第八十一話 3人のおじさん

3人のおじさんのうち、カントゥとか呼ばれたおじさんの前に立つ。

ちょっと僕は怒ってるんだからね!

今、皆んなと打ち解けられそうになって、良いところだったんだからね!


「何だあ?またちっこいのが出てきたなあ。女子供は殴られねえとでも思ってんのか?ウルァ」


なんかゆっくり拳を出してくる。

何だよ、結局、女子供には甘いんじゃないか。

わざと避けられるようにしてくれてるよね、これって。

それにしても舐めすぎだよ、こんなゆっくりで馬鹿にしてんの?

まあ、せっかく避けやすくしてくれるんだから、こっちも合わせて避けないとね。


「な、何ぃ!避けただとぉ!オレの高速パンチを!」

「いやいや、避けやすくゆっくりしてくれてたじゃない」

「何だとぉ!馬鹿にしやがって!ウラア!」


お、今度はキックか。

ええええ、これもこんなゆっくりかあ。

何?何なの?この辺でやっている、アトラクションみたいな物なの?

それにしては、屋台を壊すとか、ちょっと許せないんですけど!

これも、遅すぎて簡単に避けられそうだったけど、ここはわざとキックを受けてみる。

まあ、嫌がらせだ。

当てる気は無かったのに、当ててしまったら、このおじさん達も困るだろう。

後で父さん並みの土下座をさせてやるんだ。


カントゥの足が僕のお腹に当たる。

ああ、女の子のお腹は大事にしなさいって母さんが言ってたっけ。

当たると同時に後ろに飛んで、ダメージは受けないようにする。


あ、後ろに飛び過ぎて垣根に突っ込んじゃった。


「きゃああ!アリア!」

「くそっ!よくもアリアを!」

「か、回復を!」

「許せん!お前ら絶対に許さんぞ!」

「、、、、コロス!」


いやいや、そんなに盛り上がらなくて良いよ。


皆んなが突っ込んでいきそうだったから、すぐに垣根から飛び出す。


「皆んな!僕は大丈夫だよ!今のはちょっと間違っちゃっただけだから!皆んな後ろに退がってて!」

「ア、アリア?平気なの?」

「うん!僕は平気!おじさん!今のでもう正当防衛だよね!」

「な?何だあ?何言って」


皆んなの間をすり抜けて、一気にカントゥの懐まで距離を縮める。

上をチラッと見ると、まだカントゥは前を見ている。

んん?これ、わざと遅くしてるんじゃなくて、本当に遅いのかな?


まるでレベル差がある時みたいな、速さの差がある。

でも、僕はこのアバターだとまだレベル1だし、身体能力をレベルに応じて上げていくというのも、していない。

リーンハルトの頃はここはレベル8の速度だなとか、レベル4くらいの力にしてみようとか、敵に合わせて調整していた。

ずっとレベル8のまま全力で戦い続けると、すぐにスタミナが消耗してしまうし、他の仲間との連携も時間差が出てうまくいかないから、瞬間的に攻撃の時だけ体の能力を上げていた。


でも、今はそんな事はしていない。

そうするだけのレベルが無い。

だって、レベル1なんだから。


だから、レベル1のままの身体能力な筈なんだけど、カントゥはとても遅いし、筋力も無さそうに見える。

カントゥのレベルはマイナスとかだってりして。

そんな訳ないか。


まあ、このおじさんが弱いって事は分かるから、それだけで十分だ。


あ、ようやく、下を見た。

もういいかな。

軽く、カントゥのお腹に手を当てて、トンッと押す。


ぐぶほあぁ!


うわっ汚っ!

唾液なんだか、胃液なんだかが、口から出てくる。

僕には掛からないように、後ろに退がる。

カントゥはそのまま、崩れ落ちて、ピクピクしているから、まあ、これでいいかな。


「ア、アリア。い、今、何したの?」

「気付いたら、アリアがこっちに来ていて、この人が倒れてたな……」


うーむ。皆んなも見えてないのか。

やっぱりレベルと合ってない動きをしてるな、このアバター。

中の僕はレベル8の動きには慣れてるから、それがうまく体を動かしてる、とかなのかな。


「ちっ、コイツの見た目に惑わされるな。おい、アレを出せ」

「へい。どうぞ」


後ろで偉そうにしていた、おじさんが、下っ端2から何か受け取っていた。

剣、、、?ちょっと違うな。

持ち手?柄?を持ち、スラッと抜くと、湾曲した片刃が出てくる。


見た事が無い形状の剣だ。

柄頭も鍔も無い。

これって、刀とか言う東の国の物かな?


下っ端2もそれの短い物を出してくる。

下っ端2はさっきのカントゥよりはやるようだ。

でも、この偉そうなおじさんは、更にもう少しだけ、レベルが上に感じる。


「おう、お嬢さんよ。舐めた事してくれたな。ここを仕切ってる手前、このまま帰すわけにはいかんのだよ。悪いがケジメつけさせて貰うわ」


そういうと、アニキさんは片刃の刀?を無造作に振り下ろしてくる。

今度はなかなかの速さだ。

体を捻って切っ先を避ける。

チッと服の先に刀が当たるけど、斬られてはいない。

返し刀で僕の顎を狙って切り上げてくる。

嫌な所を狙ってくる。

首を上に仰け反らせながら後ろに倒れこむ。

そのままバック宙で距離を取る。

あ、しまった、スカートだった。

み、見えてないよね。


「見た?」

「あん?何をだ?」

「ううん。ならいい、あ、後ろ!見た?」

「え?あ、見えてないよ!大丈夫!」

「くっ、アニエスが邪魔で見えなかった、、、」

「ああ、残念だが見えなかった!もう一度チャレンジしてくれ!」


クロードとエリックは後で説教だ!

僕は髪を結わいているリボンをしゅるしゅるとほどく。


「アニエス。これ、借りるね?」

「う、うん?今も貸してるけど?」


あ、そうだった。

まあいいや。

リボンを両手で持って構える。


「ぐはははは。何をするかと思えば、そんな布切れでどうしようって言うんだ!」

「こうしようって言うんだよ!」


僕のマナをリボンに注ぎ込む。

多分、このアバターのマナ最大量はかなり多いと思う。

8Tという、このTの単位はどれくらいか分からないけど、今までにない単位だから、桁違い多いんだと思う。

そう言えばこのTの説明は出なかったな。

気になる所を押せば説明が表示されるというのは、スキル作成スキル特有の機能だったんだろうか。


とにかく、マナを思いっきり注ぎ込めば、こんな柔らかいリボンでも、十分武器になる。

アニエスごめん。リボンを武器にしちゃいます。


ビシッと剣の形に固まったリボンを構えて、おじさんに向かう。

リボン剣はおじさんの刀に当たり、ゴンッという音がして跳ね返る。

変な音。


「ははっ面白え!布切れが刀になりやがった!」

「刀じゃなくて、リボン剣だよ!」


なかなかこのおじさんやるなぁ。

何合も斬り結ぶけど、お互い致命傷を与えられずにいた。


「何なんだよ!テメエは!そんなガキがなんで俺と対等にやれるんだよ!」


大声うるさい。

この刀、多分斬り落とせないな。

軍の時みたいに、ぽっきりと折ってやろうかと思ったけど、刃を当てると分かる。

リボン剣が刀に当たるたび、しなやかな柔らかさで、リボン剣の衝撃を和らげている。

でも、曲がる訳でもなく、力に対しての硬さも備えているように感じる。


「オラオラ!そんなんで刀の代わりにした時は驚いたが、やっぱり、ガキだな!体重が軽すぎるぜ!刀に力がこもってねぇんだよ!」


ガッガッとリボン剣が弾かれていく。

確かに僕の小さめな体だと、まともに斬り合ってしまうと、純粋な体の重さが力の差になってくる。

それなら、まともに正面から斬り合わなければいいだけだ。

どうにか芯をずらして、相手に隙を作れないか。


「グハハハ!ほらどうした!自分だけじゃねえぞ!コイツらも守んねえとな!」

「きゃあああ!」


なっ!急に押し込んで来たと思ったら、近くにいたアニエスに斬りつけてきた!


「やめろ!この子は関係ないだろう!」

「ああ?何言ってやがる!コイツらまとめて斬ってやるよ!俺らをコケにしたらどうなるか見せしめだあ!」


なんだコイツは!

許せない!


倒れ込んだアニエスはクロードの持っていたポーションで回復できる傷だったらしい。

血ももう流れてないし、大丈夫そうだ。

良かった。

でも、僕のせいで、アニエスを傷つけてしまった。


押され気味になると、皆んなが危なくなるからどうしても後手になってしまう。

遂には両手で持っているリボン剣が刀に弾かれて、剣を持っているのが右手だけになる。

体が開いて、両手は上がり、隙を作ってしまう。


「はん!所詮ガキか。おりゃあ!」


コイツは余裕でもあると思ったのか、堂々と真正面から袈裟斬りをしてくる。

そっちの方が隙だらけなんだよな。

僕の隙は誘いだ。

上段から振り下ろすのを左に避けながら前に突っ込む。

刀は振り下ろす時に左へと流れる。

このタイミングでこんな動きをされたら、この隙間に入ってくれと言わんばかりだ。


一瞬目が合う。その目は見開いている。


ちょっと痛いだろうけど、もうこんな事をする気も起こさせない為にも、斬らせてもらう。


おじさんの右腕をリボン剣で斬る。

刀は斬れないけど、これなら斬れる。


「ぐおおおっ!!」

「ア、アニキー!」


刀を掴んだ腕が地面に落ちる。

ううっ。後悔するな!

皆んなを守るんだ!いや、それは言い訳だ!

僕のこの場所を荒らされたから、アニエスが斬られたから、怒りでやっただけだ!

でも、後悔はしない!


「おい!お前ら!僕と敵対するなら徹底的にやってやる!いいか!お前らのボスに言っておけ!僕はお前らには絶対に屈しない!まだやるなら、お前ら全員相手にしてやる!」

「くそっ!おい、俺の腕を持て!」

「ひええ。うぐぅ、も、持ちましたあ」

「おい、テメエ名前はなんだ?」

「人の名前を聞きたいなら、どうしなさいってお母さんから習ってないのかな?」

「ぐっ、俺はマルレロ組のサンドバルだ」

「へぇ」

「おい!名前はなんだ!俺は言っただろ!」

「言わなきゃダメ?」

「当たり前だろーが!」


早く止血しないと危なそうだから、これくらいにしておこうか。


「僕はアリアージュ・ミヌレだ!サンドバル!次!僕の前に出てきたら、腕じゃなくて首がそこに落ちるから!いいね!」

「うう。くそっ!帰るぞ」

「へ、へい」


サンドバルと下っ端2は腕と下っ端1を担いで帰っていった。

下っ端2は結構力あるな。


くるっと回り、皆んなの方を見る。


「てへ。ちょっとやり過ぎちゃった」


クロの真似で誤魔化す。


「てへ、じゃないわよ!何してんのよ!もう!」

「あ、ごめん、アニエス。アイツらに目をつけられちゃったかもね」

「そこじゃない!もう、危ない事をしないでよ!寿命が縮まったわよ!」

「ああ!アニエス、怪我は大丈夫?僕が隙を見せたせいで、アニエスを傷付けてしまって、ごめん!」

「はあああ。ふううう。もううう!謝るところが違うっての!」


ええ!?違った?な、何を間違えたんだろう。


「はああ、でもアリアはすごかったわねぇ。あんな怖そうな人相手に勝っちゃったわ」

「、、、、ヤバイ、、、これマジになりそう」


フェリシーとエステルも無事そうだ。

エステルはやっぱり言っている意味は分からない。


「すまん!アリア!みんな!俺がこんな時は守んないといけないのに!びびって固まってしまっていた!本当にごめん!」

「、、、、俺もだ、、、いつも偉そうにしてたのに!」


クロード、エリック、、、。


「これは責任を取って、アリアをお嫁さんに迎えるしかないと思うのだが!どうだろうか!」

「エリック、台無しなんだけど、、、」



今日はもう商売どころではない。

片付けをして、素直に帰ることにした。


アニエスの家に帰ってきて、早めの夕食を摂る。

アニエスは斬られて服も血が付いたので着替えている。

せっかくお婆ちゃんに貰った服なのに、すぐ汚してしまったあ!と嘆いていた。


「あのさ、アリア。さっきのアレだけど」

「うん?アレ?」

「そう、あの3人組が来た時。あそこでアリアが出ていく必要は無かったんだよ?お金を払って、終わりにするって手もあったんだから」

「そんな訳にはいかないよ!皆んなで大変な思いをして稼いだお金をあんな奴らに取られるのなんて私は嫌!」

「ボクっ娘は続けないの?」

「つ、続けないよう。私って言ってるし!」

「あらら。気付いてないんだ」


あ、あれ?言ってないよね。頭の中では僕、だけど、声に出す時は私、だよね?

無意識に出ちゃってる?

頭の中でも私って言ってた方がいいのかな。

で、でも、それじゃあ心まで女子になってしまいそうで怖いな。


「これからはあんな事が起きても、我慢して欲しいな」

「うう、我慢できなさそう」

「もう。そこは、嘘でも分かったって言うのよ」

「わ、分かった、わよ」

「ふう、変な子ね、アリアって」

「そ、そう?えへへ」

「褒めてはいないわよ?」


そ、そう、、、。

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