第82話 婚約です
後日、私は母と兄から父が私の為にいろいろ働きかけてくれていた事を知らされた。
ジェード様の本心を探ったり、公爵家との婚約の話を事前に断っていたり…私の知らないところで本当にいろいろやっていたようだ。
兄曰く「父上は家族の中でも一番アリスに甘い」との事。
結果的にジェード様と結ばれる事になったのだから嬉しいし、ありがたいのだけれど王女としては少し心配になってくる。公私混同しまくりじゃねーか、と。
万が一、父の気が変わってしまうと困るので口には出さないけれど。
そこから何事もなかったかのように数日が過ぎていき、剣技大会での事は夢なのではないかと疑い始めたある日の朝。
私は早朝からマリーに起こされて真っ白なドレスへと着替えさせられていた。
「ねぇ、マリー…そろそろこんな朝早くに起こされて着飾られてる理由を説明してほしいんだけど…」
「あら、お伝えしてませんでしたか?」
「全然」
私が首を横に降るとマリーは苦笑を浮かべた。
「申し訳ありません、私としたことが……実は昨夜、陛下は姫様の肖像画を残したいと急に思われたそうで…朝早くから姫様を完璧に愛らしい姿に着飾っておくようにとお命じになりまして…」
「お父様が……?またなんだって肖像画なんて…」
少し呆れながら呟くとマリーを手伝っていたメアリーが微笑む。
「子供時代はあっという間に過ぎてしまいますから、そのお姿を残しておきたいと言う親心ですわ」
「親心ねぇ…」
前世でも現世でも結婚した経験がないのでわからないがそんなものだろうか。
そんな事を考えているうちにマリーの手によって私は見事に変身していた。
髪は後頭部の辺りで結い上げられて編み込まれ、真っ白いドレスと合わせるとまるで小さな花嫁のようだ。
「さ、陛下がお待ちですわ。参りましょう」
マリーとメアリーに案内されて城の中を進む。
暫く進むと何故かパーティー等で使われる大広間の扉へと案内された。
何故こんな大広間で……?
絵の具の臭いが籠ると良くないから、とか?
不思議に思っていると大広間の扉の両サイドにマリーとメアリーが立ち、こちらを向いて微笑んだ。
「姫様、今日は本当にお綺麗です。このマリー、今後とも姫様の幸せを願っております」
「どうか……今度こそ大事に思う人と幸せになってください」
それぞれの言葉に余計に頭にクエスチョマークが浮かぶ。
「それって一体どういう―――」
私の言葉は開かれた扉の向こうの景色によって遮られた。
大広間は結婚式場のように飾り付けられ、騎士団の人達やお城で働く人達が拍手で私を出迎える。
扉のすぐ横には兄が正装で立っていて、その先には同じように正装した両親と母に抱かれた幼い弟がいた。
そして両親の手前には白い軍服を着たジェード様がいてこちらを見詰めている。
「アリス、お手をどうぞ」
手を差し出され唖然としたままその手を取れば兄は私を誘導しながらジェード様の元へと歩き出す。
「あ、あの…お兄様…これは一体……」
「…アリス、本当に綺麗になったね…ジェードにやるのがもったいない。寧ろやりたくない、今からでもさらってしまいたいくらいに綺麗で可愛いよ」
褒めてくれるのは嬉しいけど会話が成立してません!!
さらに困惑する私の問い掛けに答えることなく、兄は私をジェード様の前までつれていくと私から手を離した。
「ジェード、ここからの役目は仕方なくお前に譲ってやる。仕方なくだ、いいな?私の可愛いアリスを泣かせたら今度こそ血祭りにあげてやる、覚悟しておけ」
物騒な兄の言葉にジェード様は苦笑浮かべた後しっかりと頷いた。
「心得ておきます、ダニエル殿下」
兄が離れると入れ替わるように両親が私達の正面に立った。
「アリス、とっても綺麗よ」
「……ありがとう、ございます。お母様…けれど、これは一体……どういう事なのでしょうか?」
私が首を傾げると母はにっこりと微笑んだ。
「ふふっ、驚いたのなら成功したわね。これは貴女の婚約を認める場なのよ」
「こんやく…」
口にしてから言葉の意味を理解した私はばっと父の顔を見上げる。
父は眉を下げて少し情けない顔で微笑んでいた。
「もっと大々的に出きればよかったんだが…アリスを驚かせたくてひっそりと用意させた。今日から正式にお前達の婚約を国王として認める事とする。アリス、ジェード、異論はあるか?」
父の言葉にジェード様は「異論などありません」と告げると私に向き直りまっすぐにこちらを見詰める。
「お付き合いからのつもりでしたが…陛下に折角このような舞台を用意していたので、段階を飛ばしている気もしますけれど…伝えさせてください………アリス様」
「…はい」
名前を呼ばれ無意識に背筋が延びる。
ジェード様が言おうとしている言葉に期待しているのか、私の鼓動は速度を増す。
「貴女を心からお慕いしています、どうか私と婚約していただけませんか?」
その言葉にじわりと胸が熱くなる。
きっと私は耳まで赤くなっているに違いない、それくらい顔も耳も熱い。
「……っ、はい、もちろんです」
私が確かに頷くと集まった人々から一気に歓声が沸き上がったのだった。
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