第八十話 仲間との話し方
「フ、フォルクヴァルツ、、、名物の!ブ、ブラートヴルストれす!お、おいしーでふよ!」
ゼエハア。も、もうダメだ。
こんなの恥ずかしすぎて、死んでしまう。
これで、クロの所に戻れる、やったあ!
いか〜ん!
こんな死に方、許さ〜ん!
でも、僕の見た目の良さと恥ずかしそうにした呼び込みに気を引かれた、客が、、、主に男性客が、何人かやってきてくれた。
自分で自分の事を自信たっぷりに見た目が良いという女子って、どんだけ僕は自分大好きっ娘だって話ですよ。
いや違うよ?僕じゃなくて、このアバターの事なんだからね?だって、天使用アバターなんでしょ?
そりゃあ、人間離れした容姿になってるのは当たり前だよ。
「おお、これは美味いな。このソーセージの臭みとキャベツの酸味が合っている」
「いやあ、子供がやっている屋台だとは思っていたけど、こりゃあいけるな〜」
うんうん、良い感じだよ。
「お嬢ちゃんがフォルクヴァルツ人なのかい?このソーセージはマルブランシュのだよね。面白い物考えるね」
「あ、皆んなで、考えました。その、ありがとうございます」
その後も屋台の前で食べている人を見て、次第にお客さんが集まってくる。
あ、もう呼び込みとかしなくて、いいかな。
だんだん忙しくなってきて、とうとう行列が出来てしまった。
す、すごい!
あ、でも、何か手伝わなくちゃ。
「アリアは横に立ってて?今忙しいからね!」
「あ、はい、、、」
完全に僕はお子様枠で、役立たずだ。
ただの広告塔でしか無いし、今はもうこの行列が広告になっているから、それすらお払い箱だ。
う、うう。
自然と涙がじわっと出てくる。
悔しいけど、悲しい。
でも、泣いてどうする。
涙が落ちないように目に溜めて我慢する。
隣で大忙しの皆んなを応援することすら出来ずに、ポツンと涙目で立ち尽くす。
何してるんだろう、僕は。
リーンハルトの頃はもっと色んなことが出来た筈だ。
皆んなが困っていたら手助けして、誰かが何かに迷っていたら、一緒に悩んだり出来ていた。
その為の力も持っていたし、お互い助け合える家族も仲間もたくさんいた。
今はどうだろう。
スキルも魔法も何も使えず、知識も無いし、レベルだって1だ。
この皆んなは僕の事を仲間、、、って思ってくれてるだろうか。
今は信頼してもらえる程の仲ではないし、まだ会って間もないから距離感はある。
今だって、ここに僕は居なくても構わないんじゃないのかな。
ああ!ダメだ!どんどん暗い考えになってしまう。
今までこんな、後ろ向きな感情になった事なんて無かったのに。
あんなに全力前進出来てたのは、クロの加護があったからなのかな。
ああ、そうか、ステータスにも加護は付いてなかったもんな。
クロから見られてもいないって証拠じゃないか。
「アリア?大丈夫?」
「ア、アニエス、、、」
あ、ダメだ今見られたら涙目なのが、分かっちゃう。
「泣いてるの?なんで?どうしたの?」
「ううん、何でもないです。平気、です」
「そ、そう、、、」
ああ、良くない。今の僕は良くない!
ここで泣いてるなんて知られたら、皆んなは優しくしてくれると思う。
でも、それは僕の心に溝を作る事になる。
皆んなとの溝であり、僕自身と僕の気持ちとの溝でもある。
そうなったら、もう此処にはいられない。
早くフォルクヴァルツに帰るんだから、いつかは此処を離れる筈だけど、でも、甘える事にただ逃げてしまうような僕にはなりたくない。
「ああ、すみません!今日は材料が無くなってしまいましたので、ここで閉店とさせて頂きます。また、明日ここでお店を開きますんで!」
良かった。用意した材料は全て売り切ったんだね。
初日だからとあまり用意はしてなかってけど、それでも皆んなすごいよ。
「アリア。やっぱり少し変よ?体調悪い?熱は、、、無いわね」
「平気です。あの、、、、先に帰ってます」
ああ、思わず逃げてしまった。
でも、仕方ないじゃないか。
皆んなはやり切った満足そうな顔をして、お互いを讃え合っている。
僕にはその資格が無いんだから。
あの場にはいれないよ。
これならあそこで泣いてしまっても、同じだったかな。
恥ずかしいな。
呼び込みなんかより、今の僕の方が遥かに恥ずかしい。
ああ、どうしよう。
皆んな心配してるかな。
してないか。
あ、ホント、ダメだ、僕。
僕ってこんな性格だったかなぁ。
「アリア。アリア!ハアハア!ねぇ、どうしたの?急に帰るって!」
あ、アニエスが走って追いかけてくれた。
ああ、良かった、追いかけてくれる位には、気に掛けてくれていた。
「アニエス。今、僕は変なんだ。なんだか暗い気持ちになってしまって。僕はここに居ていいのかなって」
「何言ってるのよ!アリアには居てもらわないと困るわよ!もう!変な事考えないでよ!」
「え?困るの?」
「そうよ!あなたが居なければ、皆んなこんなに頑張れないわよ!アリアの為に、、、、って言うのは建前だけど、皆んなの気持ちは、アリアとだったら、上手くいきそう!楽しそう!って気持ちで動いているのよ?」
「そ、そんな。でも、僕、何もしてない、出来てない」
「私は商品を渡す!しかして無いわよ!不器用なの!しかもこれしかしてないのに、何個か下に落としたわよ!むしろ邪魔してたわよ!それでも、私はあそこで役立たずとか自分の事、思わないわ!」
そ、そうなの?
意外とポンコツなんだ。
「ぷっ、、、あ、ごめんなさい」
「ああ!笑ったな〜。ん。でも、それもアリアのダメな所かな」
「あ、笑ってごめんなさい」
「違〜う。そっちじゃないわよ。謝る、、、っていうか、敬語もよね」
「で、でも、まだ会ったばかりだし」
「私、アリアに会った直後からこの話し方よ?それに、さっきはちょっとだけ、敬語じゃなかったわよね?あれ、良かったわよ?ボクっ娘もだけど」
そ、そうだったっけ。
必死に考えてたから、言葉遣いが分からなくなっている。
でも、いいのかな?
ボクっ娘って言うのは、何となく避けた方がいいのかもしれないけど。
「あ、あの、アニエス。話し方、、、変えてもいい?」
「うん!もちろん!その方がいいわ!」
「はい、あ、、、うん!」
「、、、あ、、、あれ?はは、おっかしいなぁ、、、」
「え?」
「ううんううん!何でもない何でもない!」
どうしたんだろう。
アニエスはさっと後ろを向いてしまって一瞬しか見えなかったけど、顔が真っ赤になっていたように見えた。
忙しかったから熱でも出てきた?
「アニエス!熱?熱?ねぇ、体調悪いの?風邪?ねぇ」
「ふふっ。言葉変えたら急に懐いた感じになるのね?」
「え?そ、そうですか?、、、あ、じゃなかった、そうかな?」
「ふふふふっ」
何で笑うのさ。
あ、でも、さっきまでの暗い感情が無くなってきたかも。
まだ、役に立っていないって言う後ろめたさは残っているけど、ポンコツアニエスとどっこいどっこいなら、まだ気が楽だ。
「アリア〜?今、わたし、アリアに馬鹿にされた気がするんですけど〜?」
「してないです、、、してないよ!ポンコツなんて思ってな、、、あ!」
「してたな〜!ってかポンコツって何よ!失礼ね!そう言う奴はこうだ!」
「うひゃあ!待って、くすぐらないで!ふひぃ!うはははは!うは!ま、待って!ひぃん!ふは!は、、、」
「ああ!ごめん!やりすぎたあ!」
こ、これはこれでまずい。
仲良くなれても、こうならないようにしないとだ。
そう考えながら僕はぐったりと倒れ込んでしまった。
は!ここは?!白い部屋?!僕死んだの?
あれで?あのくすぐりで?
、、、あ、違う。白い部屋ではあるけど、普通の部屋だ。
まだ生きてた。
流石に死因は女の子にくすぐられたからです、とか無いよね。
「、、、、起きた、おはよ、、、」
「あ、おはようございます、、、じゃなかった。お、おはよう、エステル!」
おう、エステルにびっくりされた。
まあ、急に話し方変えたら驚くか。
「アニエスに担ぎ込まれたから、、、、びっくりした」
「あ、ごめんなさい、、、ごめんね。でも、悪いのはアニエスだから。あんなにくすぐるんだもん」
「おおおお、、、、このアリアも、、、いい」
「え?何???」
たまにエステルは、よく分からない発言をする。
「あら、起きたのね?体調は大丈夫?」
フェリシーが部屋に入ってきた。
「はい、、、うん。大丈夫で、、、だよ」
「ぎこちないのも、、、、またいい」
「もう、エステルったら。アリアは気にしないでね。コレはこう言う生き物だから。生態だから」
「う、うん、、、?そ、そう」
「無理しないでいいのよ?少しずつでいいんだから」
「あ、アニエスに?」
「ええ、聞いたわ。言葉遣いなんて、気にし過ぎたらダメよ。もっと気楽に、ね」
「うん」
また少し気持ちが楽になった。
2人共、僕の事を気に掛けてくれているみたいだし、僕に歩み寄ってくれているのが分かるから、嬉しい。
翌日になり、昨日売れたお金でもっと材料を仕入れてきた。
今日はもっと売れると思う。
そして、今日こそ皆んなの役に立ちたい!
そこは何としても達成したいん、です!
「アニエス!私も!何かするよ!」
「それなら、宣伝を」
「違うのがいいの!アニエス!私は!違うのがいいの!」
あれ?なんかワガママな子になってないか?僕。
「ん。ワガママっ娘にはこの仕事を与えよう」
「あ、その、ワガママとかじゃ、なくてですね?」
「敬語」
「あ、、、、あの、、、、ワガママじゃないのよ?」
あ、あれ、、、話し方難しいな。
女の子の言葉遣いって敬語じゃなくだと、慣れないから話しづらい。
結局、出来た商品をお客さんに手渡しする、というアニエスのポジションを任された。
ポンコツアニエスポジションかあ。
まあ、これなら、余裕だね。
「あ、あり、ありがと、ごじゃました、、、」
どどどど、どうしよう。
意識すると緊張してしまう。
アニエスに笑顔でね、とか言われたら余計にガチガチになってしまうよ。
でも、ようやく得た仕事だから、、、宣伝も仕事だけど、あれは僕向きじゃないから、こっちが本業だから!
だから、頑張る!ちゃんと役に立つ!
「お?アリアもだいぶ慣れてきたんじゃないのか?」
「そうねぇ、もうちょっと力を抜いても良いわよねぇ」
クロードやフェリシーの声に励まされる。
うう、こうじゃなくて、もっと頼れる存在になりたい。
「おうおう?何だこの店は?誰に許可を取ってここに出してるんだ?」
なんか変なのが来た。
3人組のガラの悪そうなおじさん達。
1人下っ端みたいなのが、変な歩き方でこっちに来る。
もっと普通に歩けばいいのに。
「おい!オメエら、この辺りを仕切っているマルレロさんの許可は取ってるのかあ?」
「あ、いえ、そういうのは取ってないです」
「ああん?テメエ舐めてんのか?」
「カントゥ、まあ待て、見ればまだ子供じゃねえか。ガキ相手にそうイキるな」
「へ、へぇアニキ、すいやせん」
何だこれ。
演劇でも始まったのか?
「ああ、ウチのワケェモンが悪かったな。だが、ここで商売するってぇんなら、ウチもハイどうぞという訳にはいかんのでな」
「やめろ、、、という事ですか?」
「いやいや、商い、いいじゃねえか、随分繁盛してるようだしな、どんどん稼いでくれや。その代わりな?分かるだろ?みかじめってヤツだよ」
「お金、、、ですね。分かりました、いくらですか?」
「まあ、これだけ稼いでるなら、日に大銀貨5枚って所かな」
「な、そ、そんなに持っていかれたら、儲けが無くなってしまいます」
毎日5万ブランとか取られたらここで商売をする意味が無いじゃないか。
「ああん?払えねえって言うんか?」
「で、ですが、金額が」
「文句言うんなら、こうしてやる!オラァ!」
あ!下っ端のカントゥとか言う奴が屋台に蹴りを入れて壊し始めた。
お客さん達はそれを見て、みんな逃げてしまう。
「ちょっと、おじさん達!何するのさ!」
カントゥの前に出る。
「ア、アリア!ダメ!退がって!お願い!」
後ろでアニエスが何か言ってるけど、それどころじゃない!
せっかく皆んなで作ったのに!せっかく皆んなと打ち解けてきたのに!
ちょっと頭にきてるんですけど!
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