SS もふもふとの出会い‐メアリー視点

最初は黒い毛玉だと思った。

城下町の路地裏に誰かが捨てた埃にまみれたモップなのかと。


まったく、こんなゴミを街中に捨てるなんて。


そう思い処分しなければと持ち上げようと手を伸ばし気が付いた。


それはモップではなく、子犬だと。


毛玉の隙間からつぶらな瞳がこちらを伺っている。


「…お前、捨てられたの?」


言葉なんてわかるわけないと思いながら訪ねてみれば子犬は寂しそうに顔を伏せた。


「そう…なら私の部屋に来る?」


私に与えられた部屋は姫様付きの侍女という立場から一人部屋だ。吠えないように躾ければ他の人の迷惑にはならないだろう。

けれど一応侍女長に許可を取らなくては。

そう思いながら声をかけてみると子犬は暫くこちらをじっと見つめた後、わふんと鳴いた。

来る、という意思表示なのだろうか。

そっと手を伸ばし抱き上げると買い物用に提げていた籠の中に入れてみた。子犬は抵抗することなく収まってしまう。


あらやだ可愛い。


「お城につくまで我慢してね」


子犬にそう告げると聞き訳がいい子なのだろう、そこから城について侍女長に許可を得るまでじっと大人しくしていたのだ。侍女長も大人しい子なら構わないだろうと許可してくれた。

私は少しだけ時間を貰い桶に水を汲み、子犬を綺麗に洗った。そして城の厨房から残り物を少し拝借し与えると子犬は一心不乱に食べ始めた。よっぽどお腹がすいていたのだろう。


「名前を考えないといけないわねぇ…そうだ、セバスチャンはどう?」


思いついた名前を告げてみれば子犬は先程まで食らいついていた餌から顔をあげて嬉しそうに「わふ!」と鳴いた。


「よろしくね、セバスチャン」


これが私とこの子の出会い。

意外にもセバスチャンはかなり賢く、人の匂いを覚えさせればその人の居場所を特定したりすることが出来たし私が教えればなんでも覚え、吸収した、そんなセバスチャンが私の諜報活動の相棒になるのはまた別のお話。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る