第九話 再会敵

怖い女の子だったな。

あっちには行かないでおこう。


走りながらは危ないから、見つけては回り込んで冷めるのを待つ、という面倒だけど、確実な方法で討伐をら繰り返した。

安心安全が第一だよね。


この辺りのニクロムヘビは狩り尽くしたみたいで、全く出会わなくなってきた。

さっきの子に会うのも嫌だから、あ、いや、悪いからマルネの町に戻って、依頼完了の報告を出しに行こう。


町に戻り、冒険者ギルドへ向かうと、ギルドの前で何か騒ぎが起きていた。


「ごめんなさいって言ってるのだから、いい加減解放してくれないかしら」

「んだとぅ!俺らは謝ってほしいんじゃねえんだよ。アンタがダメにしちまった、このヘビの皮を弁償しろって言ってるんだよ」


さっきの女の子だ。

揉め事かな。


「それは無理。わたしはお金が必要なの、早急に。それに謝りはしたけど、その皮は元々わたしが先に戦闘に入った獲物なのよ。それをあなた達が横取りしたのよ」

「戦闘って言ったって、ただ睨み合ってただけじやねぇか。それにな、トドメを刺した奴が倒した獲物の所有権をもつんだぜ。一太刀でも入れてりゃ横取りとも言えるけどよ。あの状況じゃ俺らがアンタを助けたとも言えるんだぜ」


どうやら一匹のニクロムヘビを巡って、獲物の取り合いになっているらしい。

それで、取り合い中に討伐部位の皮を破ってしまったみたいだ。

あんまり関わりたくないなぁ。どうしようかなぁ。


「グダグタ言ってるなら、ギルドのねえちゃんに間に入ってもらうぞ。ほら、こっち来い。ギルドの中に入るぞ」

「ちょっと、離して。腕掴まないでくれないかしら」


うあぁ、もうなんとでもなれ!


「す、すみません。あの、その子の腕を離してあげて、く、くれませんか」

「なんだぁ?関係ねぇボウズは引っ込んでろい」

「関係あります。その子と僕は知り合いです。困っているのは見過ごせません!こ、これで代わりになりませんか」


さっき自分で取ってきたニクロムヘビを4匹分差し出す。


「あ、いや、破けたのは1匹だから、そんなにいらねえよ」

「いえいえ。ご迷惑をお掛けしたお詫びの気持ちです。

是非お受け取り下さい」


そ、そうか?悪いな、と言って受け取り行ってくれた。

殺気立っていたから、怖かった。


「なんの真似?やっぱり口説いているつもりなのしら。はっ!さっきのあの連中に実は裏でお金を渡していて、この流れにする計画?」

「無いから!そんなことしないから!誘うなら普通に誘うから」

「やっぱり口説いているのね。ごめんなさい。わたし、あなたみたいに弱そうな人は、タイプじゃ無いの。かと言ってさっきの人たちみたいなのもお断りだけど」

「口説いていないんだってば…。知った顔の人が困ってたから助けた。それだけ!他意はないから。じゃ僕はギルドに用があるからいくね」


早めに切り上げよう。そう思っギルドに入ろうとして、袖を掴まれた。


「あなた、この町のギルド会員かしら?わたし、この町は初めてだから、勝手がわからないの。その、クエスト?というのをしたから、報酬が欲しいのだけど…」


ええぇ。この分じゃ最初の受付用紙も出していなさそうだな。


「もしかして、クエスト初めて?受付とか出してないのかな?」


僕も今日が初めてのクエストだけど、この子よりは分かってるつもりだよ。

話を聞いたら、やっぱり初めてで何も知らずに、依頼書を見て討伐部位さえ取ってくれば良いと思っていたらしい。

後からでも受付をすれば良いらしいけど、会員証を宿に置いてきているとのこと。

取りに行けばと言っても、急いで報酬が欲しいから、代わりに貰ってきて、という。

なんだか、怪しいなぁ。どこまでが本当の事なんだろう。

でも、まあ、かわいい女の子に頼まれたら、男なら断るなんてできないよね。

こっちが損する訳でもないし、ヘビの皮を預かって僕の分と一緒に完了報告のカウンターに向かった。

完了報告は討伐部位が小さめであれば、カウンターの横が上に開いて、中に入れる。

そこにある査定用の箱に討伐部位を入れるのだ。

さっきの女の子から預かった皮と僕が取ってきたものを一緒に箱に入れようとしたところで、ふと気付く。


「あの、こっちとこっちは別々に査定してもらえないですか?一緒に行った人の分なんですけど、急用ができてしまって…」


本当はいけないんですけどね。ってウィンクされた。

そういうの、勘違いするからやめて欲しいです。

でも、別々に査定をさてもらえそうで良かった。

会員証と冒険者手帳とクエストカードを渡して査定を待った。


数分後、無事査定を終えて、査定結果証というのを2通貰った。

花柄のケースごとクエストカードは回収されて、会員証と冒険者手帳が戻ってきた。

冒険者手帳には


イライホウシュウ 12000

イライホウシュウ 8000


と2つに分けて書かれていた。


カウンターのおねえさんに裏のポイントはまとめた方がお得なので1回分にしておきましたよ、と言われて、なんのことだろうと、冒険手帳を裏から開いて見てみる。


イライタッセイ 10p


依頼を達成すると、冒険者ポイントというのが溜まって、裏面に書かれていくらしい。

今回のは、10匹でポイントが付くから、丁度まとめた方が得になるからと、おねえさんが気を利かせてくれたみたいだ。


5番窓口の「5 お預け入れ お引き出し お振込み」に会員証と冒険者手帳を出してあの子の分と自分のは半分だけ引き出す。

あの子の分が8000フォルク、フォルク銀貨8枚だ。


外で待っていた、あの子に銀貨8枚と、証拠としての検査結果証を渡す。


「助かったわ。これはお礼よ」


そう言って銀貨を1枚返してくる。


「いいよ、これくらい。ついでだったから、僕はほとんど何もしていないし。お金、必要なんでしょ」

「そう。ありがとう…………」


あれ?銀貨は受け取ってくれたけど、なんか黙り込んじゃった。

これって、僕が何か言わないといけないのかな。


「わたしのこと、そんなに狙っているのかしら。報酬の事は感謝しているわ。でも、申し訳ないけど、わたしはそう言うことに時間を費やす余裕が無いの。いきなり押し倒すような人もお断りします」


別に元々そういうつもりじゃないんだけど、敬語でお断りされるっていうのは心に来るなぁ。


そのまま、あの子は行ってしまった。

あ、名前聞き忘れた!

まあ、もう会うことも無いか。

後ろ姿が見えなくなって、さあ、部屋に帰ろうと振り返ったら、氷のような笑顔のレティがすぐ目の前に立っていた。

あ、あれ?

僕は今日死んじゃうの?




レティは今、笑顔だ。

それはもう、ニッコリとした飛び切りの笑顔だ。

だけど、眼の奥が氷のように冷たく光っている。


「あ、あれ、レティ。ど、どうしたのかな。ギルドに用事?あ、職員だもんね。用事くらいあるよね。あ、僕は先に帰ってるから、レティは用事を済ませておいでよ」


男というものは、やましいところがあると早口になるものなのだろうか。


「リンくーん。ふふふっ。キミ、今何処から出てきたのかなー?その後、女の子にお金を渡したように見えたのよ?

かわいい子だったねー。その歳でもう女の子に貢いでるのかな?そうなのかな?私って、もしかして、遊ばれてるのかな?ふふふっ」


あれ、おかしいな。途中から違う方向に怖くなってきた。


「ち、違うんだよ。レティ。あれは報酬を代わりに取ってきてあげたんだよ。あの子の名前もしらないしさ」

「名前も知らない子のお金を取ってきてあげたんだー。かわいい子だもんね。あんな子になら騙されても仕方ないかなー」


だめだ。どんどんおかしな方向に行きそうだ。


「レティ。僕は君の事を一番に考えているんだ!他の子と比べるまでもないよ。さっきの子は本当に何でもない。困っていたみたいだから、手伝っただけなんだ」


うああぁ、僕も変な方向に言い訳言ってるよ。


「いち…ばん…。そ、そう。し、仕方ないわね。困っていたのだったら、助けないとね!」


あぁ。これで何とかなるのがレティなのか…。

助かったか?


「それで?キミが、ギルドから出て来たことの言い訳を聞かせて貰える?」


ダメだった。

こっちは完全に僕が悪いからね。

必死で謝りました。


部屋に戻ってきてからも、レティの機嫌はまだ回復していない。


「ふうん。私言ったよね。危険だから冒険者ギルドはやめてねって。生産者ギルドが良いよねって。それなのに、もう登録もして、クエストもしちゃってるのって、どうなのかな?」


ううっ。やっぱり黙って登録したのはまずかったかな。


「ふぅ。もー。仕方ないなー。そういう、やんちゃなところもかわいいんだけど…。ああ、私甘いのかなー。っていうか、惚れた弱みかー」


最後の方は声が小さくてよく聞こえなかった…気がする。

何とか許してもらえたみたいだ。

無事クエストも達成できてこともあって、そのまま冒険者として残っても良いことになった。


「私が受付だったとしても、ちゃんと職員として対応しますからね。公私混同は禁止です。あ、でも、うちのギルドは比較的気さくに対応する方針だから、話し方はあまり変わらないかも。だからといって、普段みたいに私とイチャイチャしたくてもダメよ」


普段からイチャイチャはしていません。

とは言えない。さっきの笑顔が蘇りそう。


冒険者ギルドの事もばれた事だし、最初の報酬でお詫びの意味も込めて、夕食は外食に誘ったら喜ばれた。


この辺りには高級感溢れる雰囲気の良いお店は無い。

わいわいとお酒を飲みながら、みんなで食事を楽しむようなお店に来た。

食事をしながら、冒険者登録の時のことを話す。


「冒険者登録の窓口はエミィだったんだ。ううっ、ばれた時が怖いなー。今度、話しておくけど、一緒に住んでる事は言っておかないといけないと思うのよね。あとさ、わ、私たちの関係だけどさ。その、ここここ、こい……び…。ううん。親戚。いとこって事にしない?そう、いとこなら、一緒に住んでてもおかしく無いしね」


レティとの関係をはっきりしないのは、なんだか申し訳ないけど、まだ10歳の子どもにそこまで責任は取れないよ。

レティもその辺は分かっているから、あまりはっきりとは迫って来ないんだろうしな。


「あのお金を渡していた女の子は、本当に知らない子なのよね」

「クエストの時に森で一度出会ったんだ。それで顔は知ってたんだけど、名前も聞いていないし、会ったのもその2回だけだよ」


浮気を責められている気がするのは、きっと気のせいだな。


「ギルド会員証は宿にあるって言ってたのよね。だから、リンくんに代わりに報酬を取って来て欲しいと。何かあるわね。その子。会員証を普段から持ち歩かない理由はないわ。身分証明書になるから、持ち歩かないほうが損をするもの。あの子は元々持っていないわね」


つまり、ギルドに登録していないか、紛失してしまったか。

クエストの事を詳しく知らないみたいだから、登録をしていないほうだろうな。


「私もそう思うわ。でもそれなら登録してしまえばいいのに、それをしない。それは、理由があるから」

「過去に犯罪などの経歴があって、ステータスに賞罰が付いているとか?」

「いいえ。冒険者登録にステータス・ウィンドウは要らないわよ。リンくんも登録の時に求められなかったでしょ」


そう言えばそうか。

もし、求められていたら、困っていたところだな。


「じゃあ、登録出来ない理由っていうのは?」

「犯罪をしているか、または、その逆ね」


あれ?さっき犯罪はないって。


「過去、じゃなくて、今よ。今、現在進行形で犯罪中で、指名手配されているってこと。指名手配犯は、ギルドのカウンターの外からは見えない所に似顔絵と犯人の特徴が書いてある紙が貼ってあるのよ」


そういうのがあるのか。

だとすると、ばれるのを嫌がって、ギルドに入れなかった、って可能性があるな。


「その逆っていうのは?」

「簡単に言うと偉い人、ね。お忍びで来ているけど、ギルド職員にはもしかしたら顔が知られている程度には有名な人。上級貴族のご息女とか、あとは、王女様とか」


そう言われてみると、あの睨んだ眼の雰囲気とか、偉そうな話し方とか、王女とかもあり得るのかも。

それならもう会うことも無いし、問題ないかな。


「そうね。もし王女様とかなら、今日限りのちょっとしたおふざけでしょうから、放っておいても良さそうね。でも、あと一つ、別の気になる立場の人がいるの」

「王女より危うい立場の人ってこと?」

「そう、人族以外の要人よ。例えばエルフ族とかドワーフ族とか、そういうの」


そういった別種族の姫様とかだと、外交問題もあるだろうから、下手に騒ぎになるのもまずいのか。

あの子、人族だと見かけないような、不思議な髪と瞳の色をしていたし、それが一番あり得そうだな。

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