第83話 この人は……です
私とジェード様の婚約式が取り交わされた後、嬉しい反面緊張で気疲れしてしまった私は部屋に戻りぐったりとソファにもたれ掛かった。
まさか朝早くから起こされて婚約することになるなんて思わなかったわ………嬉しかったけど……なんか疲れた…
マリーを呼んで甘いお茶でもお願いしようかとソファから立ち上がった瞬間、不意に部屋のドアがノックされる。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
タイミング良くマリーかメアリーが来たのだろうと気軽に返事をしたが、入ってきたのはジェード様だった。
無意識に背筋が伸びる。
「お疲れのところ申し訳ありません」
「い、いえっ!そんなことないです!驚きましたけど…う、嬉しかったので…」
言葉を紡ぐほどに恥ずかしくなってしまって口ごもってしまう。
するとジェード様は私の方に近付いて視線を合わせるように膝をついた。
「…アリス様、今更ではありますが…本当に私の申し出を受け入れてくださるのですか?」
そう尋ねる不安そうな声に顔をあげるとジェード様は眉を下げてこちらを見詰めている。
「私は以前アリス様からの想いを拒絶しました、にも拘らず貴女は私の想いを受け取ってくださった。その事がまだ夢ようで…一晩たてば消えてしまうのではないかと思ってしまうのです」
私がこの出来事を夢なのではないかと疑うように、ジェード様もまた今の状況を現実だと実感できてないのだろう。
意外と、私とジェード様って似た者同士なのかも…
そう思うと今まで以上に彼に対して愛しさが込み上げる。
「私も…夢のようで実感が沸かないのです、でも…確かに私はジェード様をお慕いしています。だから…現実だと実感出来るように、私をずっとジェード様のお傍に置いてください」
そう告げてそっと腕を伸ばし、膝をついたままのジェード様の首に腕を回して抱き付く。
ジェード様が驚いている気配がした。
好きな人に抱きつくとか正直恥ずかしすぎて噴火できそうなくらいドキドキしまくってます!!
何これこんなにハードル高いの!?
軽率に抱き着いた私の馬鹿!でも仕方ない、他に手立てが思いつかなかったんだもの!
羞恥に耐えていると、背中が急に暖かくなる。
気が付けば私の体はジェード様の腕の中にあり、しっかりと抱きしめられていた。
「もちろんです、ありがとうございます」
耳元で聞こえてきたその声は今まで聞いた中で一番嬉しそうな声。
「そ、それで……あの…ジェード様にお願いがあるのですが…」
いつまでもぴったりとくっついてる訳にもいかず顔が見える程度に離れるけれど、ジェード様は私の背中にしっかりと腕を回しているので一定の距離以上離れられない。
寧ろ離すつもりがないのかにっこりと微笑みながら「なんでしょう?」と首をかしげられる。
あ、あれ……なんかこれっていちゃついてるカップルみたいじゃない!?
いや、こ、婚約したわけだし……!問題はないのかもしれないけど!!顔が見えない状態よりも恥ずかしい!!
顔が赤くなるのを感じながら目を反らしつつ私はお願い事を口にした。
「その……婚約者…なのですから…名前で…ふ、二人の時だけで構いませんから…アリスと呼んでいただきたいのです」
言ったー!!!ついに言ったよ私!!!
ピンチの時に駆けつけてもらって多分無意識のうちに呼び捨てされることはあったけど、普通に呼び捨てされることは当たり前だけど無かったもの!
婚約者だし、そのくらいは許されるよね?ねっ?
顔色を伺うようにジェード様を見れば、ジェード様は私の背中に回していた腕をそっと離し頭を抱えてしまった。
やっぱり駄目だった!?
婚約者といえど王女相手にそんなこと出来ませんとかいわれちゃう!?
「あの、ジェード様?」
黙り混んでしまったジェード様にハラハラしながら声をかけると、彼はゆっくり顔を上げ私の手を取りその指先に小さく口付ける。
思わず息を飲めばくすりと笑われた。
「……貴女が望むのならば喜んで。私のアリス」
名を呼んでくれるその声があまりにも艶めいていて優しくて。
今まで聞いたことのないジェード様の色っぽい声に情けなくも私は腰を抜かし、座り込んでしまうのだった。
この人は攻略対象じゃありません!
攻略対象者以上に素敵な私の婚約者です!
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