


体格の良い大人の男性が3人。

武具を見ると軍人では無く傭兵だろう。

冒険者ではなさそう。


そして、家族連れが1組。父母息子の3人だ。


それから、フードを被って全身もマントで覆って、素性を分からなくしている人が1人。

でも、この人は別に怪しい訳ではなく、よくある事だ。

身分を知られないようにして長旅をするというのは、身を守る為には必要になる。

まあ、逆にこの格好をしているって事は、身分がバレると危険になるくらいには、高い身分や狙われ易い人だって示しているようなものなんだけど。


御者さんは2人いて、交代で馬車を操るようにしているみたいだ。


僕はというと、あのクエストをした時のお婆ちゃんがくれた服を着ているだけで、武装はしていない。

そう言えばあのお婆ちゃんにはあの後、何度か会いに行っていた。

前に来ていた豪華な服もキレイに洗ってくれて、今はこの手元のバッグの中だ。


あとはリボンだ!

アニエスとエステルに貰った大きなリボンを1日交代で付けている。

というか、あの後もっとたくさん貰ったから、何本もこのバッグに入っている。


僕の武装と言えばこのリボンだけになるのかな。

リボン剣はなかなか優秀だ。

なにせ斬りすぎない。

込めるマナ量を調整して、敵に合わせた硬度や斬れ味を決められる。

ギベオンソードも使い勝手は良かったけど、こっちもお気に入りになった。

普段は頭を飾ってくれるのが、、、また、、、いい。

エステルの真似。


うっ。しまった、ちょっと寂しくなってしまった。

涙目になりながら、外の景色を眺める。

中を見ていると、他の乗客に泣いてるのがバレるからね。


外は何も無い荒れた土地が広がっている。

木々も少なく、馬車がすれ違うだけの幅に踏み固められた街道が馬車の後ろに伸びている。

辺りには人の住むような場所も無く、この街道には僕の乗る馬車とその後ろに馬に乗った厳つい顔の男どもが何人か付いて来ているだけだ。


ん?何あの厳つい男達は。

1、2、3、、、7頭の馬にまたがって、だんだんとこの馬車に近づいて来る。

護衛、、、じゃないよね。

町を出るときは5、6台の馬車で出発したけど、今はもうこの馬車だけのはずだ。


ああ、面倒な感じがするなあ。


「止まれ!そこの馬車止まれー!」


4人が馬車の前に回り込み、3人は後ろにぴったりと付いている。


「くっ。盗賊か。おい、起きろ!」


奥にいた3人の男性陣が外の様子を見て、戦闘準備に入る。

家族連れの3人は体を寄せ合い、フードの人は身じろぎひとつしない。

寝てるのかな。


馬車が止められ、乗客は皆んな降ろされる。


「おら!早く降りろ!」

「降りたら荷物をそこに出すんだ!」


つまり、馬車強盗か。

はあ、、、まったく、人のお金で暮らしてるって事か。自分が情けなくならないのかな。僕、知らない人にお金を貰って暮らしてるの、ってね」

「おい!オマエ!途中から声が出てるぞ!それに貰ってるんじゃねえ!奪ってるんだ!」

「人の物でしか暮らせないなんて、悲しくならないものかね。オレ!自分の事、人に自慢できるぜ!って言える?」

「うるせえ!!出来るわけねえだろ!」


あ、自慢できない事をしているって自覚はあるんだ。


「おい、その辺にしておけ」

「あ、へい」

「何言われてもオメエらはオレらに搾取される側なんだよ。さっさと金目の物を出しやがれ!」


こいつがこの窃盗グループのリーダーかな?

でも、一番後ろにいる奴が強さでは一番かな。

立ち居振る舞いが、軍人っぽい。


「俺達は傭兵だ!悪いが抵抗させてもらうぞ!」

「はんっ!そこそこ腕が立つようだが、この人数差で勝てると思うなよ?」


あっちは7対3とでも思ってるんだろうな。

でも、まあ、そう思うのも仕方ない。


「傭兵のおじさん!」

「ああ?俺はおじさんって歳じゃない!まだ23だ!」

「23、、、おじさん!ちょっと話があるんだけど」

「くそっ。お兄さんって呼べよ。何だ!」

「そっちの3人で窃盗の2人を相手できる?」

「おい待て!窃盗とはなんだ!オレ達は盗賊団だぞ!」

「ああもう、うるさい!今こっちと話してるんだから!で、どう?いけそう?」

「何言ってる。キミがあと5人を相手するって言うのか?そんな無茶はダメだ。キミは見たところかなりの剣使いに見えるが、流石にその人数は無理だろう」


へぇ。このおじさん、結構剣を見る目はあるのか。


「まあ、やってみるしかないんじゃない?」


窃盗達は待ちきれなくなったのか、襲いかかって来る。

傭兵のおじさん3人に対して4人の窃盗が向かう。

余計な2人の間に入り込み、行く手を阻む。


「おじいさん達は僕が相手だよ」

「誰がおじいさんだ!」


え、だって、ヒゲ生えてるし、傭兵のおじさんより歳上だし。違ったのか。


とりあえず、この2人はあっちの3人の方に、リボン剣で押し込む。

相手の剣にゴンゴンと当てて、当てて、当ててっ!おし、3人と合流!


「な、なんだこの女!おい!コイツからやっちまうぞ!」

「「「おう」」」


お、5人掛かりで来るのか?

んじゃ、こっも二刀流でいくか。

さっきこっそりバッグから取り出しておいた、もう一本のリボンも持って、マナを流し込む。

2本のリボン剣で5人の剣を捌いていく。


まずは、これで、後ろにいる家族連れとフードの人に危害が及ぶことは無いな。


そろそろ数を減らすか。

1番弱そうな奴の服にリボン剣を斬れ味ゼロにして引っ掛ける。

こうなると、ただ硬度の有るだけの金属の棒のように扱える。

このアバターは力は無いから相手の動きと重心を上手く使って、もう1人の窃盗犯にぶつける。


「ぐおっ!テメエ邪魔だ!」

「すいやせんー。この女があ!」


2人が重なった事で、この2人分の剣の動きが止まる。

というか、2人とも倒れて尻餅ついてる。

その隙に残りの3人に仕掛ける。

左手で2人までなら相手ができる。

右手で1人を相手に攻めていく!


「うおっうおっ!コイツ俺だけ狙いやがって!」

「えいっ!」


やや斬れ味、にした右手のリボン剣でこのおじさんの腹に突き刺す。

つきぬける程では無いけど、適度に斬れて、吹っ飛ぶ。

よし、1人倒した!

ピクピクおじさんになっているのを確認して、左手の相手だった2人を両手で相手する。


尻餅おじさん2人は、まだ立とうともがいている。


ああ、右側の人はさっきの強そうな人だから、左の方から片付けよう。

あれ?なんだか、両側の2人は連携とってるな。

同時に剣を出して来たり、少しタイミングをずらしたり、こっちの動きに合わせて、色々変えて来る。

ええい、面倒だ。力押し!


左側の弱そうなおじさんの懐にグッと滑り込む。

右の人は気にしない。

両手でガンガン斬っていく。

この人の剣ならいけるかな。

リボン剣を斬れ味最大にして、ズバッとおじさんの剣を斬る!

ガランガランとおじさんの剣の先が落ちるのに驚いている隙に、斬れ味最低に変えたリボン剣二刀流で、顔面もお腹をビチバチと叩く。


「うごおおお」


変な声を上げて倒れるおじさん。

うわっ!

あっぶなー。


1番強そうな人が僕の頭があった辺りを横一文字に薙いでいく。

その動きに気付いて倒れ込まなかったら危なかった。


「これも避けるか。なんて子供だ!おい!早く起き上がって加勢しやがれ!」

「へ、へいい!」

「わたわた」


あの2人はヘッポコだな。


「うがあああ!」


あ、あっちで2人は相手にしていた傭兵さんの誰かやっつけたかな?

って違うよ。あの傭兵さんの1人が斬られてたよ。

ええええ、、、。3対2だったじゃんー。


なんかもう、結構な深手っぽいんですけど!

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